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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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195.ご対面

 その場で田次郎さんを見送り、わたしはそのまま神社ワープ(空間移動)で双葉ーちゃんの所へと向かった。


 到着すると花子さんが目の前で頭を下げていて、わたしはびっくりして後退ってしまう。


「藍華さん、お待ちしてました。こちらへどうぞ」


 先日お会いした時とは少し違った雰囲気に、少しピリピリしたものを感じた気がして……


 通されたのは、御社殿の方で、靴を脱いで拝殿へと上がり込むと、双葉ーちゃんがちょうど二礼二拍手して深く頭を下げて拝んでいるところだった。


 少し離れたところに、花子さんがスッと正座をしたので、わたしもその左隣に座る。


 頭を上げて、正面にある鏡を一瞥すると、双葉ーちゃんは口を開いた。


「よく来たね。無事で何よりだ……」


 ゆっくりと立ち上がりこちらに背を向けたまま座布団から下り、双葉ーちゃんはこちらを向いて正座し直す。


「急がなきゃならんものがあるようだが、順を追って話を聞こう……」


「……!……」


 本当に……全部お見通しされている気がしてぞくりとする。


「はい……」


 わたしは泉に関する事を大まかに説明した。


 龍石はそのままではもう長く力を保てなかったであろう事。

 行ってみたら泉の水質が悪質となっていて、その調査をする為に潜ることになって起きた事件。

 龍石に見せてもらった過去と龍石の話。


 ドラゴンブレスライカの砕けた首飾りを出して見せながら、龍石のレプリカを作って来たところまで話し終えると、双葉ーちゃんはわたしをじっと見つめて言った。


「大吉と夕紀美が一緒じゃから……大丈夫だとは思っとったが……大変じゃったの…………」


 瞬きすることもなくわたしの目を見て。


「本当に……無事で良かった」


 多分双葉ーちゃんは知っていたのだ。あそこで何かが起こる事を……


「……すまないな、分かっていながらわし達は……」


「……いえ……」


 知っていたら行かなかったのか? 自問自答してみても、答えは見つからない……


 わたしはどうしたいのか。

 どうありたいのか。


「まぁ……幸いまだ生きてますし……」


 大吉さんの、みんなの役に立てる事が嬉しい。

 こうやって考えていると、自分というものが無いのかといろんな人に言われそうだし、時々自分でも思うけれど……


 多分、自分にはまだ“みんなの役に立ちたい”という思いよりも強い、欲望がないのだろうと……

 まだ────


「わたしが怪我をして泉に落ちなければ、水晶龍も、何も対策をせずに潜ったであろう私たちも、無事でいられたかはわからなかったと思うんです……」


 あの“怨念の塊、浮かばれない魂達”は、弱まっているとはいえ、龍石の清めの力をも抑え込んで水質を劣悪にまで下げていたのだから、もしあのまま素で水に入っていたら、何か別の大変なことになっていたかもしれない。今思えば。


「……もしそのまま水に入れば、お二人は呪いの瘴気に当てられて倒れ、夕紀美医師だけで処置と賊の対処をせねばならなくなり、結果的には全員無事ではすまなかった、と……私の力ではそう見えていました」


 花子さんが真剣な顔をして言う。


 それを聞いて思わず生唾を飲み込むわたし。


「確率的にはとても低かったですし、()()()()()ご一緒なので、心配はしていませんでしたが」


『大吉さん』という単語を妙に強調し、そう今度は笑顔で言われ、どう受け取って良いのか迷ったけれど、心では別のことを思いながら笑顔で双葉ーちゃんを見て言った。


 先日はそんなそぶりも雰囲気も見えなかった気がするけど……もしかして花子さんは大吉さんのこと……?


「それよりは、マシだった……。結果オーライってことで、いいんじゃないんですかね」


「感謝する……」


「……いえ……」


「しかし……その賊、何者で何のために首飾りを盗んでいったんじゃろうな……はじめ龍石の首飾りを奪い、次に水晶龍のも狙ったということは、奴らに二つ目の首飾りが必要だということか……」


 難しい顔をしながらドラゴンブレスライカの欠片を手にして言う双葉ーちゃん。


「もしかしたらそういう事も分かってるんじゃ、て思ってたんですけど……」


「わしらのような普通の巫女の力はな……神に寄る者や物の事は読み取れるんじゃ。

 直接会えばよりハッキリと感じるかもしれないが……」


「じゃぁ、龍石の事は……」


「水を通じてじゃよ。ここは山の中の方に聖なる者の宿る泉があるから、聖水としては必要ではないんじゃが、水質が落ちてきた時に持ち込まれて相談されてな」


 なるほど……


「その砕けた首飾りから、何か分かるかとも期待しておったが……どうやら賊は記録、記憶を断つようなアーティファクトを使ったようじゃな。コレが龍石のものだったのか、水晶龍の物だったのかすら読み取れん」


「敵は私達の力を知っていて、警戒している、ということですね……」


 随分と用意のいい、もしくは徹底して正体をバレないようにしているのか……

 花子さんの言葉からも、何やら組織的なものが、あの賊の背後にいるような気がしてならない……。


「そうじゃな。敵は大きな統制の取れた組織と見て間違いなかろう。

 蝶子の方からの情報からみても、な。」


「蝶子さんも同じような力を……?」


「あぁ」


「あと、蝶子と私は情報を共有できるんです。条件が揃えば、ですが……」


 え。じゃぁ……もしかして……

 わたしが大吉さんにお姫様抱っ…………じゃなくて。抱えられていた事もご存知で……


「とにかく、じゃ。これからまだ様々な問題も荒事も起こるじゃろう。水晶龍にはまだコレが必要のようじゃな」


 コトリと欠片を置いて双葉ーちゃんはそう言った。


「……そうですよね……」


 龍石は元々姿を変える力があったけど、水晶龍は龍石と首飾りのお陰で動く事ができていたのだから……


「見せてもらっても良いか? 連れてきたのじゃろう?」


「はい、もちろん!」


 水晶龍の中に入っている物の相談がメインなのだしと、わたしはウェストポーチの中から収納袋を取り出した。


「顔を出していいよ」


 三人の視線が集まる中袋はグニグニと波打ち、中から赤い目の水晶龍が顔を覗かせる。


「おぉ…………!」


 双葉ーちゃんは感嘆の声を出して覗き込んだ。

 水晶龍は一瞬後ずさるように避けるが、どこか首を傾げるような動作をしてから嬉しそうに体をくねらせた。


 きゅぅう、キュゥうん


 嬉しそうな声も出しているその姿を見て、


「双葉ーちゃんを覚えてるのね?」


 わたしの言葉に水晶龍はコクコクと頷いた。


 とはいえ、一体何で判別しているのか。何十年も立ってるのだから顔じゃぁない。匂いとかオーラ?


「わしは……動いている姿は初めて見る。

 そうか……このような姿をしていたんじゃな……」


 懐かしそうに水晶龍を見る双葉ーちゃんに、わたしは告げる。


「龍石の近くではこの状態で自由に飛び回っていたんですが、離れてからはこの袋の中でしか動けれないみたいで……」


 そこまで言って、あることを思い出した。


「もしかしたら……」


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