194. 愛されてるなぁ……
出来上がったのは────
なんと超リアルな俊快さんの石像。
その形がなんなのか判明したあたりから、田次郎さんは口を押さえながらプルプル震え。大吉さんとわたしは石像と俊快さんを見比べながらニンマリとしてしまい。
ふっと光が消え完成した石像を見て田次郎さんが笑いを堪えて一言だけ搾り出した。
「……愛されてるなぁ……」
「この子……あまり意志というか何というか……そういったものをあまり感じないな、と思ってたんですが……。とっても…………シャイな子だったんですね…………!」
「…………」
田次郎さんとわたしの言葉には無言で顔を逸らす俊快さん。
その顔が赤いのはお酒のせいか、それとも……
「なんなんだこのクオリティ……ってか、本当に意思があるんだな……⁉︎」
「……昔からいうだろう? 付喪神って。
アーティファクトとはその亜種なんじゃないかとオレは思うんだがな。年数経つと意思を持つのは、オレにとってはごく普通のことで、それが他の多くの人間には聞こえていないと理解するまではまぁ……大変だったな……」
そう言いながら苦笑する俊快さん。
きっと色々あったのだろう……これまでも……。
しかし『付喪神の亜種』とはまた面白い表現だとも思った。
たしかにナゴヤの翠様も稲荷の柘榴様も、付喪神といわれればそうかもしれない。
「オレのことはどうでもいい……。次は龍石だ気合入れてやれよ?」
あぐらをかいて座った俊快さんは、瓢箪抱えて腕を組んで言った。
「勿論です!」
念のため、大吉さんには竹で組んだ台を支えていてもらい、わたしは龍石の方へいき何故だか手を合わせて一礼した。
「では……はじめます」
右手にはめた新しいレプリカ製作用の子を見つめ、軽くキスをする。
お願い……。龍石のこれまでの記憶や力をできる限り記録して……!
指輪が眩く輝き始め、そこから伸びた光が龍石を包むと、龍石に見せてもらった記憶の片鱗が脳内を掠めていく。
大丈夫だ、この子がしっかり記録してくれている。
何故だかそう確信し、わたしは龍石に両手を向けて、俊快さんから借りたアーティファクトを発動した。
石膏のようには丸くならないようだが、龍石はその形をなめらかな表面へと変化させていく。
「持ち上げる時、重さに留意しろ。そういう変化をするやつはこれまで総じて重かった」
「わかりました。助言ありがとうございます」
ゆっくり、そぉっと、オマージュペンダントを意識して龍石を浮かばせる。
龍石はうねるシャボン玉のように中空へと浮かび上がり、ゆっくりと型の方へ移動させていく。
確かに重い気がする。
元々の重さもあるだろうけど、それ以上の何かを感じる。まるで龍石の持つ力や意志がそう感じさせているかのように……。
目には見えないその龍石の記憶が離れて行かないように、取りこぼす事ないように、ゆっくりと移動させよう。
そう思った時、右手の指輪の光が一瞬ゆらめき、まるでわたしの考えを肯定されているように感じて嬉しくなった。
大吉さんが支えてくれている型のところへ龍石を下ろしていくと、
「藍華、もう少し性質を水に近づけろ。そのままだと届かない細部があるそうだ」
「了解です!」
俊快さんがアーティファクトの言葉を伝えてくれる。
トロミの強そうな状態だものね……もっと水のようになるイメージを……。
下ろしながら、俊快さんのアーティファクトに、もう少し、頑張って龍石を水のように変化させて……とお願いすると──
唐突に質の変化した龍石はバシャァア‼︎ っと型に落ち込んでいき、数滴の黒い水が付近に飛び散ったかに思った。
ところが水は中空に小さな玉の状態で浮かんでおり、型へと入っていった。
「藍華、龍石の記憶の方は大丈夫か?」
「はい、多分。この子から伸びる光はずっと龍石を……飛び散りそうだった部分をも包んでいたので……」
「そうか……なら、もう分かると思うが、感覚を研ぎ澄ませ隅々まで行き渡った時に力をゆっくり抑え始めるんだ。そのデータと同時に……タイミングがずれないように気をつけてな」
「……はい……!」
感覚を研ぎ澄ましじっとその時を待つと、俊快さんのアーティファクトの光が強まったのと、わたしが『今だ』と判断したタイミングが同時だった。
「教えてくれてるのね、ありがとう……!」
ゆらめく型の表面、龍石の底に当たる部分を見つめながら、指輪と俊快さんのアーティファクトとを同時に意識する。
ゆるりゆるりと、光が収まっていくイメージを────
そして、かざしていた手を合わせるのではなく組んだ。二つのアーティファクトが力を合わせてくれるよう祈りながら。
指輪の赤い光と、俊快さんのアーティファクトの黄色い光が混ざり合い、段々と薄くなっていく。
またこの感じ────
『絶対大丈夫、私たちに任せて』
と言われている気がした。声は聞こえないけれど────
力を保ちながら、後は二人(?)に任せればいい……。
漠然とそう考えながらわたしは目を閉じた。




