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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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175.調査報告

 医療棟から研究棟へと移動すると、処置室へ向かう怪我人や警備関係者のような人達とすれ違った。


 田次郎さんの研究室、その所長室へと入っていくと、


「お、来たか。まぁそこに座っておけ」


 促されるままに再び所長室のソファへとわたし達は座った。


 田次郎さんは所長用デスクで何やら書類の束を、ものすごい勢いでめくっている。


「大変だったな、神器が輸送中に襲われて奪われたって?」


「まったくだな。その上一つは完全に持ってかれて行方知れずだ」


 蘇芳さんが持っていた二つしか取り戻せなかったのね…………!


「今特殊隊には追跡専門の者がいないからな…………仕方あるまい。

 別の方向から探してもらわんと、な。

 コレだ。すまんが少し待っててくれ。なんだったらそこにある報告用の紙に記入しておいてくれると助かる!」


 デスク横の棚の上に、新しい紙の束が置かれていて、それを指して田次郎さんが言った。


 多分、ここまで急いでいる田次郎さんも珍しいのだろう、大吉さんが遠慮気味に応えていた。


「了解……」


 田次郎さんは大吉さんの返事を待つことなく紙を一枚持って部屋から出て行った。


「ここから輸送中ってことは……達磨頭取が運んできたあの神器ですかね…………?」


「十中八九、そうだろうな……」


 大吉さんはそう言いながら田次郎さんの言っていた報告用の紙を取ってソファへと座り。わたしもその横に、少し離れてちょこんと座って、大吉さんが書き込んでいるのを見つめていた。


 少し、いや、かなり気になる。一体どれが────


 半分以上書き込んだあたりで田次郎さんが戻ってきた。


「待たせたな。取り戻された神器の確認と、奪われた神器の詳細を特殊隊と警察に報告してきた。コレで後はあちらでなんとかするだろう…………!」


 田次郎さんは向かい側のソファに、バフン!と勢いよく座りもたれて天井を仰いだ。


「お疲れ様です…………あの、一つ取り戻せれなかった、てことですか……?」


「あぁ、一品だけな。襲ってきた奴等にとってよほど重要だったんだろう……真っ先に狙われて持ってかれたそうだ」


 大吉さんは気にせず書類の続きを書いている。


「あ、ここで喋ってることは機密事項な! 親しい者にももらすなよ〜?」


 ガバッと上体を起こして右手人差し指を立てて言う。


「は……はい……」


「そういう情報を……軽々しく話すなよ…………」


 書類書きながらも文句を言う大吉さん。


「特殊隊とのゴタゴタはもう勘弁だからなー……」


「皆分かってるから大丈夫。突っかかってややこしくしてるのは向こうだ。気にするな!」


 はっはっは、と大口開けて笑っているが、こればかりはわたしも避けたいと思ってしまう……


 出来ることなら顔を合わせることもしたくない……。


「まぁ、あちらは神器、こちらは水源の調査。重なることはないだろう。

 で、どうだった?」


「藍華、サンプルを」


 言われてわたしはポーチに手を突っ込んで収納袋から竹の水筒を取り出す。


 コトン、と田次郎さんの前に置くと。


「ちょっと待て。なんだその手品は」


 明らかにポーチの容量と水筒の大きさがミスマッチで、まずかった? と大吉さんを見る。

 大吉さんはわたしと目を一瞬合わせ苦笑してから田次郎さんの方を見た。


「おじさんは知ってるだろ? クゥさんの収納袋の存在を」


「双葉さんがOK出したのか⁈」


「今の政府ならもう大丈夫じゃろ、だってさ。責任重大だな?」


「今お渡しした方が良いですか……?」


 中には水晶龍もいるので、なんとか提出期限を伸ばしてもらいたいところなのだが、と聞いてみるが


「まだレプリカを作ってないだろう? お前たちがレプリカを作った後でいい。下手にこっちのマスターに頼んでアレコレされる前の方が良いだろう……」


「じゃぁしばらく藍華が持つってことで。

 でも他にバレないようにリュックくらい出しておくか。藍華、俺の分も出しといてもらっていいか?」


「わかりました」


 今度はしっかり中を確認しながら大吉さんのリュックと自分のリュックを取り出し足元に置く。


「一体どれだけ入るんだろうな………目の当たりにすると研究者の魂がウズウズしてくるぞ…………」


 多分、とても。今すぐ舐め回すように確認したいのを抑えている田次郎さん。目がコワイ。


「で! 泉の水だが────」


 田次郎さんの視線に気づき、まだ書き終わっていない書類の記入を続けながら大吉さんは、かいつまんで調査のことを話しはじめた。


「……そう長くは保たない……そう言っていたんだな……?」


「…………はい…………」


「龍石を頼らずにやっていく時期が近づいているのかもしれないな…………」


 その言葉にどんな思いがこもっているのかは、わからない。


 わからないが、ふと思いついたその案を伝えずにはいられなかった。


「すみません、一つ聞きたいことがあるんですが…………」


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