181.その作品の作者は……
その模様の一部に見知った形が入っていた。
似たような模様を使う人は多分いる。
それが偶然かそうでないかは作った本人にしかわからないことだが……。
でもコレに関しては、何か確信のようなものがわたしの中にはあった。
「この模様……クゥさんの作品の模様によく似てると思うんですが……どう思いますか……?」
その球体の、タスキがけるように描かれている模様の一部分を指してわたしは言った。
まるでト音記号のようなその形は、クゥさんが好んで作品に入れている形で見れば見るほど“そう”としか思えない。
「確かに…………
だが……もしそうだとしたらなんで印が入ってないんだ?
碧空作品には必ずと言っていいほど入ってる、入れてると本人も言ってたが……」
もしかして……!
「ちょっと貸してください!」
大吉さんの手からそれを借り、まず光に数十秒かざしてから、布団の仕舞われる押し入れにそれを持って入り、閉じる。
目を瞑り心の中でゆっくりと一から十まで数え、そっと目を開けてみると、暗闇の中で浮かび上がる文字が────!
「蓄光で入ってます!」
ガラガラっと勢いよく開けてそう叫ぶと、一体何を、と見にきていた大吉さんがすぐそこにいて。
「見てください!」
それを渡して大吉さんを押し入れに押し込み、襖を閉める。
模様には所々色が入っていて、その中でも一番スペースのとってある箇所、そこに『碧空』の文字が入っていた。
「……これはまた…………すごいな…………!」
押入れの中から聞こえた声に、大吉さんもそれを確認できたのだとわかる。
「……ちょっと待て……これ接続部にも何か文字が…………」
接続部の文字?
それは気づかなかった。一体なんて……?
「…………よく見えん。封入物が邪魔して……」
そうポツリと言いながら大吉さんは出てきた。
「どうやら電池式でもあるようだが……まさかまた……こんな形でクゥさんの作品と出会えるとはな……」
「接続部の文字、全然見えなかったんですか?」
「いや、小さすぎるのと封入物に隠れてて……。この蓋部分の金具の下にな、こう輪になるように文字が並んでるみたいで」
アーティファクトを持っていない左手で輪を作って話し続ける大吉さん。
「確認できたのは“縁”の文字だけだ」
「……何かちゃんと意味がある気がしますね……なんだろう……」
その“わからない”事を想像することすら楽しく感じてしまう。
ワクワクしながら思考を巡らせ、
「どんな力があるんですかね……?」
気のせいかな? わたしが持っていた時より光が強い気が……
「もう一回見せてもらっても?」
「いいが……ここで力の解放は……」
「しませんよ、ある物の確認だけです」
そう言うと大吉さんは再びそれをわたしの手に乗せてくれた。
わたしはそれを明るい場所、縁側へと持っていき内部、特にキャップの下部分をようく見てみる。
すると、とても見えにくいけれど使用者を特定する為のギミックが入っていることに気づいた。
「やっぱり……コレ使用者特定の仕掛けが施されてます。多分わたしには扱えない物です」
「なんだって……⁉︎」
「わたしが持っている時より大吉さんが持っている時の方が、反応が……光具合が強いので」
大吉さんはソレを受け取り同じようにキャップの下をじっと見ていた。
「どうしてそんな……」
「理由はわかりませんが、クゥさんからの贈り物、なんじゃないですかね……? 大吉さんへの」
双葉ーちゃんの言っていた、二十年後に返しにこい、という言葉の意味がよくわからないけれど…………
「ほんの少しだけ試してみるか……」
そう言った大吉さんは離れの庭に降りてアーティファクトの力を発動してみるも、強く輝いただけで何も起こらず。
「コレもまた何か特殊な発動条件があるんだろうな……」
そう言って軽くため息をつきながら戻ってくると
「……双葉ーちゃんこれ届け出してないんだろうな……」
そう、ポツリと言った。
「……色々なコトが終わってからでいいじゃないですか……? それまではとりあえず身につけてできるだけ知られないようにしとけばいいじゃないですか!
それで、わたしの作った子たちもよかったら一緒に提出に行きましょうよ」
「……身につける、か……
そうだな。そうするか」
何かを考えながら大吉さんはポケットからアーティファクトを取り付けているチェーンを取り出し眺め始める。
「じゃ、わたしのも確認します!」
テーブルのところに戻り、出した箱と小袋を見る。
まず小さな袋の中の小さな四角い石を手に出してみた。
受け取った時も一度見てみたけれど、ソレが何なのかわたしにはわからなかった。
「コレはいったいなんなんですかね……?」
手の上で転がしていると、差し込む朝日に照らされて、石がキラキラと輝いた気がした。
その時大吉さんが、突然後ろから顔を近づけて覗いてきて、
「なんなんだろうな?」
驚いたわたしの手から、石が飛び跳ね座卓の上を転がっていく。
すると、石は音も立てずにパカっと二つに分かれた。
「んああああ!」
「す……スマン……!」
割れた二つを手に取りみると、その石は構造的に簡単に割れるようになっているようだと気づく。
「……ん……この石…………」
何かこんな石の話を聞いたことがあるような……。
キュゥ〜ん
水晶龍……ドラゴンブレス…………
「……まさか……」
双葉ーちゃんのあの言葉……
「だ……大丈夫か……?」
黙りこくるわたしを心配してか覗き込んでくる大吉さん。
「双葉ーちゃんに聞きたいことができました……いや、話したいこと…………?
あ! すみません! 大丈夫です。コレは多分そのままでは使えない物なので」
そう言いながら袋に戻して水晶龍を避けながら収納袋の中に入れる。
「次、いきましょう! 次!」
そう言いながらお皿でも入ってそうな薄い方の桐箱を
開けると、それはさらに柔らかい布地で包まれていて。そっと布を開き、そこにあったのは──
「割れたミニDVD-RW…………?」




