180.本当の姿
そそくさと、服を持って脱衣所まで駆けていき着替えを済ませ顔も洗って部屋に戻ると、大吉さんも着替えて荷物の整理をはじめていた。
「あ、藍華。双葉ーちゃんから俺にって渡された箱、出してもらっていいか?」
「はい。そういえば何を頂いたんですかね?」
大吉さんの横に座って自分のウェストポーチの中から収納袋を出すと、モゴモゴと動く袋。
「「…………」」
それを見た大吉さんがわたしの所にやってきて、後ろから覗いてきた。
目を見合わせてから、そっと袋を開けると……ピュルンっと顔を出してくる水晶龍。
キュゥうん
「コイツ……! 龍石の結界の外なのに動けるんだ……?」
「多分……龍石に持たされた龍石の欠片が力を仲介してるんじゃないですかね…………?」
龍石のかけらもこの袋の中に入っている。
キシャー!!
大吉さんを見てまた威嚇しているその姿が可愛い。
「こぃつ……!」
威嚇されてムッとする大吉さんもカワイ……
「ん……? お前何で出てこないんだ?」
そういえば。
「ははぁん。その袋から出ると水晶に戻っちまうんだな?」
そう楽しそうに言いながら大吉さんはわたしの頭を撫でてくる。何故。
ギュイイイイィィィイイイイ!!!!
何とも言い難い、耳が痛くなるような鳴き声を出す水晶龍。
頭から左肩に手を移され、そっと抱き寄せられて、身体がビクンと反応してしまう。
「まぁ、そこで大人しくしてるんだな。出てきてもお前にできることゴフゥ‼︎」
飛び出てきた水晶龍が大吉さんの顔面へと激突した。
ゴトンッ……
そして龍に形をした水晶が畳の上へと転がる。
「……!……」
これが、水晶龍の本当の姿…………!
「いってぇ…………」
「だ……大丈夫ですか…………?」
わたしはとりあえず水晶に戻ってしまった水晶龍を拾い、大吉さんに聞いた。
「何とか……」
涙目でそう言う大吉さんの額をみると、大きなタンコブがそこに。
うわー痛そう、と思って手を伸ばすとウェストポーチの中のアーティファクトが眩く輝き、わたしの手から光が出て大吉さんのそのコブを包み込む。
「あ」
遠隔で反応したベルカナが大吉さんのそのコブをあっという間に完治させた。
「すげ……完全に痛みが消えた……」
「忘れてました……加護のこと……」
手にした水晶龍にヒビが入ってないかを確認し、
「一体わたしの何が気に入ってくれたのか……。
大吉さんの怪我がすぐ治るのは嬉しいんですけど」
座卓のところに移動して、双葉ーちゃんからの物を取り出して並べながら呟いた。
「ほんの少し思っただけでここまで力が発揮されるのはちょっと不味い気がしますね……はい、大吉さん」
おでこをさすりながら作業セットの入った袋を持って来た大吉さんに、双葉ーちゃんからの物を渡した。
自分の物も出してから水晶龍を袋に戻すと、袋は再びモゾモゾと動き始め、すぐに上半身を出して可愛い声で鳴きだした。
きゅ〜きゅ〜
ギシャァアアアアア‼︎
「無理やり出てきちゃダメ。お前にまでヒビが入ったら悲しいから……」
そう言いながら小さな龍の頭を指で撫でて、大人しくなった事を確認してから箱へと視線を戻す。
「そこに置いとくのか……?」
大吉さんは双葉ーちゃんからの箱に手を伸ばしながらテーブルの端に袋ごと置かれた水晶龍を見て言った。
「もう飛び出してきませんよ。ね?」
その美しいドラゴンブレスの目を細めながら水晶龍は答えた。
きゅぅううん
その様子をジト目で見ながら大吉さんは渋々と桐箱の紐に手をかける。
するりと外した紐を丁寧にくるりと纏めて傍に置き、開かれた箱の中には……
金色のビーズキャップが埋め込まれた丸い玉のストラップが入っていた。
玉の中には何も封入されていないようだが、外側にはタスキがけるように模様が入っていて、その内包物とその雰囲気からレジンで作られているらしいことがわかる。
「綺麗なアーティファクトですね……!」
「あぁ……なんなんだろうな、コレ」
紐部分を持って朝日に翳してみる大吉さん。
日の光を受けて、どんどん色が変化していく部分があり、温度で色の変わる資材が使われていることがわかった。
クルクル回り反対側が目に入ると、あることにわたしは気がついた。
「……大吉さん……それ……!」




