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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
198/343

197. 『ドラゴンブレスライカの作り方 byトウマ』

 そこに書かれていたのは────


 まず、一行目を見て目を見開き、絶句した。


『ドラゴンブレスライカの作り方 byトウマ』


「龍石達の……首飾りの作り方……⁉︎」


 中には細かいドラゴンブレスライカの作り方が資材名と共に書かれていた。


 そうすると……これは……わたしがこちらに来た後、作り方を確立したトウマが、何十年も前のこちらに来た、ということなのか……?


 頭が混乱しそう。


 わたしには馴染みの深い資材の名前が連なり、作る時の手順や気をつけなければならないことが細かく書き記され、最後はこうしめられていた。


『自分の元いた世界で確立したばかりのこれが、この世界の技術力で一から作られるようになるには、随分と時間がかかりそうな気がするし、材料名とか、通じる? 何のことかわかる? と思うけど。必ず必要になるから、と世話になってる神主にグダグダ言われたのでここに記す』


 トウマらしい……。


 こちらに来てから、色々目まぐるしく楽しすぎて、思い出すことも少なくなっていたSNSだけど……

 ここに来てこんなにやりたくてムズムズする事になろうとは──


「書かれている事が全て理解できるんじゃな?」


 双葉ーちゃんの問いに、静かに頷きわたしは答えた。


「まるで……古い友人から手紙をもらったかのような感覚です……」


「作れるかい?」


「はい」


 昔ながらの製法と、現在のレプリカ技術を使えば出来ると判断し、即答する。


 懐かしさや、コレを作らねばならないのだというどこか高揚感ににも似た感覚に震えていると──


「そうか。連絡は入れておくから製作は研究所でやるといい。あそこなら必要なものも全て揃えれるじゃろう」


「ありがとうございます!」


 頼んだぞ、と言ってから、双葉ーちゃんは首飾りの欠片のところでクネクネしている水晶龍を見ながら花子さんへと話しかける。


「さて、花子。念のためじゃ、結界を」


「わかりました」


 花子さんは立ち上がり、御社殿入り口のところへ行って、何かのアーティファクトを発動させた。


 すると建物の内側を沿うように、入り口付近からおそらく御社殿全体に光が広がる。


「この場で呪いが解き放たれても、この内側と外側に貼られた結界ならば街の方まで影響はでまい……さぁ、水晶龍よ、出してくれるか?」


 花子さんが戻ってきて座ると、双葉ーちゃんは水晶龍にそうお願いをした。


 楽しそうにクネクネしていた水晶龍はピタリと動きを止め、双葉ーちゃんの目の前へ行き大きく口を開き──


 クアーッッ!


 双葉ーちゃんは手を出し、ソレを受け取る。


 ペッッッ‼︎


「これは……………………」


 それを見た瞬間に、双葉ーちゃんも花子さんも表情が変わった。


「わしらだけの力では無理じゃ…………」


「…………!」


 そう簡単に浄化が出来るとは思ってはいなかったけれど、二人に出来ないとなれば一体どうしたら…………。


「一度発動した呪い系アーティファクトは、浄化するのに何人もの高位の巫女が必要で、私と双葉様二人だけではまず無理です……。

 ナゴヤの三恵様と蝶子を呼んで、藍華さんが加わったとしても最低でもあと一人は必要になります……」


 花子さんの言葉に双葉ーちゃんは深く、ゆっくりと頷き言った。


「……花子、お前は裏の水神の所へ行ってご神託を受けてくるんじゃ……。

 わしは火の神のご神託を受ける。

 わしと花子と二人別にご神託を受けて、答えが同じならば……」


 双葉ーちゃんの、その焦りように只事ではないんだ、と肌で感じたわたしは、ただただ、二人の言葉を聞いていることしか出来なかった。


「藍華、頼んでいた“身代わり護り”は出来ているかい?」


「……はい」


 そうだ、それを渡すためにもここに来たんだった。と、ポーチ内をガサゴソと探して小さな紙袋に入れておいたそれを取り出す。


「これです」


「花子、着けてお行き水神は水刃、気をつけるに越したことはない」


「……わかりました……」


 取り出した袋を花子さんに渡すと、花子さんは中にあった桃色と臙脂色の二つを取り出しじっと真剣な表情で眺める。


「……すごいですね……」


 そう言うと、桃色の方を選んで手につけた。


 未だに自分の作ったその身代わり護りがどこまでの物なのか実感の湧いていないわたしは小さな声で呟いた。


「ありがとうございます……」


「日も落ちてくる。水神の所へは少し山の中に行かねばならぬから……藍華、花子に付き添って行ってもらえるかい?」


「……はい……!」


 水晶龍とその他出したものを全て収納袋にしまい、わたし達は御社殿から出た。

 いくつか用意するものがあると言う花子さんを社務所裏の平家の入口前で待ち、小さな包みを持って出てきた彼女とわたしは、急ぎ裏の森の中にあるという小さな滝へと向かう。


「お待たせしました。行きましょう」


 道中、花子さんから先日のような人懐っこさを感じなくなっていることに気づいたわたしは、ただ黙々とその後に着いていった。


 花子さんが大吉さんのことを少なからず想っているのなら当然な対応……いや随分と優しい対応なのでは、と思う。


 わたしが知る女の色恋騒動というものは、世でもてはやされていたラブストーリーでも、現実で見てきたものも、もっとドロドロと感情をぶつけ合うような展開になっていくものが多かった。


 まさか自分が。そのようなものの渦中に入ることはあるまいと思っていたのだけど……これも一種の()()()()()なんだろうか……


 だとしても…………


 この気持ちだけは譲れない────


 

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