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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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218.闇市到着

「ここら辺かな…………」


 闇市と呼ばれるエリアに入って少し歩き、大吉さんは様子をうかがいながらわたし達を脇道へと誘導した。


 どんな音が聞こえても、全く動じていなかった大吉さんを思い出しながら、ひとまずわたしは深呼吸をし、自分に言い聞かせてみる。


 大丈夫、自分に降りかかってくる災難だけにとりあえず気を付けるのよ! 大吉さんの真似をするのよ……!


 そこに着くまでにどこからか飛んできたビール瓶を手でキャッチして、道の脇にそっと置いていた大吉さんの姿を思い出しながら…………


 無理! わたしはせいぜい避けるので精いっぱい!


「さて、ここまで来たならピンポイントで場所はわかるか?」


 大吉さんがそう問いかけると、籐騎くんは自分からわたしの手を離して言った。


「少し待って」


 そう言って、服の上からアーティファクトを握りしめ、深呼吸をしてから唱える。


探索(サーチ)!」


 すると籐騎君の胸の前あたりに、こぶし大の光る球が出現した。彼がそれを両手でさっと覆ってからふわりと広げると、光は薄く球は大きくなり、直径一メートル程の球体となった。


 球体は東西南北と上下の表記がついていて、なるほどこれは分かりやすい。


 クゥさんの敵意レーダーの立体版みたい、と思いながらよく見ると、球体の中に一つの白い光の点が見えた。


「この白い光が神器のある場所だよ。」


「一キロ圏内ってことは、この中央が籐騎で、球体の一番外側がここから一キロってことだな?」


「そう。球体の外にあるなら、矢印がでてその方向を教えてくれる」


 光りの点は球体の端っこにあり、とくに動いているようには見えない。


「方角、距離的にこの闇市の奥の方だな……。位置は覚えた、もうしまっていいぞ。

 近くまでいったら光でわかるか?」


「わかるよ。可視化終了!」


 籐騎くんの言葉のすぐ後、光りの球はふっと消えた。


 わたしも多分、わかる。


「じゃぁ、サインを決めておこう」


 そう言って、大吉さんはハンドサインなるものをわたし達に教えてくれた。


「ゼロ距離、目の前って時はこう、親指も中に入れたグー。

 すぐ目の前に、っていう時は人差し指だけ伸ばし指先で方向を示す。示す際、必ずゆっくり数えて三秒は方向を固定すること。

 指一本二本で、近づいてるか遠ざかってるかを示す。

 籐騎、利き手はどっちだ?」


「左手だけど……」


「常時はそのサインを右手で行え。

 余裕がなくなった時は利き手でいい」


「なんで?」


「思考を鈍らせないためだ。利き手でない方でサインを出せる、ということはまだ余裕があるということ。有事の際、思考に少しでも余裕がある者の方が局面をよく読めるからな」


 なるほど、意識的に常に余裕を持てるようにする訓練のような物かな、と思いながら自分の記憶にメモを取るように刻み込む。


「ちなみに俺の利き手は右だ」


 そう笑顔で言う大吉さんだったが、わたしは大吉さんが余裕をなくすような事態には会いたくないな、と思った。


 それは……とてもわたしにはどうにもできない事態だろうから────


「さて、闇市の奥の方は危険も増す。お互い名前は呼ぶな」


「じゃあ、話しかけたい時はどうしたらいいんだよ?」


「敬称でいいだろ。おに……おじさん、おねーさん、少年」


 自分を指しておにーさんと言おうとしてわざわざ言い直す。

 多分、藤騎くんが呼びやすいように、と考えてのことだろう。

 その甲斐あって? 緊張した様子な藤騎くんは素直に頷いていた。


「藍華、警戒度を上げておけよ。あと珍しい物、興味を引くものがあっても俺から遅れるな。

 籐騎はハンドサインもだけど、常に俺を気を付けて見ておけ。

 あと……逃げる為の()は持ってるな?」


「一応持ってるよ。その場所からここまでくらいは十数秒で戻ってこれる……一人でなら……」


 どうやら籐騎くんは、わたしの心配をしてくれているようで、上目遣いにわたしを見ながらそう言う。


「わたしも大丈夫です。これで身体能力向上できるので」


 そう言って、左手の中指にはめている棒人間の指輪を籐騎くんに見せる。


「大吉が首から下げてるのと同じ感じがするけど……藍華ねーちゃんのそれも、物凄いアーティファクトだね……!」


「ほんと、良く見えてるな。その歳で訓練して見えるようになったのなら相当の努力が必要だったろうに」


 すごいじゃないか、と言う大吉さんの言葉に、籐騎くんは目を少し丸くしてから、照れているのを隠すように斜め下を向いた。


「褒められても嬉しくないけど……ね……」


「努力は誇っていいと思うよ。 

 もしもの時は、一緒に逃げようね」


 そう言うと、籐騎くんは笑顔でこちらを見て頷く。


 何かあった時の集合場所を、近くにあった小さなお社に決めて、わたし達は闇市の奥へと進んでいった。


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