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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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194.しばしの別れ

『終わったよ』


 そう聞こえた気がしてふと目を開けると、赤い光も黄色い光も収まって、龍石は元の硬質な輝きを放っている。


「この……底の部分だけは以前と違うけれど……」


 ツルツルとしたそこの部分に触れると、何か力のようなものは感じた。


「どうやら成功したようだな……」


 龍石を取り出すためにまず台から下ろし、ひっくり返して元の風呂敷の上に置いた。


 再び俊快さんのアーティファクトで型の真鍮を剥がすと、ひびのない、少し艶が増したかのような龍石がお目見えする。


 剥がした真鍮は俊快さんの懇願で。持ち運びやすい玉の形となり、鞄へとしまわれた。


「……どうだ……?」


 型から出てきた龍石をしゃがんで見つめるわたしに、近寄ってきて大吉さんが言った。


「力は……以前と同じ龍石の力は感じます……。けど……」


 大吉さんの問いに、わたしはすぐには答えられなかった。


 龍石からは、少なくとも普通のレプリカではない、強い力を感じる。が───


 何かが違う……。

 でもそれが『何』なのかがわからない……


「生まれ変わった、っていう感じか……。

 正直ここまでの事ができるとは思ってなかったぞ……」


「何かわかるんですか……?」


「少しだけ、な……。力は同じ、少し変化は見られるが多分悪いものではない。これまでと同じこともできるだろう……ただ……龍石の意思や記憶のことは本人に聞かないとわからないな」


 そう言われて、少し安心はするけれど……

 わたしはダメ元で俊快さんに尋ねてみた。


「話……できそうですかね……?」


 俊快さんは静かに首を振り、言った。


「今は深い眠りについているようだ……。

 今日中に目覚めるのは無理だろう。早くて明日、数日後なら確実に目覚めると思うが……どうする?」


「俺は研究所に戻る。

 ひとまず清めの力はあるようだし、要観察として報告もしないとな。俊快はどうするんだ? 今すぐ帰るなら大吉をお前さんの荷物持ちに使ってくれて構わないが」


 早々に、荷造りを始めているらしい田次郎さんが俊快さんに聞く。


「そうか、助かる。じゃぁ直接の確認は後日するのか?」


「そうだな。水質が落ちたらすぐ連絡がくるようにはしてあるし、何かあったらまた呼ぶから、そしたら手伝いに来てくれるか?」


「一週間は家にいるから。その間ならな」


 龍石を元の場所に戻し、荷物整理を始めた時、大吉さんと俊快さんは色々打ち合わせをしていた。


 俊快さんは帰路で寄りたい場所があるらしく、神社ワープは使わず足で帰るそうで。


 せめて持ちやすいように石像と化している石膏を球体にしないか? 大吉さんが聞いて俊快さんがやってみようとした時、なんとアーティファクトが拒否。


 多分拒否。


 話しかけても、力を発動しようとも、うんともすんとも言わず。


「じゃぁ……まぁ、俺が壊れないように運ぶよ……。

 そのアーティファクトにとって、大事なモノなんだろうから……」


 必死に笑いを堪えながらそう言う大吉さん。


「……すまないな……」


 左手で顔を覆いながら俊快さんは答えた。


 御社殿を出て、外の小さな社前に来たわたし達は、しばしの別れの挨拶をする。


「じゃ、俺はこれを持って俊快さんの見送りに行ってくる」


 そう言ってわたしの頭を、ぽんぽん、とやさしく撫でる。


「………………」


 何だろうか。この数日でものすごい速さで進行している気がする。


 す…………


「藍華は双葉ーちゃんの方、頼むな」


 いい笑顔でそう言う大吉さん。


「本当にいいんですか? これわたしが使っちゃって」


 みーばぁの巾着を指してわたしが言うと、大吉さんは笑顔で答えた。


「あぁ。俊快さんの寄りたいところはここから直接ナラに向かった方が近いからな。

 ナラまでは荷物もあるから多少時間かかるかもしれないが、帰りはフルパワーで帰ってくるから」


 車より早そう。


「じゃぁ……気をつけてくださいね……?」


「あぁ、藍華もな!」


 眩しいくらいの笑顔で手を振る大吉さん。

(わたしにとっては)


「終わったらすぐに研究所、な。

 すぐに終わりそうになかったら研究所に一報入れといてくれ。直接向かうから」


 鳥居から崖の方へと向かう大吉さんと俊快さんを見送り、わたしは田次郎さんと共に一度宿へと戻った。


「ありがとう藍華。龍石の様子がもしわかったらまた連絡しよう」


「ありがとうございます……」


「心配するな……俊快も言っていただろう? 今は眠っているだけのようだ、って」


 大吉さんとよく似た声に、優しいその表情。


 ふわりと頭を撫でられて、さっき別れたばかりなのに、なんだか無性に大吉さんに会いたくなってしまう。


「藍華はそのまま双葉様の所だろう? 気をつけてな」



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