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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
204/343

203.半日未満だけど……

「わたしが言うのも何なんですが……揃えられるんですか? コレ……?」


 双葉ーちゃんからの連絡で、言われたという資材の中には……。え⁉︎ そんなものまで⁈ と思うものまでもが書かれていた。


 “修復不可能となった透明度の高い材質の神器”なんて、一体どこに、どうやって手にいれろと…………


「コネと伝手を総動員すれば、何とかなるだろう」


 メガネを光らせながらそういう田次郎さんの口元は弧を描いていた。


 うん、まぁ……お任せしよう。


 その時、ノックが聞こえたかと思うと田次郎さんの返事も待たずにドアが開いた。


「入るぞー!」


「大吉さん!」


 たった半日未満。

 そのたった半日未満がどれだけ長く感じたか…………


 飛びつきたい衝動をおさえて、いつも通りのテンションを意識して、立ち上がることすら我慢しきった。


「ふー! さすがにフルスピードは色々大変だったー!」


 そう言って、わたしの隣にドサァっと座る。


「ノックしたなら返事くらい待て」


「お疲れ様です。石膏像、無事に置いてこれましたか?」


 石膏の俊快さん像がどうなったか気になっていたので聞くと……


「ぷ…………聞いてくれ。

 どこに置くかって言う話になった時にな…………」


 何がそんなに面白かったのか、大吉さんは笑いを必死にこらえて話し出した。


「俊快さんは作品置き場に置こうとしてたんだが…………猛抗議を受けてだな…………」


 笑いの止まらない大吉さん。

 猛抗議とは……。


「あのアーティファクトが、神器かっていうくらいの光を発して、置いてほしい場所を示したんだ」


 なんとまぁ。あの子にそこまでの力があるとは……。


「で、結局どこに置かれたんだ?」


 田次郎さんもどこか楽しそうに話に加わった。


「俊快さんの寝室」


 …………。


「「あーっはっはっはっはっは!」」


 さすが親族。笑いのタイミングぴったり同じ。


 かくいうわたしも、口をおさえて笑いをこらえるので精いっぱい。


 笑いの止まらぬ田次郎さんに、大吉さんが言う。


「他にも色々、話させてもらってな……。

 行って良かったよ。ありがとう、おじさん」


 そう言う大吉さんの表情はとても真剣なものだった。


 一体どんなことを話したんだろうか……少し気になる。


「……おぅ、なんか珍しいじゃないか」


「ところで、藍華の方はどうだったんだ?」


「あ……はい。簡単に説明します」


 わたしは、水晶龍の中の呪いのアーティファクトをどうすることになったかと、水晶龍に首飾りを新たに作ることになったことを説明した。


「解放できる場所を探すのか……。

 確かに調べつくされた遺跡……なんかは適任かもしれないな……」


 そういえば大吉さんは発掘のために色んな遺跡に行ったことがあるはず……。もしかしたらよい場所を知っているのでは、と思って聞いてみる。


「もしかして、大吉さん何処かよさそうな場所、ご存じなのでは……?」


「んー……いやー……どんなに高性能の探索アーティファクトでここには何もないって言われてもなぁ……まだあるかもって思っちまう質だから……」


 そう言ってポリポリと頬をかきながらこちらを、見る……


 カワ………ィ


「そうですかー……」


 これ以上見てたらマズイ、と視線をテーブルに移そうとした時、大吉さんの表情が変化した。


 柔らかい笑顔から、一変して真剣な。……これは何かを警戒している時の表情だ。


 わたしは付近のアーティファクトの気配感知する力を解放してみた。


 すると扉の向こうの、低い不自然な位置に二個の小さな光と、もう一つ一際輝いて見える物が近づいてきていた。


 光がドアにピタリとくっつくと──


「ドアの向こうにいる奴! 入ってこい。目的を言ってみろ」


 大吉さんが少しドスを効かせた声でそう言った。けれどドア向こうの光はピクリとも動かない。


「大吉、穏便にな。ココは破壊されたら困る物が多い」


「こないだ何かの実験で破壊してなかったか⁉︎ 電話向こうから爆発音聞こえてたぞ……?」


 田次郎さんの言葉に、大吉さんは思わずそう文句を言うが、立ち上がり静かにドアのすぐそばへと移動した。

 しかし、ドア向こうの光は微動だにしていない。


 大吉さんはゆっくりとノブに手をかけ、一気に開く。


 すると、ベシャッっと音を立てて倒れ込んできたのは小さな少年だった。


「……!……君は…………」


 見覚えのある服装で、わたしはすぐにカフェの所に一人で座っていた少年だと気づく。


「あたたた……!」


「藍華? 知ってるのか?」


 わたしは倒れ込んできた少年の所まで行き、服をよく見て確認する。確かにこの少年だ。


「この建物の受付に行く直前、カフェの所で大人しく座っているのを見かけたんです」


「どうやって入ったんだ? ここは一応許可証がないと入れない建物だぞ?」


「……そのねーちゃんの後について入ったんだよ」


 大吉さんの問いに、少年は打ち付けた顔を覆いながら起き上がり、涙目で言った。


「……!……」


 あの、挨拶をした後つけられていたの⁈


「お父さんお母さん待ってたんじゃなかったの……?」


 しゃがみ込んで少年に聞くと、少年はわたしから顔を逸らしてキッパリと言う。


「違う」


 田次郎さんもがやってきて、少年に問うた。


「こんな時間、この建物の何処に用事だったんだ? 藍華の後について入ってきて、今ここに来たのなら今まで別の場所にいたんだろう?」


「…………」


 少年は黙ったまま下を向いて誰とも目を合わせようとしなかった。


 そう……もしずっと隣の研究室にいたのなら、わたしはともかく大吉さんが気付かないはずがない。

 少年は、わたしと一緒に建物内に入り、つい今しがたここにやってきたのだ。


「先日盗みに入られた関係で、この棟の者はかなりピリピリしている状態だ。君が勝手に入ってきたことにより何かが起きたら、咎められるだけじゃ済まされないぞ?」


「…………」


 そのわりには警備がそこまで厳しくなかったような気が…………


「あの……」


 聞こうとすると、田次郎さんが口に人差し指を当ててわたしの目を見た。


「君のご両親、親族、皆に迷惑がかかることを考えているか?」


 田次郎さんの、その言葉に少年はビクッと肩を震わせ、口を開いた。


「……奪われた神器の場所が分かるから、それを言いに来たんだ!」


「「……!……」」

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