182.みんな知ってる⁈ 古の録画道具ミニDVDーRW
「割れたミニDVD-RW…………?」
何故……コレをわたしに……?
「何だ? それ」
ごもっともな質問で。
「えっと……映像を記録する為の物です」
高校生の頃、映画研究クラブの手伝いに駆り出されてビデオを撮る羽目になり、その存在を知ったのだが……
「わたしがいた時代でも、もうほぼ使われなくなっていたくらい古い物……だったと思うんですが……。
ビデオカメラというものに、コレを入れてスイッチを押すと、映像が記録されるという……」
「ほぉ……どれくらい記録できるんだ?」
「……確か三十分くらい?」
記憶を掘り起こしながら答える。
「アーティファクトにも映像を記録するものはあるが……昔はこういうものを使ってたのか……面白いな!」
割れて欠けて、完全な一枚ではないけれど、足りない部分の方が少ないくらいのそれは、鏡のように朝日を反射していた。
「………………」
鏡のように…………
「……!……もしかして…………!」
荷物置き場の方へ行き、ウェストポーチの中から、作業用セットの小さな缶を取り出し、戻る。
缶を開けて、中から大吉さんがわたしに、とくれたレプリカ用アーティファクトの指輪を取り出す。
鏡の欠片と金属性の、ダイヤ形透かしパーツの入った、赤っぽい半球の収まった指輪を。
「コレに入っているのはおそらく鏡……」
「? どうしたんだ……?」
大吉さんの言葉に返事をする余裕がない。
この思考の先をはっきりさせないと……!
「鏡は写すのが役目、けどそれは左右が逆になった状態で……」
それ以上は話しかけずに、じっとわたしを見つめている大吉さん。呟き続けるわたしを見守ってくれるつもりのようだ。
「CDやただのDVDは、映像まで記録はできないから鏡と似たような役目を持って……でもDVD-RやRWなら…………」
映像も音も記録する、それも書き換えも可能なDVD-RWなら……再利用が可能なはず。
「やってみる価値はありそうですね……」
となれば前は急げ。
「大吉さん、大吉さんのレプリカ用の指輪を貸してもらえますか?
「あぁ、いいぞ」
二つ返事にオッケーし、すぐさま自分の荷物から出してきてくれる。
わたしは再び荷物置き場にあるリュックサックから、レプリカ製作用シートを取り出してテーブルの上に広げる。そして作業セットの中から、必要なものを取り出した。
何となく持ってきたネイル系資材一式の中から、同タイプのダイヤ型の金属片、ミラーネイル用の粉、十ミリグラムのレジン。そしてDVD-RWの欠片から、作ろうとしてるサイズに収まりそうな物を一つ。
台座の金属部分をどうしようか……
はっと気づいて、装着していたベルトから伸びるチェーンを外し、その太い輪を見る。
コレだ!
「大吉さん、このチェーンの輪っかを端から三つ切り離してくれますか?」
三つもあれば足りるはず。
「お……おぉ……」
チェーンに付けたアーティファクトもつけたままにそれをわたし、目を瞑って頭の中でイメージを作り上げる。
しばらくすると、ヴンっという音と共に金属特有の澄んだキィンッという音がして、声がかけられる。
「コレでいいか?」
目を開くと、切り取られたチェーンの欠片を乗せた大吉さんの手が、目の前に出されていた。
「ありがとうございます!」
すぐさまそれを受け取って所定の位置に置き、自分用の指輪をつけて手を合わせ再び目を瞑る。
どうか……レプリカ製作のための最高のアーティファクトが作れますように……
コレまでは、と言ってもまだ数回しかしたことがないけれど、出来る限り同じ能力を、と望んでレプリカを作ってきた。
けれどコレは違う。
わたしは今から作るこのレプリカに、元となるアーティファクト以上……いえ、似ているけども違う能力を望む。形だけは同じで能力は使用する資材に沿うように、と。
龍石のレプリカを作る時にも同じ事をしなければならない。
形は写すが、中身は写さず、素材の力をそのままに。
コレがもし成功したならば、龍石の時も成功率がぐんと上がる気がする……!
「トレース開始」
声と共につけた指輪から光が伸びる。
大吉さんのレプリカ用指輪は見えなくなるほどに強い光で包まれ、その形を変えていった。
変化が止まって数秒間、それ以上形が変わらぬことを確認してから鍵となる言葉を放つ。
「反映開始」
すると、光が強まりそこから離れて今度は材料全体を包み込んだ。
何度やっても不思議で面白い。
薄い大きな光の中で、資材のみが強い光に包まれて、どんどんとその姿を変えていく。
強い光がトレースした指輪と同じ形を取ると、薄かった光が強い光に合わせるように強くなり、その中が確認できないくらいの強さで光ったかと思うと、スゥっと消えていき、後に残ったのは銀色の台座に赤色の透明度の高い丸いカボションの乗った指輪と、残った余分の資材。
「……できた……?」
「コレはまた……物凄いレベルのができたみたいだな…………」
出来上がったソレは、そこに在るだけで眩く輝き。
「……大吉さんもしかしてコレの光、見えてます……?」
「ふんわりと──なんだが……。
雰囲気というかなんというか……レプリカの域を超えてないか……?」
ひとまず手をかざしてその光を抑えるよう願うと、眩い光は収まっていき、特に光を纏わない状態の指輪が残った。
「全く同じ能力を望んだのではないので…………」
わたしはソレを見つめながら、ふわりと思いついた内容を言葉にしていく。
「通常のレプリカは力が半減してしまうんですよね……龍石にはそうなって欲しくないし、できることならあのままヒビがくっ付いたら良いのに、って思ってたんです…………。
でもレプリカの技術をどう工夫してもヒビがくっつくような案が出てこないんですよ……。昨晩田次郎さんにあの案を話してからもずっと考えてたんですけど。
ならばせめてレプリカの技術を上げれたら?
龍石には、そのまま……できることなら記憶も力も損なうことなくいて欲しい……。なんて……子供の駄々こねみたいでアレなんですが……諦めたくなくて…………」
大吉さんは、黙ってわたしの言葉を聞いてくれている。
「双葉ーちゃんからのソレを見て、閃いたんです。ソレでレプリカ用のアーティファクトを作れば、これまでの物よりもきっとずっとクオリティの高い物が作れる、と。
試してみないとわからないんですけど……」




