216.レジンアレルギーと、完成ドラゴンブレスライカ
「どうして表面がベタついてるとだめなんだ?」
研究者の顔をした田次郎さんがすかさず問うてくる。
「先ほど有害なガスが残ってるといけないからと、換気させてもらいましたが…………
レジンは硬化中アレルギーの元となるガスを発生させてしまうんです。それを吸うことでレジンアレルギーというものになりやすくなってしいます」
わたしは知りうる限りの情報を思い出しながら答えた。
「そして、レジンは素手で触れると肌から浸透して同じレジンアレルギーを発症する可能性が高くなります。
アレルギーは御存じですか?」
「あぁ、花粉アレルギーとか、時期が来ると辛いよな…………」
花粉症。ここにもあるんだ。
改めて、自分がとくにアレルギー持ちではないことをありがたく思う。
人によってなる人とならない人がいるようだけれど、何名かのハンドメイド作家さんがアレルギーで製作を控えたり、断念したりするのをSNSで目の当たりにしてきて、わたしはそれが────
『自分にも起こるかもしれないことなのだ』
と常に頭の隅に置いて気をつけてきた。
この場所で、このレジン液での製作がもし広まるならば、外してはいけない情報だと思うので伝えておいた。
「この制作方法が主流になることは……多分ないと思いますが、大切な情報として共有しておきます」
そう言い、わたしは出来上がったカボションの裏を覗き込みながらすっと爪楊枝を差し出した。
カボションの裏の端、出来る限り目立たないところをすっ、と一撫でして確認する。
日がだいぶ高く昇り、室内に差し込む光も十分に強く。つやつやとしたその表面が太陽光を眩く照り返している。
「……どうだ……?」
「傷はつかないようなので……多分大丈夫です!」
念のためそのまま爪楊枝でカシカシとカボション裏をこすってみる。
やはり傷は一つもつかない。
わたしは爪楊枝をカボションの横に置き、右手の人差し指を差し出し、恐る恐る触れてみる。
さらりとした感触。
「…………!…………」
意を決して型ごと持ち上げ、逆さまにしてできたカボションを型から外す。
作業用シートの上なので、音もせず静かに外れ落ちたカボションは────
見事なドラゴンブレスライカとなっていた。
「わー…………すっごい綺麗だね…………」
やったよ! トウマー‼
念のためそのまま数分間太陽光に充て、表面がしっかり固まっていることを確認してから、台座へと接着をした。
接着待ちをしている間に、わたしはもう一つパーツを用意した。
龍石からいただいた彼の欠片で、ビーズを作りペンダントトップの上部にワンポイントとしてメガネ止めで付けたのだ。これで、水晶龍が一人(?)でも動けるようになると思い、紐は茶色の絹糸で先日作っておいた四つ編みの紐を通して……
「完成です!」
「よし、じゃぁすぐ藤騎の追跡につきあうか。
お互い早く帰れた方がいいだろうから」
わたしの手にある出来上がったネックレスを見ながら大吉さんがそう言うと、田次郎さんが言った。
「出発する前に……鑑定しておいてもいいか?」
「もちろんですよ」
龍石、水晶龍の力を上げることのできるドラゴンブレスライカ。わたしが作ったこれも同じ能力を持っているのか、とても気になる。
「では……」
そう言って、田次郎さんがメガネの右側についている飾り部分に触れると、
デジャビュだ。
メガネが光っているその姿が、白衣だっていうことも多分に手伝って夕紀美さんとダブって見えた。
「基本能力は水系能力の増強、か……。コレを使用できるのはダブル使用が可能な人物か、もしくは電池式の水系アーティファクトと、だな……」
多分わたしには使用可能だろうけれど、確かにこのドラゴンブレスライカは、特に水晶龍のために作ったから、そうなったのかもしれない。
「まぁ、悪用されなさそうで安心ですね……」
でもそうなると、何故あの賊は奪っていったのだろうか。二つとも手に入れようとしていたようだし……。
謎が一つ増えてしまった。
「何故奪われていったのか、は能力を知らなかったから、ということかもしれないぞ?」
何を考えているのかお見通しだったようで、大吉さんが言った。
「遺跡にあるアーティファクトだって、なんかすごそうってだけで発掘されてるようなものだしな」
「鑑定アーティファクトは一般的な物ではないからしょうがないだろう。それでもほとんど外れがないのが、アーティファクト発掘の良い所だ。
たとえ能力が低くとも、資材として使えるからな。
藍華のこの今回の方法が解明できたならもっとすごいことになるかもしれないが…………」
そこまで言うと、じとーっとした目で見る大吉さんに気づき、田次郎さんは笑顔で言う。
「おっと、すまないすまない、本音が漏れた」
「まったく……外に一番漏らしそうなのは叔父さん、だな」
呆れた風にそう言うと、ため息を一つついた。
「さて、じゃぁ行きましょうか!」
田次郎さんの研究室を後にして、わたし達は昼食を取りながら籐騎くんのアーティファクトで追跡している先へと向かうことに。




