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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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204.小さな侵入者

「……奪われた神器の場所が分かるから、それを言いに来たんだ!」


「「……!……」」


 驚き目を合わせるわたしと大吉さん


「……じゃぁ警備担当部署に行ってたのか」


「そうだ……」


「じゃぁタイミングが良かったな。警備は今丁度閉館前の見回りの時間だ。誰もいなかったろう?」


「……!」


 タイミング、悪かったの間違いじゃ……と思いながら見ると、少年は悔しそうに田次郎さんの方を睨みつけていた。


「それで、どうしてここまで来た?」


 警備室で戻ってくるのを待っても良いし、探しに行ったって目的は果たせるだろうに、と大吉さんが問うた。


「ここに……神器と同じくらい力の強いアーティファクトがあるだろう?

 今はなんでか光がおさまっちゃってどれだったのかわからないけど……。

 こないだ侵入した賊も神器と比べて遜色のないアーティファクトを持ってたから…………賊が戻ってきたのかと思って警戒しに来たんだ!」


「……!……」


「お前さん、アーティファクトの光が見えるのか?」


 田次郎さんが、興味津々な目で少年を見て言うと、


「たくさん練習したからね!」


 少年は立ち上がり胸を張って言った。


 訓練すれば見えるようになるという、未使用中であるアーティファクトの光。沢山訓練してきてるだろう大吉さんでも見えないというのに、この少年は見えるのか。


「あれ……でもわたしが持つアーティファクトはどれも光り過ぎないように調整しているのに……」


「一瞬だったけど、物凄い光だったよ?」


 大吉さんと半日ぶりに会って気が緩んだかな? 気を付けないと……


「聞いていいか? どうして奪われた神器の場所がわかるんだ? 特殊部隊でも追いきれてない神器の場所が」


 田次郎さんの言葉に、少年はもう観念したのかゆっくりと話し始めた。


「僕はあの夜現場にいたんだ……

ここへは父さんと一緒に帰るため来てて……。父さんの仕事が終わったのがちょうど警備隊の出発と同じくらいの時間で……

 方向も同じだったから警備隊の後ろから着いて行くようにして歩いて行ったんだ」


 大吉さんはわたしの横に来て、少年を見下ろしながら話を聞く。


「そしたら突然何人かの黒い服着た奴らが警備隊を攻撃し始めて……!

 神器を守れって声が聞こえたと思ったら、強い光のアーティファクトが空高くジャンプした影と一緒に動いたんだ。だから母方のじぃちゃんから受け継いだアーティファクトで泥棒のもつ神器をマークしたんだ」


「お前……! 追跡専門アーティファクト使いの親族か」


 大吉さんのその台詞に少年は得意げに話し出す。


「そうだ。じぃちゃんは特殊部隊にいたことだってあるんだぞ!」


 田次郎さんが確か言っていた、特殊部隊には今追跡専門の者がいないと……。するとこの子はもしかして後の候補者……?


「母親は……父親も、継がなかったのか?」


「母さんは別のアーティファクトを継いだ。

 父さんは相性が悪いとかで継げなかった……追跡っていうと、体力が必要だろう? 元々体動かす方は得意じゃないみたいだし……。でも! 父さんだってすごいんだぞ!」


 大吉さんの質問に、自慢げにお父さんのことを語る少年。


「で、その事お父さんお母さんには言わなかったの?」


「…………」


 わたしの質問に、少年はまた黙りこくってしまい、代わりにわたし達のすぐ後ろにやって来た田次郎さんが言葉をつないだ。


「言えなかったんだろう。母親は仕事でしばらく前からこの地を離れてて、父親は──言ったけど取り合ってもらえなかった、かな? あの人頭固いから」


「コイツの親父、知ってるのか?」


「神器の研究を主で行なっている研究室、第一研究所係長、 各務藤壱(かがみとういち)。だろ?

 真面目一徹、あんなバカみたいに正直で、研究バカがよく係長まできたもんだ、と思っていたが」


 バカって二回言った。


「すごいひとなんですね」


 バカと言いながらも、どこか認めているような感じだったので、わたしがふわりと笑顔でそう言うと、少年の顔が少し和らいだ気がした。


「真面目一徹ってとこだけだな? おじさんと違うところは」


「そう。だから、俺とは気が合わない」


 大吉さんの言葉に、諦めたように肩をすくめながら田次郎さんは答えた。


「ちょうどいい。修復不可能とされた神器は第一研究所の管轄だ。お前たち、明日の朝一でその子と一緒に資材調達に行ってこい。で、ついでに少年の援護をしてやれ」


「おじさんはこいつの言う事が本当だと思うのか?」


「信じるには値すると俺は判断する」


「何故?」


「盗難事件後、一番高いレベルまで上げられた警備を掻い潜ってまでやってきたから」


 そんな雰囲気は見られなかったと思うのだけど、田次郎さんは『一番高いレベルの警戒』と言った。


「これまでは証を持つものならば自由に出入り出来たし行動もできた。だが、盗難事件の後警備のレベルが上げられて、三段階ある生体認証の一番高いレベルの物がプラスされている」


 アーティファクトでそんなことまで可能になるのか、とわたしが驚き仕組みを想像している間にも、田次郎さんは話を続ける。


「証の方も更新されて、認証のシステムが変わっている。こちらはまぁ証さえ持っていれば問題はないが。

 館内で自由に動くには、解除するかもしくは別の手を使うしかない。お前たちは依頼の証を渡した日、受付で生体認証は済ませている。だから今日もすんなり入れただろ?」


「はい」

「あぁ」


 初めてここに来た日、確か受付でなにか大きな水晶玉のような物を見つめさせられたのだが、あれがそうだったのか。


「少年は研究所員の一親等ということで、生体の認証は登録されているが三段階の一番レベルの低いところまでだろう。加えて証は持っていないはず。でなければもっと堂々と入ってきて良いはずだ」


 え、それじゃ警備員に見つかったら逆にまずいんじゃ……ってそれでか! 田次郎さんがタイミングが良かった、と言ったのは……!


「一人でこっそりここに来て動き回れている、ということは……結界のシステムに干渉するようなアーティファクトを扱えるか、もしくは結界を無効化するようなアーティファクトを扱えるかのどちらかだ」


 そんなアーティファクトまであるのか……


「いずれにしろ、そう簡単に扱える物でもないし、そこまでしてもこの館に入り込んだってだけで信じる理由は十分じゃないか?」


 たしかに、と頷くわたしと大吉さん。


「タイミングが良かった、と言ったのはこれでだ。

 もし見つかっていたら、話を聞いてもらうどころではない。捉えられて尋問されて、もちろん親も、そのアーティファクトを与えた者も処分されるだろう」


 少年は、ゴクリと喉を鳴らし、青ざめた顔をして田次郎さんを見る。


「安心しろ。お前がしっかり協力してくれるなら咎められるようなことにはしない」


 田次郎さんの言葉に少年は、安心したように目を閉じてほぅっと一息ついた。


「明日の朝、八時前に受付に行け。大吉と藍華もな! 俺は別の資材の用意してるから、資材受け取ったらここに来い」

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