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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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190.呼び方の変化

「ありがとう、君の力を貸してくれて──」


 手を取った瞬間から、わたしの感じていたドキドキは何処へか消え、水に包まれている龍石の感覚をハッキリと感じはじめる。


 ひんやりと気持ちよく包まれて──ただ小さい気泡がいくつか表面についていることがわかる──。

 それが段々と離れていき、水中を上っていく────


 ──あと一個──


 最後の一粒が水中を上り、消えた。


「──やります──」


 わたしは、スッと大吉さんの手を離し龍石に一歩近づいて、右手をかざした。


「発動」


 言葉と共に指輪が光り、呼応するようにドームの光の色が変化していく。


 ゆっくり、じっくり。時間がどれだけかかっても良い。俊快さんの言ったように、余す事なく──。


 十数秒後、わたしは向かって左隣に用意されている石膏の砂ヘと左手をかざした。


「龍石の形を写し取りたまえ──」


 光が少し強くなったかと思うと、石膏の砂の所に龍石を包んでいるのと同じ大きさで、ほんのり赤い光りのドームが現れた。

 龍石を包む藤色の水の感覚が、手の先から流れ込んでくる。藤の香りで自分が包まれていくような感覚と、安心感を感じる……


「反映」


 二つのドームが激しく光り、藤の香りがさらに強まった。


「お嬢ちゃん、その石膏は十キロに対して六リットルの水が適量だ。できるか?」


「大丈夫です。ありがとうございます」


 俊快さんの問いに、迷う事なく答えるわたし。

 細かい数値は確かに大事なのだろうけど、分量を間違わない自信がわたしにはあった。


 何故なら、石膏と水に一番良い状態での型取りを彼ら自身に願えば良いのだから。


「石膏と水よ、俊快さんの言った数値を参考に、龍石の型を取るのに最適な分量にて型を取りたまえ」


 言葉に呼応するように二つのドームの光が揺らぐと、その中で変化が起きていることが見てとれた。


 龍石を囲うドームから少しずつ水が減ると同時に、石膏の方のドームに水が流れ込む。

 それは不思議と龍石の型をそのまま空洞で残していっていた。


 ドーム内の水が移り切ると、龍石を包んでいた光りのドームが消えたかと思うくらい薄くなり、代わりに石膏の砂の方のドームの光が強くなる。


 光の中で何か白い物がまるで煙のように立ち昇り、渦巻いているのが見えた。石膏が水と混じり合いはじめたのだろう……。

 光は目視が出来ないくらいにさらに強まり、光り続けた。


 数分後、光が消えた後に残ったのは、丸い石膏の玉と龍石とそっくりに出来上がったレプリカ。


「なるほど……知らぬが故に頼る、か……。オレには考えもつかなかった方法だ」


 俊快さんは、感嘆の声と共にその出来上がった石膏の龍石のすぐ近くまで来て言った。


 若草色の風呂敷の上にできた白い、石膏でできた龍石の写し。深いヒビまでもが正確にトレースされている。


 舐めるようにして見てから龍石の方へ行きその表面を優しく触れる。


「ひびはこの部分だな……」


 ひびの部分にも触れて、何かを確認しているようだ。


「よし、じゃぁここからはオレの出番だな」


 言って立ち上がる俊快さん。懐から取り出した臙脂色の風呂敷を龍石の横、数歩は慣れた位置に広げた。


「藍華、ここに龍石を移しておいてくれ」


 呼び方が『お嬢ちゃん』から名前になった。


 少しは認めてもらえたということだろうか……?


 言われた通りにわたしが龍石を移動させると、俊快さんは田次郎さんに問うた。


「田次郎、石膏の砂はまだあるか?」


「もちろん。やり直しがきくように二回分はあるぞ」


 言って田次郎さんは背負ってきた大きなカバンから先程と同じ大きさの袋を取り出す。


「全部はいらん、がこっちにくれ」


 俊快さんはそう言ってチョイチョイ、と手招きをして石膏龍石の方へ持ってくるよう促した。


「大吉といったか、この(かめ)に半分でいい、そいつで水を出してもらっていいか?」


 俊快さんは自分の大きなカバンから、茶色くて梅干しでも詰まってそうな感じの手のひらよりは大きめの小さな瓶を取り出して言った。


「あぁ。半分だな?」


「藍華はしばらくそこらへんで座って休んでおけ。仕上げるのに一時間くらいはかかるから」


 そう言って瓶を大吉さんに渡して、先程まで田次郎さんと並んで座っていたあたりを指した。


「わかりました」


 ひびを埋める作業はレプリカ技術では不可能で、ここで仏師である俊快さんの技術が必要となる。


 田次郎さんがこっちにおいで、と俊快さんの荷物の置いてある反対側をポンポン、と叩いていた。


「お邪魔します」


 俊快さんの方を向きながら正座をすると、


「楽な体制でいいぞ、本当に一時間くらいはかかるから」


 石膏の砂を水で溶き、型に入れて乾燥させると出来上がるのが石膏。


 龍石を写した石膏は、水分を含まない龍石の写しなので、出来上がった時点で乾燥が完了しているが、ひびを埋めるのは俊快さんの手作業となる。


「わざわざあいつを選び呼び寄せたのはな、その技量がオレの知る中で一番高いからなんだ」


 昔ながらの製法で一から銅像作り続けてる異色のマスターなんざ、他にいないしな、と楽しそうに笑いながら田次郎さんは話した。


 大吉さんはそのまま俊快さんの近くでサポートをし続けて。俊快さんは、ひびの奥の見えない所までも何かをしているようで、丁寧にひびのある部分を修復していった。


 そして、一時間くらい経った頃──


「本当は時間かけて乾燥させるのが一番だが……」


 ひびを全て埋め終わったらしく、再び大吉さんに瓶を預け、懐をまさぐる。


「これで一気に仕上げる」

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