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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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212.藍華式製作方法

 時刻は八時半。第三研究室にも数人の研究員がいて、所長室へ通してもらうと。


 そこにはアイマスクをしてソファに転がり、左足が半分落ちてグッタリとした様子の田次郎さんがいた。


「あー……よくきたな」


「叔父さん、もしかして帰ってないのか?」


「そうだー。

 連絡取るのにここから動けんし、一箇所は真夜中に出向いていただいてきたから……な」


 大きな欠伸を一つしながら起き上がり、応接テーブルの上を指した。


「集めた資材はこれな。存分に使ってくれ。そっちは……無事手に入ったみたいだな?」


「あぁ、もちろん!」


「俺もすぐに見に行くから……先にそれ持って行っててくれ……」


 応接テーブルの上に並べられているタグの付いた六つの袋を見て、色んな所からかき集めてきたのだろう事がうかがえ、わたしはお礼を述べた。


「お疲れ様です、ありがとうございます」


「いいってことよー」


「では、さっそく作業に入らせてもらいますね! 大吉さんは神器の箱をそのまま、籐騎くんは、わたしと一緒にそこの物を作業部屋に持ってきてくれる?」


「おう」

「はーい!」


 わたしと籐騎くんは手分けして、所長室手前にある作業部屋へと用意された資材袋を運んだ。


 作業部屋の入り口は、所長室から遠い事務所側にあり、中は所長室までの横長な部屋で、外側の窓からは太陽の光が差して今は丁度良い明るさ。


 しっかり遮光カーテンも付いていて、暗くすることもできるようだ。


 部屋に入ってすぐ左側の所には、壁に沿って背の高い棚が設置されていて、すりガラスの扉がはまっている。

 部屋の奥の方、所長室の方側に、作業台が三つほど並んでいて、その上にはレプリカ作業を行うためのシートが設置されているようだ。


 そして部屋の中央には、両手を広げたよりも大きなテーブルがあり、それを囲うように椅子が並べられている。


「とりあえず中央テーブルの上に、全て並べて出してください。藤騎くんも」


 先に室内にいた大吉さんにそうお願いして、わたしと藤騎くんも持ってきた資材袋の中から全ての物を出して並べていった。


「ここからまず材料を抽出するんだよな?」


「はい」


 大吉さんの問いに、すでに固まっているイメージを思い浮かべながら返事をする。


「藤騎くん、こういう風に分けていってくれる?」


 資材の分け方を説明し、お手本を見せつつ言うと、


「わかった!」


 藤騎くんはどんどんと見せたとおりに分けていってくれる。


「失礼していいかー」


 その時田次郎さんが、作業室の外からガラス戸越しに声をかけてきた。


「もちろん!

 あ、田次郎さん、精製したものを種別に置いておきたいんですが……何か小さなケースをかお借りできますか? お皿とかでもいいです」


「わかった。いくつ必要だ?」


「五つほど……」


 田次郎さんは、持ってこよう、と言って事務所の方へ向かった。


 自分の持つ資材を使えるならば使っても良かったのだけれど、こちらで生きていくのならばこちらの流儀に合わせよう。と、クゥさんのあの三か条を参考に考えていたのだ。


 三か条とは、レプリカを販売する際の物で

 ☆観賞用☆保存用☆布教用、この三つを用意した上で販売する、ということ。


 今回、完品のドラゴンブレスライカが手元にないので、トウマの書から、普通にレジン作品として作ることをわたしは想定し、あの三か条を、資材に当てはめてみようと思った。


 わたしの持つ資材は保存用のオリジナル。

 それを使って資材のレプリカを作り、そのレプリカからドラゴンブレスライカを作る。


 そうすれば

 良い状態の資材はそのまま使われず手元に残り、また他の物を作る時にも使える。


「藍華、神器は並べ終わったぞ」


「ありがとうございます、そうしたら藤騎くんを手伝って仕分けしてください」


 そう言いながらわたしは大吉さんと交代するように並べられた神器の元へといく。

 物はネックレスが二つとブレスレットが二つ、そしてブローチが一つ。改めて神器たちを眺めてみると……

 全てのカボションはヒビが入るか欠けているかしていて、おそらくその破損の影響で力が失われたのだろう…………


 五人衆の使っていたアーティファクトはどうやら同じ作者さんの作品らしく、要所要所に特徴がでていた。


 どのレジンカボションにも、下地部分にメタリックカラーが入っていて、レジン部分に着色はなく封入物が入っている。

 メガネ止めを使ったネックレスとブレスレットは、曲がってしまっている箇所があるし、錆も出ているけれど、チェーンとメガネ止めでバランスよくそれぞれメインのトップ部分を際立たせていたのだろうことがわかる。


 ブローチには、メガネ止めチェーンがおそらく両端をつなぎ、ゆらゆらと揺れるようにできていたのだろう、ちぎれてしまっていたけれど、そのかつての姿が想像できた。


 一体こんなにまでなるのにどんな事があったのだろうか…………


 その使用者と、この神器たちが幸せであったことを願い、目を閉じて手を合わせ黙祷を捧げる。


「藍華ねーちゃん、だいたい終わったよ!」


 藤騎くんから声をかけられ、目を開くと綺麗に分けられた資材の山が目に入った。


 大吉さんもそれを確認し、藤騎くんから見えないよう、こっそりいくつかの場所を変えながら藤騎くんの後ろでオッケーのハンドサインを出してくれている。


「ありがとう!」


 わたしがポーチからそれぞれの元となる素材を取り出し、それぞれを対応する資材の横に置いていくと、


「藍華、この皿でいいか?」


 田次郎さんが、サラダボールのような大きさのお皿を五枚持ってきてくれた。


「大丈夫です! ありがとうございます」


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