174.龍の加護
古の巫女レベル中の上?
龍の加護⁇
「古の巫女ってレベルが色々あるんですねー…………」
「いや、それよりも注目すべきは龍の加護じゃないか…………?」
わたし達の言葉に夕紀美さんは眼鏡を光らせたまま沈黙していた。
「ちなみに、命を削るタイプの──ってどういう風に出るんですか?」
「……生命変換だ……。生命力を文字通りアーティファクトの能力源として変換する……」
「それはないんだな……?」
「ない」
「じゃぁひとまず安心ですかね……?」
でもそうすると高出力のアーティファクトは一体何故?
「古の巫女、の方は詳細まで見えない。これは多分私のレベルが足りない、ということだろう……」
夕紀美さんでもレベルが足りない⁉︎
「医療系の鑑定なら私の右に出るものはないと言っても過言ではないつもりだが、これは純粋に鑑定の分野だな。鑑定専門のアーティファクト使いなら見えるかもしれない」
そう言いながらさらにジィッと見られる。
「だが、藍華の周りでこれまで起こった異様な出力の現象はこちらだな、龍の加護×二。こちらは詳細が少し見えてるようだ……
加護の内容はメインが“保護”その中にサブで“補助、補完”
詳細まではぼやけて見えないが……」
「補完て…………」
足りないものを補い完全にする。
「なるほど……メインが保護でサブがそれってことは、藍華を保護する上でのアーティファクトの効果を補助補完しているってことだな……?
増血は補完されてオリジナルと同等の効果になっていたっていうわけか……状況から考えるに」
「ベルカナの方は補助だな。だが一度で、それも一瞬で重傷者を完治……。規格外の効果だ…………」
「出来るだけ使わないようにします……」
知られればまず提出義務とやらを課せられるだろうし、下手に公になって狙われたりとかも、もちろんしたくはない。
「しかし、いつから……
泉の拝殿で治療してた時はなかったよな…………?」
「確かになかったな。あったらもっと治りは早かったはずだ」
わたしは血付きの羽織を持ったまま二人にマジマジと見られる。
「あそこを出てくる時じゃないか……?」
大吉さんの言葉に相槌を打つように、夕紀美さんが言った。
「…………気に入られたな? 龍石に」
「えー……記憶の映像一緒に見て少し話しただけなんですけど…………」
何も特別なことなんて、と戸惑いながら呟くが二人は苦笑しているのみ。
「そう簡単に外れる物ではなさそうだから、アーティファクトを使う時、よく注意するんだぞ?」
夕紀美さんにそう言われ、アーティファクトの光を抑える時のようにすればできるだろう……と頷くわたし。
「じゃぁ……後は私に任せて、田次郎のところへ報告に行っておけ。この時間ならまだいるだろう。
それと、今晩は大人しくしとけよ? 二人とも」
一応病み上がりなのだから、と夕紀美さんはクギをさしてきた。
大人しくも何も……特に予定は……
「酒もか?」
「飲むなとは言わないがほどほどが一番だ」
「夕紀美さんに言われてもなぁ…………」
「そこの籠に入れていけ。藍華、その血のついた羽織もだ」
「はい」
夕紀美さんが指して言った入り口付近の大きな籠には、これまでの人の物だろう血付きの服もあって、わたしはすぐに持ったままだった羽織を入れた。
「藍華は特に控えめにな。医療用アーティファクトは傷を負った本人の生命力を底上げして傷の回復を手助けするものだ。それこそ傷を回復させるのに生命変換してるようなものだから。
よーく休養をとるように」
等価交換、という言葉が頭に浮かんだ。
「…………はい…………」
同時に、大吉さんがこれまでどういう大きな怪我を負ってきたのかが、気になった。
よーく見ないと気が付かない程度の傷の跡が額にも腕にもあるから……。
「お前達の今日の仕事は、よく食べて、寝ること!
なんだったら田次郎の所は明日でもいいくらいだ!」
「そうはいかないだろう……。龍石の状態からしても。
わかったよ。宴会はほどほどにしとく」
大吉さんも入り口のところに来ると、タオルを籠に放り込み、ドアノブに手をかけた。
「じゃ、またな」
「夕紀美さん、ありがとうございました!」
わたしと大吉さんは、処置室を後にして田次郎さんの所へと向かった。




