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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
201/343

200.水神様の成り立ちと藍華の考え方

 この神は────


『……そうだ、そこな娘。お主の今考えた通り、この空間すべてで我は成立しておる。

 滝も、滝壺も、この場所に響く森の音や空気。全てを合わせて我となる』


 龍石と、どこか似たような気配だけれど、確実に違う。この神と呼ばれる存在は、この場所にあるもの全てがあってようやく成り立つ存在なのだ……。


 っていうか。感じて、考えていた事をそのまま言われても、もう驚かないぞ。双葉ーちゃんと花子さんのでだいぶ慣れた(?)から……!


『だから、我は我を保つために、我の為に、人間がここに来ることを禁ずる。

 人の気や、その行動は我の聖性を狂わすのでな』


「人が立ち入ることで、何かをされることで、今のその神聖な存在ではなくなってしまう可能性とある、ということですか……?」


『そのとおりだ。昔、我と共にあった森の神は気に触れられ狂い、この地から消えてしまった……』


 そう言ってそれまで無感情だった顔を少し曇らせた。


『娘のわかりやすいように表現するなれば、我は言わば超自然の生み出したアーティファクト……。構成する物が変われば我も変わる。

 そして普通の物のように消えることは許されぬ。討伐されるまで、その存在自体を消し去られるまで、狂い続けねばならぬ…………

 故に──我は我を変化させる者を拒否する』


 一見不自然にも見える緑の袴は、その森の神の形見のようなものだろうか……水神様の冷たい気配が少し揺らいだ気がした。


 あちらの世界だったならば、神霊と呼ばれるのだろうこの美しい存在。それがアーティファクトと呼ばれると……何故か、この水神様のことが少し理解できる気がする。


「森で迷ったり、目的地にどうしてもたどり着けなかったりするのも、そういった神格を持つ方々の成せる業なのですね……?」


 あちらの世界でもそういう場所は存在していた。すると、もしかしたらそんな存在がそこにいるからなのかもしれない、と思って口にした。


『ほんに……勘の良い娘じゃな……お主の心が我に成した影響で我はまた数十年の安寧の時を送れそうじゃ』


 そう言うと、その存在の雰囲気が少し柔らかくなったように感じる。


 わたしの心が成した影響……?


『我を理解し、敬う心を持っている事を言っておる』


 それから水神様はわたし達を一瞥して、おっしゃった。


『巫女と古の巫女よ──お主らは我の術が聞かぬ故、どうしてもここに到達できる。

 不快な変化は受けぬが、それでも我は今の状態から変化することを良しとせぬ。

 以降数年はこの地に足を踏み入れるな。それが守れるのであれば主らの望む神託を授けようぞ──』


 ここまでの道、神聖な雰囲気を感じていたのは()()()()というだけではなかったという事か。


 花子さんは頭を上げて、水神様を見据えて応えた。


「ありがとうございます……以降三年は一歩たりとも近寄らぬとお約束申し上げます」


『よかろう……』


 水神様が一度静かに目を閉じると、その空間の空気が動いた。

 風ではない、何かが付近を廻る。


 一瞬、辺り一帯が白く霧か何かのような物に包まれたかと思うと、瞬きをする間に空の月までもがクリアに見えるように澄み切った。


『……また大変なものを抱えて来よって……だが、欠片も漏れていないのは娘の力か……』


 呪いの玉を抱えてくれているのは水晶龍だから、わたしだけの力ではないのだけれどと思いながら、水晶龍の入っているポーチに手を当てる。


『その呪いの解呪には六人の巫女が必要だ。今現在この地に揃えられる巫女は五人……解呪は諦めることだな』


「そんな…………!」


 諦めてしまったら、呪いの発動した場所が大変なことになってしまう……!


『そうさな……十年後くらいならギリギリそれを何とかするだけの力の持ち主が現れるだろう……じゃが、それまで保たぬ。

 それは、そのまま小さき我が同胞の中から出したら、数分で渦巻く呪いが辺りを焦土と化するであろう』


「…………なにか……なにかございませんか……?

 出来る限り人々に影響の出ないように処理する方法が…………」


『何処か場所を決め、解放してやるが良い』


 そう言う水神の表情は、これまでより一層冷たく、輝いていた。


『そして開放するとき巻き込まれぬよう気を付けろ…………呪いのアーティファクトは人がほんの少し触れただけでも致命傷になりうるからな…………』


 数分で解放されてしまう呪いからどうやって逃れろと。


 ふと脳裏をよぎった案は、絶対にやりたくないと意識の上から削除した。

 どんなに小さくとも、神社を犠牲にはしたくない──!


 色々聞きたいことは山のようにあるけれど、どうやらタイムリミットのようで。水神様の姿は薄くなり、辺りに充満していた光も消え始めていた。


『ふ……ほんに気持ちの良い心の持ち主よの──

 よく探せ。解放する、然るべき場所を────』


 そう言い残すと、水神は消えた。跡形もなく。

 それまでそこに充満していた気配も今は感じない。


「……然るべき場所…………?」


「…………ありがとうございます」


 わたしが水神様の言った言葉を反芻しているとき、花子さんは深く深く頭を下げていて、慌ててわたしも頭を下げた。


 探します。呪いの玉を解放する、然るべき場所…………!


 心の中でお礼と誓いを述べていると、花子さんが早々に荷造りをし終えて立ち上がっていた。


「さ、これ以上この場を変化させぬよう、急いで帰りましょう。受けるべきご神託は受けました。あとは双葉様とお話ししなければ──」


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