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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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187.固定観念に囚われて

「龍石から石膏に写す際だが、外側だけをトレースしろ。さっきお嬢ちゃんも言ってたが、最悪中身は後からでもついてくる。

 ならば中身や能力はあえて意識しないで、その形だけを正確に写すんだ。可能な限り。

 そうすれば能力の方に意識を割かなくていい分、形をトレースする精度も上がる」


「器だけを…………」


 レプリカ作業とは、そのアーティファクトの形と能力をまとめてトレースするもの、と思ってきたけれど、そうではないのかもしれない……


 いや、もっと自由なものなのかもしれない……!


 今朝このレプリカ用アーティファクトを作るために、能力をコピーすることは考えずに、別の能力をと想い、願いを込めて作ったけれど、俊快さんにはその更に向こう側が見えているような……


「もしかして俊快さん、よくこういう……外側だけのレプリカを作ったりするんですか……?」


「いや、オレが一番得意とするのは手彫りや手描きでな。

 オレは作るアーティファクトに明確な力の方向性を願わない。だから初めはなんの力も持たないものが出来上がる」


 そんな作り方もあるんだ……!


 俊快さんの言葉から、自分が固定観念に囚われていたのだと気付きはじめる。


「作る時に想うのは、これからどんな力を持とうとも、世の為人の為になってくれ、ということだけだ。

 オレが作るのは外側だけで、アーティファクトに力を持たせるのはその仏像や絵に、想いをかける者たちだから」


 この人は……力持つアーティファクトが重用されるこの世界にて、何という異色のマスターなんだろうか……!


「普段がそれだからか、作るレプリカもその色が濃くてな。姿形はオリジナルと遜色なく作れても、その力はおそらく通常のレプリカ以下になってしまう、だからオレは欠陥持ちの残念なマスターだ」

「その欠陥を補って余りある力を持つマスターだよ。その瓢箪にしたって、作るオリジナルの希少度がアホみたいに高い」


 間髪入れずにそう返す田次郎さんに、フンっと鼻を鳴らしてまた一口瓢箪の酒を煽る俊快さん。


「まぁ、あれだ。今回の──特に龍石から石膏にする時はこの手法を使った方がいいだろう……龍石をできるだけそのままにしてやりたいのだろう?」


「はい……」


 最後の工程、龍石を資材とする時に龍石の力や記憶を残すようにして作業しろ、ってことなのだろうと考えながらわたしは返事をした。


「どんなアーティファクトでレプリカを作ろうとも、その工程で僅かな力の差は生まれる。資材が違えば特にそれは顕著に表れる。

 今回の作業を従来の方法でやってしまったら、どうあがいても今の龍石に近いものは出来んだろう。

 ならばあえて今までの作り方なんざ忘れちまえ。

 石膏は力持たぬ空でいい。その代わり、その姿形、余すことなく正確に写し取れ」


「外側だけを……」


 意識すれば可能だろうかと言われたことを想像してみる。


「あと、聞くが……お前たち銅像の中が通常空洞だということを知らんだろう?」


「「……空洞……?」」


「大きさにもよるが……全部金属で埋めたらどれだけの重さになると思ってんだ…………?」


 呆れたような顔でため息混じりにそう言う俊快さん。


「言われてみれば確かに……」


「そうすると……そもそもレプリカの作り方だと無理なんじゃ……もしくは龍石にも空洞ができることに……なりますよね……⁈」


 そしたらわたしの安てはなからダメだったのでは……⁉︎


「まぁ……持って移動するんでなければ全部金属で作ってもいいんだが、そもそもそんな量の銅なんざこんなとこまで持ってこれるか」


「ちょ、待て! 叔父さんはわかってたのか……?」


「いいや? 銅像の作り方は知ってるが、空洞にしないで作ればいいと思ってたからな」


 二人のやりとりを聞きながら、わたしは一体どうしたら、という混乱で頭を抱えていると


「落ち着け。策はあるから……」


 曇天に差す一条の光、が見えた気がした。


「ど、どんな策ですか⁉︎」


「オレの所有するアーティファクトに、素材の形を変形させることのできる物がある。

 石膏でひびのない状態の型さえできれば、真鍮で型を取れる。そしてその型に龍石を資材として流し込めばいい」


「おぉ……!」


 田次郎さんは開いた左手に握った右手をポン、と乗せて言った。


「そうすると龍石の本来の硬度そのままに精製が可能になるのか……!」


「そうなるな、だがオレは多分石膏から型を取りおえたら力が尽きるだろうから、そこから先はお前らに頼むことになるが……。

 どうだ、やってくれるか?」


「……! はい! もちろん……!」


 これまで聞いたこともないはじめて触れるアーティファクトを上手く扱えるかはわからないし物凄く緊張するけれど……


「あと、最後の工程でだが、お嬢ちゃんの持つ指輪の言うやり方を試してみてやってくれ」


「指輪が……言う……?」


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