196.小さな石の使い道
「もしかしたら……」
水晶龍の横から袋に手を突っ込んで、あるものを探す。
わたしが袋から取り出し見せたのは、黒い小さな欠片。
「それは……!」
「龍石が自分から取れてきた欠片をもっていけと……。持たされた物です」
もしかしてコレも袋に入っていたから……?
ドラゴンブレスの欠片の横にそれを置くと案の定、水晶龍は袋から飛び出しわたし達の周りをグルグルと回りだす。
「おいこら、あまり遠くに行くな? この欠片では半径一メートルくらいが精一杯じゃろう」
嬉しそうに飛び回ろうとする水晶龍に、双葉ーちゃんはクギをさした。
「おいで、水晶龍。
双葉ーちゃんに説明したいから」
嬉しそうにしている水晶龍を見ると、自分まで嬉しくなってしまう。
でも本題に入らなければとわたしは水晶龍を呼び戻した。
「この子の中に、泉の水質を著しく下げていた原因となった物が入ってます」
双葉ーちゃんは……どこまで知っているのか……
「夕紀美さんの鑑定アーティファクトで“怨念の塊、報われない魂たち”と出ていたそうです……」
「怨念の塊……! 呪いのアーティファクトか……!」
花子さんが驚愕の声をあげ、双葉ーちゃんは神妙な表情で水晶龍を見つめていた。
「龍石達がその力を抑えてくれていたんじゃな……
詳しく……話してくれるか……?」
双葉ーちゃんの言葉に、わたしは龍石から聞いた内容をかいつまんで伝えた。
「龍石は……それが投げ入れられる前に首飾りを奪われ、顕現する力を失っていたそうです……。
水晶龍は龍石と同時にこの姿をとることが出来なくなって泉に沈んで……」
「それでか、はじめゆるゆると質が落ちていっていたのは……」
双葉ーちゃんの言葉に頷きつつ、わたしは言葉を続けた。
「泉の神聖な水に守られて見つけられなかった水晶龍と首飾りを見つけ出すために……賊が泉にそれを投げ込んだと龍石は言ってました……」
「泉を汚すことで神聖な水晶龍を見つけ出そうと……!」
「そこまでして手に入れようとした首飾りじゃ……もし新たに同等のものを作ると狙われるやもしれんな……」
水晶龍のためにも、龍石にもし必要だった時の為にも作ろうと思っているけれど、やめておいた方がいいのだろうか──
「藍華、龍石は力を失ってはおらんのだな?」
「失ってはいないと思います……。
力に少し変化があるとは感じましたが……協力してくださった仏師の方も同じ力はあると感じたそうです。龍石の目が覚めたらハッキリ分かるだろう、と……」
「俊快がそう言うたか……ならば確実だろう……。
ならば狙われるとしても、じゃ。水晶龍の分は急ぎ作った方が良い。必ず必要となる。
花子、例のものを持っておいで」
「わかりました」
双葉ーちゃんがそう言うと、花子さんが返事をして拝殿から出ていった。
「藍華、怨念の塊についてどれくらい知っておる?」
「大吉さんから聞いた話くらいしか……ずいぶん昔に製造を禁止され、製造方法も回収され、破棄されたとか……。
呪い系アーティファクトで、威力が強くて、その昔街が一つ消滅した事もあると……」
「そう……程度によっては儀式でそれを何とかする事ができるが、今のわしらの力では難しいかもしれん……何か、対策を練らねば……」
そこまでの物なのか、と、改めて血の気が引いてくる。
「少なくとも水晶龍は単独で動けるようにしてやらないといけない。藍華、作ってくれるか? 水晶龍に首飾りを」
その呪いで街が一つ消滅するほどの威力の何かが起こるなら、水晶龍が一人ででも逃げ切れるように、巻き込まれないようにしてあげたい。
「もちろんです!
そこで確認したい事が一つあります」
そう言いながら、わたしは以前受け取った小さな袋を取り出した。
「以前お預かりしたこの中身、小さな石のようなものなんですが、コレはその首飾りを作るために必要な物と判断しましたが…………あってますか?」
ポーチからその小袋を取り出し、割れた首飾りの一部を取り出し置いて、わたしは聞いた。
「正解だ」
満足そうに頷く双葉ーちゃん。
「割れてしまってもまだ力を宿している……さすが古の巫女の作ったアーティファクトじゃ……」
割れたドラゴンブレスの欠片を手に取り見つめながらそう言う双葉ーちゃん。
「古の巫女……⁉︎」
「そぅ……文献では再生の日の直後には何人もいたらしい特殊な能力の持ち主の事をいうが……クゥもあんさんも、同じ古の巫女じゃな」
ドラゴンブレスを作ったのがトウマさんなら……彼女も……?
「再生の日を境に何かが変わったんじゃろうて……。あんさんも、そこからやってきたんだろう?」
「双葉ーちゃんはクゥさんのことを……?」
「ここではない何処かから来た、ということはわしの力でもわかっとったが……。むかーし、みっちゃんと話した時にな……」
色々話を聞いた、という事だろうか。
「あやつ。直接聞いたくせにわしに気づかなかったのかと言いよった……!」
そう言って、フルフルと握った手を震わせていた。
その様子を目を点にして見ていたわたしに気づき、コホンと一つ咳払いをし、言葉を続ける。
「まぁ、それを知った後でだが。色々な文献の中で時折現れる特殊な能力者達が、ほぼ全員古の巫女というものに当たると気づいたのじゃよ。中には巫もおったな。
そしてこの首飾りを作ったという巫女も」
双葉ーちゃんはその欠片を手に取り懐かしそうに撫でた。
「失礼します」
花子さんが戻り、また何か桐箱を持って入ってきた。
「お持ちしました」
「それを持っておいき」
そう言ってわたしに渡すようジェスチャーで伝えた。
「開けて、中身を確認してごらん。見ればそれが何なのか、お主になら分かるだろう」
花子さんからそれを受け取り、桐箱にかけられていた紐を解き、蓋を開ける。すると出てきたのは一本の巻物だった。
これに一体何が…………?
箱を自分の横へ下ろし、テーブルの上で巻物を広げる。
そこに書かれていたのは────




