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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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191.俊快さんの力の流れ

「これで一気に仕上げる」


 そう言って俊快さんが懐から取り出したのは、数珠のような物。

 ガーネットと水晶があるパターンで並んでいて、その中央に位置する玉は他の倍以上の大きさで、そこだけレジンでできているようだった。


 ちらりとだが、そこには歯車とホロがキラキラと輝いているように見え、その纏う光からはアーティファクトの中でも良いものの部類に入るとわかる。


 俊快さんは、合わせた両手の親指にそれをかけて目を瞑る。


 俊快さんのその手元からふわりと伸びる光のもや。

 石膏の修復した辺りを覆い、空気が動いた。


 不思議な感覚……大吉さんとも違う、夕紀美さんやアグネスたちとも違う力の雰囲気を感じる──


 時間にして五分くらいだったろうか、光はゆっくりと流れるようにして修復箇所と俊快さんの手元を行き来しているようだった。


「…………ふぅ…………」


 俊快さんは数珠を懐に戻し、右腕で額に浮いていた汗を拭ってから立ち上がり石膏龍石に近づいて、顔を限界まで近づけて指でなぞり、確認する。


「外側は問題なし、内側はちょっと休んでから確認しよう。待っててくれるか?」


「はい! お疲れ様です……!

 あの……近くで見ても良いですか……?」


「……好きにするといい……だが触れるのは確認後にしてくれ」


 そう言うと俊快さんは自分の荷物の時路に戻って寿老人の瓢箪を手にあぐらをかいて田次郎さんの横に座った。


「おーい、俊海さん。コレはどうしたら……?」


 石膏の瓶を手に、やってきた大吉さんと入れ替わりに石膏龍石の元へ行くと……


 外側からはひびが何処にあったのかすらわからない程に、自然で──馴染んでいる……。


「彫り物とか、石膏の事はよく知らないんですが……すごい、っていうことだけはわかります……」


 休憩の最中に、普段彫るものは仏像がメインで、こんな複雑な形のものに手を入れるのは初めてだと話してくれたが、とてもそうは思えなかった。


「ところで、相変わらずアーティファクト使用の持続時間と総量は伸びないままか?」


 訓練すれば多少は伸びるのに、と田次郎さんは呆れたように言う。


「まぁな。だがオレはそこまでアーティファクトに頼ってないし、必要としてないからいいんだよ」


 そう言って、ゴロンと寝そべった状態で頬杖を突き、瓢箪の酒をあおる俊快さん。


「でもここまで一人で来たんだよな? あの渓谷を越えて」


「そう、オレはゆっくり自分の足で移動するのが好きで、主なんだが。どのみち約束の時間にはアーティファクト使わなきゃ間に合わんし、オレにとっちゃ伏見までとここまでと、労力は同じだったんでな。

 そういうことで、今は特別ガス欠気味だ」


 一体どんなアーティファクトを使って来たのか。

 わたし達の様に体力の底上げをしてジャンプしてきたわけではなさそうだけど……。


 俊快さんがここに来るのに使ったアーティファクトも気になったけど、それよりも今気になっているのは、俊快さんが瓢箪をあおる度に彼のエネルギーが増しているような気がすること……。


「そのお酒って、回復薬のような役目もあるんですか?」


「おうよ、次の金型を作る作業の方がパワーがいるんでな。底上げ中だ。コントロールはさっきの石膏の処理の方が大変だが」


「コントロール力()本当に相変わらず抜群だな」


「……それだけでやってるからな、持続力とかパワーに関しては……まぁあれだ。ホットケ!」


 田次郎さんの含みを持たせた台詞に、俊快さんは笑いながら答えた。


「だからか? 銅像作るのに本来は粘土、石膏、銅像の順に型取って作っていくのに粘土の部分を省略したのは」


 銅像って、そういうふうに作るんだ? 知らなかった……


「それもあるがな。さっきも話したが今回のは普通に銅像が作りたいんじゃないだろう?


『龍石をできる限りそのままに』


 その目的のためには少しでも型を取る回数を減らした方がいい。アーティファクトというものはそういうものだ……と思っていたが、どうやら藍華のその指輪は規格外のようだな。能力が」


「そうなのか?」


 ギラリとメガネを光らせてわたしを見る田次郎さん。


「……いずれ提出しに行きますんで……これの他も色々……マッテモラエマスカ……?」


「藍華、この後双葉ーちゃんのところに行った時聞いておくんだ。研究所に提出しても良いかどうか。

 叔父さんも双葉ーちゃんには頭が上がらない。ダメだ、待てと言われればそれに逆らってまで研究しようとはしないから」


「……ひどいな大吉……オレはそこまで信用がないのか……?」


 しばらく雑談をした後俊快さんが鑑定をし、鋳造するのに問題はない、ということで作業が再開されることとなった。


 俊快さんは石膏龍石のすぐ横に広げた焦茶色な風呂敷の上に、大きなリュックサックの中からゴロゴロとした金属の塊を三つ取り出してきて乗せる。


 近くで見ていいかという問いに、俊快さんは良いと答え、大吉さんとわたしは俊快さんの横に立った。


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