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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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185.その問いと、その恐怖

「おっさん──!」

「待ってください大吉さん!」


 大吉さんが食ってかかるように何か言おうとするのを、わたしは制止した。


 何故なら……その問いは、その恐怖は、ずっと自分の中にもあったから──


「……もし失敗して、なんの力も持たない置物ができたとしたら……わたしにできることはほとんどありません……

 でも、人が崇め、奉ることで再び力を持つことになるはずです何故なら、龍石はそうやって力を増してきたから──」


 自分が何を言っているのか、理解はしてる。他の人からしたら、失敗したら、人頼みでどうにかしてもらおうとしているってみえることもわかってる……。


 ……時間はかかるかもしれない。でもわたしはそれを確信している。


「始まりは自然の悪戯が龍石を作り上げたのだとしても、その力が増幅したのは祈る人々がいたから。

 人々がまだ龍石を必要とするなら、彼は必ず戻ってきます。

 そうなった時わたしにできることは──そのために毎日ここに通ってお参りすることくらいです」


 見せてもらった龍石の過去を思い出しながら……言葉にすることで、さらに確信感が増す。


「どれくらいの時間がかかるかはわかりませんが……」


 わたしはまっすぐ男の目を見つめ、男はわたしの目を見据えたまま押し黙った。


「…………」


 数秒間の後、田次郎さんが口を開く。


「そこまでだ、俊快(しゅんかい)

 こちらの総意はもう伝えただろう? もし成功せずとも、その時はその時、誰の責任にもならない。時が来た、ということなのだと。

 もし成功したなら、もうしばらく龍石に頑張ってもらわねばならない、ということなのだと」


 そう言いながらわたしと、俊快と呼ばれた仏師さんの間に立ってそう告げた。


「ちゃぁんと上にも話は行ってるしな。コレが証拠だ」


 そう言いながら、白衣の内ポケットから茶封筒を出して渡す。


「……珍しく用意周到じゃないか」


 俊快と呼ばれた男は中から一枚の紙を取り出し、それを開いて確認すると目を丸くした。


「オレにとっちゃこんな紙っぺらなんの強制力もないが──まさか……こんな上からの許可を得ているとはな……。

 まぁ……お嬢ちゃんの話を聞かせてもらって、一応納得はした。

 精一杯協力はさせてもらおう」


 仕方ない、といった半分諦めの表情でそう言い、紙を封筒に戻して田次郎さんにかえす。


 一体全体何処からの許可なのか。


「その子、藍華の実力等は双葉さまからも、五指に入るマスターからもお墨付きだ」


「誰のお墨付きだろうが関係ない。

 何より龍石も承知のようだからな……」


 そう言って振り返るようにして龍石を見る。


「……今も……龍石の声が聞こえるんですか?」


「今は深い眠りに入ってる……多分、作業を開始する前に話をするのはもう無理だろう……。

 ここに着いてそこを開けさせてもらった時すぐに、龍石がオレに告げたんだ。ここに来る者達が、これから何をしようとしているのか承知している、協力を頼む、と。

 それを聞いていなかったらもっと反対していた。

 だが──龍石本人が良いと言っていたんだ。オレにそれを拒否することはできん」


 腕を組んで、今度は真剣な眼差しでわたしを見る。


 胸にあった冷たい塊は少しづつ溶けていくようだった。


「……ありがとうございます……!」


「……ふん……しっかり見物させてもらうよ。その実力……」


 そう言うと俊快さんは、置いてあった大きな荷物を担いだ。


「さて、ここは作業するには少し狭い。拝殿の方で広げていいか?」


「もちろんだ。藍華の作業も拝殿でいいかい?」


 田次郎さんの問いに本殿部分をざっと見回してから答える。


「はい。わたしも広い方がやりやすいので」


 本殿部分は、龍石ほどの大きさのもののレプリカを作る作業には少し手狭だ。


「じゃぁ龍石を運びますね! 大吉さん、しめ縄とかを外してもらっていいですか?」


「おぅ」


 大吉さんがすぐさま動き龍石を動かすのに邪魔になりそうなものを取り除いていく。


「嬢ちゃんが動かすのか……?」


 拝殿の方に向かおうとしていた俊快が立ち止まってこちらを見る。


「重いものを動かすのに良いアーティファクトを持ってるので」


 ニッコリとそう答えて、目を閉じ胸のアーティファクトに意識を移す。


「藍華これくらいでいいか?」


 見ると、先日龍石に乗せてもらった指輪は手に持ち、その他の物、内部に取り付けられていたしめ縄、両サイドにあった榊を飾るための花瓶、水晶龍の場所である小さな座布団などを退けて床に並べてくれていた。


「はい。ありがとうございます!」


 お礼を言いながら何故か、大吉さんの手にしているあの指輪が気になった。

 まるでわたしも連れてって、と言われているような……


「指輪は持ってきてください……何か必要な気がするので……」


 自身の技術には……未だに自信は持てない。けど、この感覚は何故だか捨ててはおけない、気がする。


「俊快さん、龍石をどこに置くか決めてもらって良いですか?」


「承知した。先に作業用のシートをひかせてもらおう。オレの指定する位置に置いてくれ」

 俊快さんには大きな荷物を持って、先に拝殿へと移動し、わたしは龍石が崩れ落ちぬよう、慎重に力をコントロールする。


「発動」


 首から下げている空飛ぶ棒人間のアーティファクトが一瞬だけ強く輝き、淡い光がわたしの体を包み込む。

 力の度合いを確認しながら、手を龍石に向けて伸ばすと、光が伸びていき、龍石をも包み込んだ。


 通常光の強さは力の強さに比例する。


 龍石はゆっくりと浮かび上がった。


 まさか。あの陥没事故で沢山の瓦礫を動かした経験がこんなところで活きるとは……!


「……大吉さん、もしカケラとか落ちてきたら拾ってもらっていいですか?」


「了解した」


 加護があるおかげで、力の加減の具合がよくわからなかったけれど、あの時半日ぐらい使い続けた力のおかげで、多分一番加減がわかりやすい。


 あの時との違いをしっかり感じて、アーティファクトの力を発動する。


 入口は斜めにしないと出せれない。

 瓦礫がバラバラになって落ちぬよう、纏めて持ち上げた時のように、龍石のヒビが広がらぬよう、全体を回りの空気で固定するイメージを作り、そっと斜めにする。


 龍石は、ひび割れ部分がまるでピッタリとくっついているかのように、欠片が一つも落ちることなく正殿の社からでて水平に戻る。


 そのままゆっくりと拝殿の方へと向かうと、俊快さんがシートを敷いて待っていてくれた。


「そう、そこに頼む」


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