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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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215.レジン液とドラゴンブレスライカ製作

 十数秒で光は収まり、神器のカボションを入れた右側には、小瓶の横に金属片といくつかの小さな玉のような物が転がっていた。


 金属片は、左側の小瓶横に置いた物と同じ形をしていて、ひとまず神器のカボションが内包していた金属片を分離できたのだとわかる。


 そして転がる玉は、金属片と同じ色をした小さな小さな玉が一つと小瓶と同じ色の茶色い物が一つ。


「ど……どうだ…………? 成功したのか…………?」


「…………まだ……わかりません」


 大吉さんの言葉に、緊張しながら声を絞り出した。


 わたしもすっかりこちらの法則に馴染んできたのか、双葉ーちゃんから書を見せられた時、すぐにこの方法を思いついた。


 この製法でドラゴンブレスライカを作るにはレジン液が必要で、どうやったらこの地でそれを手に入れられるのか?

 レプリカの技術を応用できればレジン液のレプリカを作ることも出来るんじゃないか? と。


 けれど、正直レジン液だけでも様々な種類があって、無事にレジン液化出来るかは賭けだな、とも思った。


 理由は、その種類の多さと『レジン液は基本的に混ぜてはいけない』ということ。


 わたしのいたあの時代では、別々の物を混ぜるのは安全の面からやってはいけない事だとされていた。


 自分は説明書を一読して、禁止事項とされている事はやらないようにしていたのでやった事はないのだけれど、混ぜて作ったものは、固まりきらなかったり硬化後ベタつきが残ったりするらしい。


 そうなった場合の対策も処理方法も考えてはあるけれど……。

 出来上がった時のクオリティの面からも避けたいことではある。


 わたしの持つオリジナルとする液と、資材とさせてもらう液の成分の違いもどのように作用するのかわからないし、そもそも資材とさせてもらうレジンの種類を完成した状態から見分けられる自信が、ない。


 しかしその問題は五人衆のアーティファクトでおそらく解決した。

 このアーティファクトは先ほども述べたように、おそらく作者が同じ。

 そしてこれほどのクオリティで作られたものならば、おそらく同じレジン液が使われているはず……と────


 色々な事柄が脳内を駆け巡るけれど、思案しててもどうにもならない。


 動け、わたし。

 現物を見て感じて考えろ!


 己の意識を奮い立たせ、けれども動きは慎重にゆっくりと、小瓶を手に蓋を持つ。


「……開けます」


 蓋を開けて容器をゆっくりと傾けながら注意深く見ると────見えにくいけれど液体が動いていることがわかった。


 その香りはいつかどこかで嗅いだことのあるような、レジン液の香り。


「……第一段階は成功です!」


 ここまで来たら、後はトウマの書通りに作り、ちゃんと固まるか、べとつかないか、やってみるしかない──!


 そう言って、わたしは別の資材の用意を始める。


「作り方はもう頭に入っているのか?」


 少し下がった位置、というか壁際で腕を組みながら見守ってくれている大吉さんが声をかけてくる。


「……はい……」


 あちらにいた時に、詳しい作り方を聞いたわけではなかったけれど、自分でもあーじゃないか、こうじゃないかと予想していて。巻物に書かれている手順は、まるで答え合わせをしているようで……。


 考え付きもしなかった箇所もあったけれど、一度読むだけで作り方は覚えた。


「大丈夫です」


「な、ところで籐騎はここに居て問題ないのか…………?」


 ドラゴンブレスライカの本当の使い道はともかく、田次郎さんもまだ知らないその製法の特殊さ。

 藤騎くんからこの情報が漏れたらわたしの存在自体が知れることにもなるだろう……。


 大吉さんの心配は、そういうことなのだろうけど、わたしは特に心配はしていない。


「籐騎くんは後の特殊部隊、追跡要員。

 そしてこれから特殊部隊にも不可能だった任務を秘密裏にするんです。守秘義務はもちろん守れるでしょう?」


 言ってウィンクを藤騎くんに飛ばすと、彼は胸を張って大吉さんを見た。


 今回の事は、これからの彼の為にもよい訓練になるだろう。


 秘密を守るという訓練に。



 ◇◆


 そこからは集中して、あちらにいた頃を思い出しながら、作業をした。

 一から作り出す楽しみと、失敗できない緊張感と、織り交ざった感覚を楽しみながら────



 時間にして二時間半。


 十一時に差し掛かる頃、わたしはなんとか一粒のドラゴンブレスライカのカボションを仕上げることに成功したようだった。


「…………多分完成です…………!」


 埃が入らぬようガラスケースに入れ、太陽光がめいっぱい当たるようにカーテンの向こう側に置いた作業台の上をじっとみつめながらわたしは安堵の息をつきながら告げた。


「カーテンも窓も全開にして空気の入れ替えをお願いします!」


 面白いことに、硬化が進むごとにアーティファクトとしての力を持つらしく、内包する光がどんどんと強くなっていくのが目に見えた。終わったと判断したのは、その光の輝きが一定になり落ち着いたから。


 面白かった…………!


 作業台を窓の所から中央テーブルの近くまで動かしてくると、カーテンと窓を開けて全員がガラスケースを覗き込みにやってきた。


「有害なガスが残ってるといけないので、少し離れててください」


 外す前、全員にそう告げて一歩退いてもらい、わたしはガラスケースを持ち上げながら風のアーティファクトを使用した。


「風よ、有害な空気を外に出して」


 ベルトから伸びるチェーンの先に付けているアーティファクトが反応し、室内の空気を外の新鮮なものと入れ替える。


「これで、ケース内で発生したガスは外に出たと思います。あとは──ベタつきが残っていないかの確認を…………」


「どうして表面がベタついてるとだめなんだ?」


 研究者の顔をした田次郎さんがすかさず問うてきた。


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