214.まずは、〇〇〇を作ることから。
「まぁみてろって。すごいから」
大吉さんには昨晩何をするのか詳しく説明してあったので、ワクワクした顔をしながら田次郎さんにそう伝えていた。
そう……わたしは今、規格外に仕上がったレプリカ用アーティファクトで、神器のレジン部分から、レジン液を精製しようとしている。
『トウマの書』の作り方でやるには、今手元にあるレジン液では、龍石と水晶龍の首飾りよりも、随分と小さい物しか作れないとわかったから。
出来上がった物の大きさに、能力の強弱が比例するわけではないけれど、そもそもトウマほどのクオリティでコレを作れる自信はわたしにはなく、同じ大きさで作ったとしても、同じだけの効果が得られるとは──思っていない……。
何故なら、彼女はこの制作方法に辿り着くまで、何度も失敗しながらも研鑽を積み成功させてきたのだろうから──
それでも、出来るだけ同じ効果で、似たような物にしてあげたい。そう考えたから、まずこのレジン液を生成することにしたのだ。
「上手くいったら、今回だけでなく何回かは古の技術をお見せできると思いますよ」
わたしは右手の指にレプリカ用アーティファクトの新しい子を着けながら言った。
絶対に出来る。そう信じながらも鼓動は激しくなってくる。
わたしは緊張しているのだ──
レプリカ用アーティファクト。資材さえそろえれば、外側は原型と全く同じと言っても過言でないものが製作可能。
ただしシートの上に余分な物を置くと、同じ形を取ろうとするところを阻害する力が働き、失敗すると使い物にならなくなってしまったりも、する……。
大事なのはイメージ力。頭の中で正確に、精確に、イメージすることでその質は上がる。
神器のカボションの中に入っている金属パーツをよく見て、田次郎さんが用意してくれた物の中から近い形と質量の物を選び出す。個々の誤差は少なければ少ないほど良い。
選び出したパーツを左側の小瓶横に。右側の小瓶にはカボションを入れて。
「大吉さん、籐騎くん、カーテンを全部閉めてください」
アーティファクトのランプはUV光ではないので、つけたままでも大丈夫だが、太陽光は確実にレジン液を硬化させてしまうので、出来るだけ室内に、この作業台に、太陽光が届かないようにする。
「田次郎さん、部屋の明りをつけて、空調も弱めでいいのでつけておいてもらっていいですか?」
「了解した」
作業部屋というだけあって、様々な環境を作ることのできるこの部屋。
ある作業をするのにはもってこいで、とてもありがたい。
田次郎さんが入り口付近のスイッチで部屋の明りをつけ、空調もつけてくれて、空気が動くのを感じる。
カーテンがすべて閉じられ、二人がテーブルの所に戻って来た時、わたしは深呼吸をして告げた。
「では、はじめます」
レプリカを作る際、オリジナルが壊れてしまう事例はいくつかあるそうで。力量が足りず無理をして精製しようとして起こる事故と、理由不明な事例。これまで自分は幸いその事例には当てはまってこなかったが、今回もそうならないという保証は、ない。
まるで心臓が手についているのかというほどに、指先から自分の鼓動を感じながら、左側の小瓶の蓋を開ける。
ポーチから、逆さにして入れてあった未開封の五ミリグラムレジンのボトルを一つ取り出し、中身を豪快に移す。
たかが五ミリ、されど五ミリ。
わかってくれる人はいるだろうか…………
レジン液を新たに手に入れることが不可能なこの世界で、これをするということは、それこそ清水の舞台から飛び降りるような気持ちなのである────
少し時間をかけて、液が落ちきるのを待ち、わたしは蓋を閉じた。
指先の鼓動が、手を少し震わせていて、大吉さんが心配して声をかけてくれる。
「だ……大丈夫か……?」
「……大丈夫です……色々覚悟は決めましたから…………!」
レジン容器をポーチに戻し、手に付けた指輪に集中し、再び深呼吸をする。
もし失敗したならば、切り替えて小さいサイズで作る。その分想いを込めて作るのだ。
そう心に決めて────
「トレース開始」
少し薄暗い室内で、眩く輝くレプリカ用アーティファクト。
伸びた光は左側、オリジナル側の資材を全て包み込んだかと思うと、そのまま広がり箱のような四角い形をとった。そして数秒後には右側にも伸びて小瓶を包み込んでいく。
「「「……⁉︎……」」」
従来のレプリカ用アーティファクトと違う……⁉︎
従来のは光が一度戻り、資材の方へと伸びるが、この子は両方へ同時に光を伸ばしている。
あっという間にそちらの方も形が変化して、光の箱が二つ並ぶ。
ソレが何を意味するのかはわからない。
わからないけれど、わたしは祈るように目をとじ思い浮かべた。
トロリとしたレジンの液状の姿を、小さな瓶の中に────




