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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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202.大切な証

 研究所で資材の手配もしないといけないし、時間も遅くなってきたので、わたしは花子さんが戻るのを待たずに出発することにした。


「じゃ、行きます。花子さんに……よろしく伝えてください……」


 何を、と言わずとも……双葉ーちゃんならばわかっていることだろう……。逆に、何を? と聞かれてもハッキリと答えられない気がするけれど…………


「……あぁ……」


 双葉ーちゃんはそう言って頷いてくれた。


 なんとも複雑な心境だけれど、不思議と悪い感じは……ない。少し苦しいけれど……。


 立ち上がってポーチを付け直していると双葉ーちゃんも立ちあがり、わたしを見上げた。


「藍華よ、一つわしからの助言じゃ。

 龍の加護の力を抑えるのは良いが、違和感を察知することは忘れるな。そして使うべき時に使え。

 おそらく見逃したら大変な……事がある……」


 双葉ーちゃんのその真剣な声色に、わたしは神妙に頷いた。

 違和感の察知……できるかな…………


「身代わり護りなしで花子を守れたんじゃ。きっとできる」


 双葉ーちゃんの言葉に勇気付けられはするけれど、あれから抑えっぱなしだった事にも気づいて少し反省する。


「少しずつ、慣れていきんさい……。

 あと呪いのアーティファクトの事についてじゃが、第三研究室の田次郎意外に話すでないぞ? 話せばそれを説明するのに芋づる式に色々知られてしまう」


「そう……ですよね……」


 呪いのアーティファクトを今封じているのは未提出のわたしが作ったアーティファクト。それに今水晶龍が入っている収納袋の説明までもが必要になる。


「まぁそこら辺は田次郎が上手くやるじゃろうが……念の為コレを持ってお行き」


 双葉ーちゃんが、懐から数枚の御札と小さな封筒、そしてチャクラストーンの使われているシンプルなブレスレットを取りだして言った。


「札はまたここに来る時使いんさい。封筒にはわしからの一筆が入っておる。研究所で資材調達に手間取りそうだったらそれをお出し。

 あと、このブレスレットは……お主の身代わり護りには遠く及ばぬ出来じゃが」


 石と石の間のクルクル編まれている部分が、綺麗に螺旋を描いていて、少し古く見えるけどそれだけ色々な何かを越えてきたのだろう雰囲気を感じる……。



挿絵(By みてみん)



「これはワシが何十年も共に生きてきた物じゃ。その一筆でも足りんようだったら、それをわしからの言であるという証として見せるがいい。入って数ヶ月の新人以外にはよーく効くじゃろう」


 そう言って笑うと、やはり金歯が眩しくて。


「ありがとうございます……! じゃぁ代わりにこれ……」


 そう言って、わたしは手につけていた物を外して渡す。銀色の絹糸で、今朝作ったばかりの身代わり護りを。


「良いのか?」


「コレも身代わり護りなんでしょう? それをお借りするんです。わたしも代わりの物を置いていかないと……。気持ちよく借りていけれません。

 それに、今日全部で四本作れたので。

 依頼の二本は花子さんと蝶子さんへの物ですよね? 双葉ーちゃんにも一本」


 そう笑顔で言うと、双葉ーちゃんはしわくちゃの顔をさらにしわくちゃにして言った。


「そうか」


「こちらは事が終わったらちゃんと返しにきます」


「…………待っておるよ」


 双葉ーちゃんと固く握手をして、わたしは帰路へとついた。



 ◇◆


 神社ワープを使ってひとまず宿に戻ると、ちょうど夕食時らしく、いい匂いと共に中居さん達が忙しく行ったり来たりしているのが見えた。


 大吉さんは今どこらへんだろうか……。


 わたしは離れの部屋に置いてある資材セットを持ち、急ぎ研究所へと向かう。


 研究所の敷地に着く頃にはだいぶ日も暮れて、そこまでの道はアーティファクトの街灯がホンワリと、帰路につく人々を導くかのように輝いていた。


 研究棟前のカフェはもう閉まっていて、そこの明かりは申し訳程度についていたが──

 そこには五歳くらいだろう少年が一人だけいた。パリッとした綺麗なワイシャツに蝶ネクタイをして、カフェテーブルの所の椅子にちょこんと座っている。


「こんばんは」


 お父さんかお母さんを待ってるのかしら、と一声かけると、少年はにっこり笑顔でこんばんは、と返してきた。

 可愛くて礼儀正しい子だな、とそれだけ思ってわたしはそこを通り過ぎる。

 一人で研究所内に入るのが初めてなため、少しドキドキしながら受付へ。そして田次郎さんから預かったままだった、依頼を受けた証のロケットを見せる事で、そのまま中に通された。


 研究所は通常十七時が終業時刻。今は十九時過ぎ、研究員のほとんどが帰宅しているようで、電気も消えている部屋が多い。


 他の部屋がどういう部署の物なのかとか、興味はあるけれど、わたしは真っ直ぐ田次郎さんの所属する第三研究室へと向かった。


 第三研究室は半分明かりが消えていて、実験スペースと奥の所長室だけが明るかった。


「お邪魔しまーす…………」


 暗くなっている箇所をそろりそろりと進み所長室の戸を叩く。


「どうぞー」


 中からは田次郎さんの声。


「失礼します」


 扉を開けると、田次郎さんが書類の山に囲まれた状態で、それらを次々と処理している所だった。


「そこ、座っててくれ」


 先日も座った応接用のテーブルとソファの所に、ストンと座って様子をうかがう。


 左手でとった書類一枚に目を通し、サインをして右側へ積む。という動作を何回か繰り返した後、立ち上がって伸びをする田次郎さん。

 書類は、未処理のものと処理済みのものとが同じくらいはありそうだった。


「んー! 残りは明日だな……。

 まったく……所長が帰ってこないと雑用が多くてかなわん。オレは実験だけしてたいのに!」


 田次郎さんはデスクの引き出しからなにか書類の束を持って、こちらにやって来る。


「ついさっき双葉様から連絡が来てな。状況は把握している。必要だろう資材のリストを聞いているが、これでよいか確認してくれ」


 そう言って向かい側に座ると、束の一番上にあった紙をわたしに差し出した。


「……確かに、わたしの手持ちに無い必要なものが全部書かれています……」


「じゃぁ、明日の朝八時までには用意しよう」


 そこには確かにドラゴンブレスライカを作るのに必要であろう物の名前が書かれているようだったけれど、いくつか疑問点、というか気になることが書かれていたので、質問をしてみた。


「わたしが言うのも何なんですが……揃えられるんですか? コレ……?」


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