017.懺悔:お腹が空いてただけなんです
「藍華!」
倒れ込んだわたしを抱きかかえる大吉さん。
「大丈夫か?!」
返答はできなかった。
全員救出して緊張の糸が解けたのだろうか。体に力が入らなく、呼吸するのが精いっぱいで。声すら出すことが出来なかった。
ぐったりとした体に少し荒い呼吸なわたしを確認し、大吉さんが言う。
「使用過多か……⁉」
ぃえ、多分違います。意識ありますし。
「大吉っちゃん! こっちの怪我人は任せとけ!
その子を救護の所につれてったれ!」
「ありがとう、恩にきる! あとは任せた!」
一緒に救出作業をしていた知り合いに言われ、大吉さんはわたしを連れて全速力で救護の方へと向かった。
いやほら使えてる、使用過多じゃない。棒人間の指輪が使えてる。大吉さんの全速力、生身の人間にはキツいから──!
心の叫びはむなしくも届くことはなく。わたしは救護の場所へと連れていかれた。
それは、陥没現場の近くにある小さなビルの一階に設置されていた。
そこには医師が二人と看護師が三名来ているようで、わたしを抱えた大吉さんが飛び込むと、先程連れていかれた人たちも治療中のようだった。
「おそらく使用過多による昏睡なんだが、対処できるか?!」
だから、意識はあるんですってば……! 倒れた時はたしかに目も瞑っていたから気づかなかったのわかるけど。今も薄目しか開けられなく意思を伝える手段がないのだけれど。
看護師が一人来て、
「使用過多の昏睡には、特殊なアーティファクトかレプリカが必要となるので……」
「知っている。国から支給される物で、相性があって誰にでも扱えるわけではないし、医師でも持っている者と持っていない者がいる。ここにいないなら、その医師のいる場所を教えてくれ!」
「ぼ……僕が対処できます!」
ヒョロヒョロっとした体躯に、長めの髪を後ろで一つに束ねた丸眼鏡の男が部屋の奥の方から手を上げた。
「こちらにどうぞ……!」
そこには、大きめのデスクを合わせて簡易ベッドになっている物があり、わたしはその上に寝かされた。
「た……倒れたのはいつですか?」
「ついさっきだ。おそらく全員の救出作業を終えて気が抜けたのもあるとは思うが」
そう、まさにそれ。多分それ。
「……顔色も悪くなく、呼吸は少々荒いですが熱はない、そこまで酷くはなさそうですね。
よかったです……」
いや、昏睡ではないの。気づいてお医者さん。
「ですが、対処は早ければ早いほど後に響きません、全力でいきます───」
両の手を藍華の額部分にかざし、力を発しようとしたその瞬間。
きゅ……きゅるるるるうう…………
切ないようなその音が、ハッキリと自分の倒れた理由を主張した。
きゅるるるるるるううん…………
『…………??…………』
いやあああぁぁぁあああああ
「ちょっと待て……おい。藍華。おーい」
頬をペチペチ叩かれ刺激されたからか、先ほどまでよりはしっかりと目が開けれる
「……大吉さん……すみません…………お腹が空いて力が出ないみたいです…………」
朝から何も食べずに昼ごはんの時間も過ぎている。逆に今まで倒れなかったのが不思議なくらいだ。
「…………」
「だろうと思ったよ…………今…………」
大吉さんは、呆れも混ざっているけど、安堵の表情でそう言った。
「大吉さんはなんでヘーキなんですか…………」
「俺みたいなおじさんは朝食の一回ぐらいとばしても平気なんだよ。成長期はとっくに終わってるからな」
納得できない…………
「……とりあえず帰るか。早く飯くわしてやる。騒がせてすまなかった、ドクター」
「が……外傷も特にないので…………
でも今日中のアーティファクトの使用は控えて……くださいね……」
わたしを抱き抱え去ろうとする大吉さんにお医者さんが声をかける。
「ドクター、ありがとうございます」
大吉さんの肩越しにお礼を言って手をひらひらさせる。
眼鏡の反射光に目は見えないが、口元の表情から気持ちが伝わっただろうことは読み取れた。
「大吉さんもありがとうございます……」
「あぁ…………」
しがみついている状態なので表情は見えないけれど、その声と雰囲気からすると怒ってはいないようだ……。




