213.五人衆のアーティファクトと温めて変形する資材
田次郎さんが、分けた資材の所にお皿をならべてくれて、これで準備があらかた整った。
「何から始めるんだ?」
「まず、台座から決めようと思うんですけど──」
わたしがそう呟き台座用にと田次郎さんが集めてくれた資材の方へ行こうとすると、並べられた神器の一つがわたしの声に反応するかのように光りだす。
突然光を放ち始めたのは、ペンダントタイプの物で、カボションのベースの色が青のような、緑のような物だった。
恐らく五行の中で、木を担当していた子だろう……。
「君の台座を使っていいの……?」
神器の元へ行き、問いかける。
その神器のカボションは一部を残して砕け落ち、無くなってしまっていた。
全体の三分の一程度が失われてしまっている状態だ。
割れ砕けてしまっているカボションを見ると、胸が苦しくなる……
ただ、台座は金古美で傷もついていないようで、曲がった形跡などもない。
「……藍華ねーちゃんには……何か見えるの……?」
籐騎くんの声に、はっとしてこくりと頷き三人に聞いてみると……
「みんなには……?」
「俺はさっぱり」
「僕も……」
「俺はやんわり? 光がみえる」
大吉さんと籐騎くんは見えないようで首を振り、田次郎さんには少し見えるようで神器を凝視している。
神器の状態を見て、少し考えてはいた。
もし、この子たちが嫌でないのなら……大丈夫な部分はそのまま使わせてもらおうかなと────
「田次郎さん、せっかく集めていただいたカボションベース用の資材ですが、この子のをそのまま使うことにします」
「問題ない。より良い物を頼む」
カボション部分を綺麗に取り外し、せっかくなので取り急ぎ田次郎さんが集めてくれた資材で、そこから台座のレプリカをいくつか作らせてもらった。
神器達を出来るだけバラバラにはしたくないと思ったので、台を使わせてもらう木の子を中心に素材をいただくことにするが、その子の欠けたカボションだけでは足りないので、水晶龍とも相性のよさそうな水担当の子のカボションも取り外し、使わせてもらおうと手に取る。
「ほとんど黄変が見られないのが本当にすごいです…………」
きっとわたしの知らない黄変の少ない素材が出てきたのかもしれないですね……。
出かかった言葉を飲み込んで、わたしは二つのカボションをすりガラスの窓から差す光に翳して眺める。
「藍華ねーちゃん、どうしてその黒いキラキラのやつを選んだの?」
「この神器達はね、五行の力を組んだ能力の物だったみたいなのよ。
だから、この台座を使ってと言ってくれた子と相性の良い子を使おうと思って」
籐騎くんの言葉に、軽く五行の一部を説明する。
「青、緑は『木』。黒は『水』を表すのよ。そして、今から作ろうとしている物は水に深く関係のある子の為に作る物だから、この黒いキラキラのカボションを選んだの。
まぁ、これから精製する時に色はただの透明にしなきゃいけないんだけど……」
これまで使われていたのと同じ方向性の力の方がきっと相性が良いだろう、というわたしの勝手な思い込みだけれど。
「木の子と水の子のカボションサイズは同じみたいね……。田次郎さん、沸騰するくらい熱いお湯を持ってきてもらってもいいですか?」
「お湯? 何に使うんだ?」
「型取りです。この水の子、カボションは少し傷ついているけれど、木の子からいただいたベースにピッタリ収まるんですよ。多分同じ型を使って作られてます。
なので、型を取らせてもらって、台に収まるサイズになるようにつくろうと思いまして」
「わかった、事務所の方から取ってくる。カップ一杯分で良いか?」
「はい!」
返事を聞くとすぐに田次郎さんは取りに向かってくれた。
「型を取る道具なんか、持ってるのか?」
大吉さんの問いに、わたしは知っている知識を総動員して答える。
「簡易的なものなら……ただ、おそらくその型でちゃんと……その形通りの物が作れるのは数回かと思われますが…………」
そう──わたしは資材セットの中に何故か入れてあった、熱すると形が変わり型を取ることができるという物を使おうとしているのだ。
ただ、硬化中発せられる熱でもそれは変形してしまうので、使用限度は一、二回かと思われる。
「そうか……そうだよな……
一から作る場合は、その型がどこかに必要なんだな」
田次郎さんが戻りすぐに型取りを行い、その資材が冷めるのを待っている間に次の準備を始めた。
「田次郎さん、昨日お願いしておいた日の光を遮る容器は……」
「あぁ、用意しておいたぞ」
そう言って部屋内の事務所側にある棚の中から出されてきたのは。
茶色い小さな蓋つきの瓶だった。
「言われた通りに三つ。同じタイプの物を洗って乾かして、『危険物』と記しておいたが……」
「ありがとうございます!」
わたしは色々並べたテーブルの端に、作業台を持ってきて、台の下の収納スペースに掌よりも小さなそれの一つを置き、残りの二つを作業シートの上、左右にひとつづつ置いた。
レプリカ作業では。
ぶっちゃけ余分になった資材は自動で分けられて残る。
そこを凝縮して力を強めたりすることも出来るということで、多くのマスターが色々挑戦しているようだけど、無理をすると作業直後に壊れてしまったりする。
まだトウキョウにいる間、マクラメに取り掛かる前にわたしも色々試して実証済み。
よって、わたしは無理をせず詰め込みすぎない。レプリカ用アーティファクトが導くままに、資材は余らせる方法を取ることにしていた。
「なんだか通常のレプリカ作業とは違うようだが…………」
「まぁみてろって。すごいから」
田次郎さんの言葉に、大吉さんはワクワクしたような声で答えていた。




