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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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176.藍華の提案

「すみません、一つ聞きたいことがあるんですが…………」


「何だ?」


「あ、大吉さんにもなんですが────」


 すぐに聞き返してきた田次郎さんと大吉さんを交互に見ながら話を切り出した。



 まず、わたしはこの世界で、大吉さん以外のマスターの事をよく知らない。

 何が、どんな物があの方法で生成できるのかもまだ全てを把握しているわけではない。多分……知らないからこそ疑問に思ったことがある。


「レプリカとは、一般にこういうもののことを言うんですよね?」


 そう言ってその部屋の天井からぶら下がるランプを指して言った。


「そうだ」


「これは、あの時代のわたしから見ると、一応レジンという資材から作られた物で、それに沿って作られた物、という印象なんですが……」


 実際に使われるガラス質っぽい物はとてもレジンとはいえれないけれど。

 この世界のレプリカの作り方が、他の資材にももし有効ならば…………


「他の材料で他の物のレプリカも作れるかどうかを知りたいです」


「……………………」


「他の材料と言うのは…………?」


 大吉さんは押し黙り、田次郎さんは的を得ないといった風に問い返してくるが……


「出来る……!」


 田次郎さんの質問に何か例えをと考え始める前に、大吉さんが何かを思いついて断言した。


「何だ…………?」


「藍華に見せたのはその部分だけのレプリカ作業だったんだが、金属部分もレプリカ技術で生成可能だ」


 やっぱりそうなんだ……!


「発掘されたアーティファクトに使われているワイヤー……よく傷ついたり千切れたりして。そのままじゃ使い物にならないんだが…………」


 もしかして、あのお店で使ってたワイヤー…………!


「千切れたものも傷ついたものも、作る時に使って残った切れ端も全部…………レプリカ技術で再利用してるんだ…………俺…………」


「やっぱり……そうだったんですね…………!」


「クゥさんが、メチャクチャ質の良いワイヤーを残してくれてってな……。切れ端すらも無駄にするべからずっていう書き込みから思いついたんだが…………」


 全ての物がその技術で加工可能ならば……


「提案というか考えというか……思いついたことが…………。

 ソレが許されるのかどうか、わからないんですが────」


 言葉にするにも勇気がいる。

 何故ならば失敗したらそこで龍石はこの世から消えてなくなってしまうのだから…………!


 ゴクリと喉を鳴らせてからわたしは言った。


「龍石のレプリカを作ってみるのはどうでしょうか…………?」


 わたしの突拍子のない提案に、二人の反応は分かれ、


「それは…………‼︎」


 大吉さんは少し戸惑い


「…………ひびはどうする?」


 田次郎さんはわたしの言葉の先を見据えて質問してきた。


「レプリカ技術は、元あるそれをそのままコピーする。ひびも写しとってしまうぞ?」


()()なんですよね……。

 それこそ過去に戻るか、なんかしないと無理そうで…………」


 なんとか龍石の姿形をそのまま写しとってひびをなくす方法はないものか…………


 田次郎さんは一瞬目を丸くしたかと思うと直ぐに細めて何かに気づいたように田次郎さんが切り出した。


「…………二人とも、ひびの状態は見てきたのか?」


「あぁ。首の辺りに一筋のひびがあったな……その周りも少し脆くなってるようだった。

 ただ、例えひびが完全に龍石を両断するように入ったとしてもすぐに落ちてくることはなさそうだったな……」


「…………いけるかもしれない……。

 まず龍石のレプリカを石膏で作る。

 石膏の状態でひびの部分を埋めるなり修復するなりしてから型を取ったら、精巧な龍石の銅像が作れる筈だ……。

 そしてその銅像からならばひびもない頑丈な龍石のレプリカが作れる。龍石自体を資材として……!

 ミリでの違いは出るだろうが…………このままではどのみち割れてなくなってしまう。清めの力も消失してしまうくらいだったら試してみる価値はあると思う…………」


 そう言うと腕を組んで目を瞑り、黙りこくってしまう田次郎さん。


 やるにしても上の許可とか、論理的には可能でも、それをしたあとどうなるかの保証はないし、倫理的にどうかと言われると……正直わからない…………。


 ただ……わたしの勝手な願いだけれど……龍石をあのまま一人で朽ちさせたくは……ない────


 田次郎さんは目を瞑ったままブツブツと工程の復唱をしはじめた。


 次の瞬間、目をクワっと見開いて組んでいた両手をテーブルの端に大きな音を立てて置く。


「ただこの工程全てに最上級のマスターの力が必要だ。少しでも可能性を、成功率を上げるために。

 レプリカ技術の最高峰の人物と、金型と銅像を作る技術の最高峰の人物が」


 レプリカ作業でも、技術力の差は出るらしく、より正確にトレースすることが必要となるらしい。わたしは大吉さんの作った物しか知らないし、元となったものとレプリカ作業後の物も大吉さんのでしか知らないので、未だにその差というものがよく分からないのだが。


「大吉、藍華のレプリカ技術はお前から見るとどうなんだ?」


 何故。田次郎さんは大吉さんにそれを聞いているのか。


「俺よりずっと上手い」


「じゃぁ決まりだな」


「えっと…………あの……何が…………?」


 戸惑うわたしに、田次郎さんは言った。


「知らなかったか? 大吉はこれでも日本で五指に入るレプリカ技術を持つ」


「……⁉︎……」


「その大吉が自分よりずっと上手いと言うんだ。

 適任はキミだ!」


 龍石のレプリカをわたしに作れと…………⁉︎


 えぇえええうぇえ!?


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