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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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211.真面目一徹とカワイイ物

「今日一日だけだぞ……

 それ以降は追跡も解除しその先は政府機関に任せる、そう約束ができるなら追跡することを許可しよう」


 その言葉を聞いた藤騎くんは、驚いたように目を丸くして大きく頷いた。


「ただしこの二人の言うことをよく聞くように」


「ありがとう! お父さん!」


 一連の様子から、藤壱係長は藤騎くんの言を信じていない、わけではないのだと……感じた。


『真面目一徹』


 規則を重視し、己の意見は二の次にして出来うる限りそれに則って行動をする。

 おそらくあの誓約書に隠されている機能は、彼の本意ではなかったのだ。

 藤騎くんのことにしたって、特殊部隊が動くような案件に子供を、藤騎くんを関わらせたくない、と言うのが本音なのだろう。


「怪我のないよう、夕方にはこちらにお連れします」


 大吉さんの言葉に、係長は目を閉じて深く頭を下げた。


「藤騎を……よろしくお願いします」


 それから。

 必要な物を取りに行き戻って来た係長に、籐騎くんは子供用の非常ブザーだという物を腰のベルト部分につけろと言われ、文句を言っていた。


「そんなの必要ないのにー」


「学童を勝手に抜けてきて、しかも本来子供が持っていてはいけないアーティファクトでの追跡を許可したんだ、これくらいはやってもらおう」


 そう言われて、渋々だけど少し嬉しそうにしていた。


「こちらは本来政府御用達の連絡用アーティファクトになる予定の物だが、ちょうどいいから試験運用ということで持っていってくれ」


 なんというか。転んでもただでは起きない研究者魂なのだろうか。


 わたしと大吉さんは緊急連絡用のパーツ、政府からの依頼を受けた証であるアーティファクト(ロケット)の中へと入れる物を差し出された。


 それはまるで陰陽の太極図のようになっているもので、色は黒と白。そして左右に小さな突起がついていて、よく見たら鳥のようにも見える物だった。


「発動すると、片方の鳥が具現化して巣に戻る。具現化したらすぐに鳥に向かって喋ってくれ、時間は三十秒だ。若しくは鳥の足に手紙を付けてくれてもかまわない。その場合手紙は外付けになるが……紐とか何かそういったもので括り付けることも可能だ。ただし鳥の足から落下したら紛失決定だが」


「それって、鳥の足になにかケースの様な物が一緒に具現化したらそこに手紙入れれませんかね…………?」


 話を聞いていて思いつき出たわたしの言葉に、籐真係長は表情を変えずピタリと止まる。


「…………一考しておこう…………」


 そう言い、説明の続きを始めた。


「巣に戻った鳥は、こちらからの返事を持って対となっている鳥の元に戻る。時速十キロ、最長二十キロ圏内を往復できるくらいの物だ」


「すごいな。ここまでの技術の進歩が見られるとは……考えてなかったよ」


「お褒めの言葉として受け取っておこう。

 数ある神器の性質を解析し、集積した技術の結晶。現代アーティファクトの一つだ。そう簡単に壊れる物でもないが……傷つけないように返却を頼む」


「……善処しよう」


 大吉さんがそう答えると、わたしは気になっていたことを聞いてみた。


「すみません、巣に戻ると言ってましたけど……巣ってどれの事ですか?」


 その仕組みも気になるけれど、まず実物が見てみたい。


「……これだ……」


 胸ポケットから出されたそれは…………


 素材は少し太めの刺繍糸で作られた鳥の巣のようなものが接着されているヘアピン。中央に『巣』と書かれた小さなコイン型のプレートがついている……。


「「……………………」」


 目が点になっている大吉さんと籐騎くん。


「ピン…………つけるんですか?」


「本来、事務職の女性の為に作られたものなんでな…………」


 質問の答えになっていない。


「……父さんがそれ、つけるの…………?」


「…………使用時は着けることを想定している…………」


 みなまで言うつもりはナシ、か。


「じゃぁ、返事をくれるのは籐真係長、と想定して連絡するようにしときますね」


 笑顔でそう告げると、思わず係長の顔を見ながら想像してしまう。

 まだ着けていないのにその綺麗に分けられ、額を隠している前髪を持ち上げるように着けられた鳥の巣ピンを。


 べつに、白衣の胸ポケットでもいいんじゃないか、と思ったことは黙っておいた。


 第三研究室へと向かうため所長室を通った時、来た時は柔らかくにこやかだったその顔が少し固くなっていたように感じたのは気のせいではなかっただろう。


 第一研究室の入り口で、小さな声で「きをつけて、な」という声もわたしは逃すことなく聞きとった。

 前を行く籐騎くんがどう思っているのかはわからないけれど、この親子の関係がこのことで崩れることはないだろうと、少し安心した。


「さて、少し時間が押してるな。早いところ叔父さんをたたき起こして作業をはじめよう」


 先頭を行く大吉さんがそう言った。


「たたきおこして?」


 大吉さんがそう言った理由を、第三研究室の所長室にてわたしはすぐに知ることとなる。


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