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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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171.そのキスは何のため?

 どれくらいの時間そうしていたのかわからない。

 大吉さんはふっと離れると、私を抱き抱えるようにして狛犬の台の影に、あぐらをかいて座った。


 お姫様抱っこぉおお……!


 わたしはというと、大吉さんの左肩に顔を押し当てるようにしてそのまま抱き寄せられ、足はあぐらをかいた大吉さんの右膝で軽く曲げた状態を保ち、ただ座っているよりもずっと楽な体制ではあるのだけれど、冷静に考えると物凄い体制で顔から火が出そうだった。


 拒否する理由も見つからず、行き場を無くした手を軽く大吉さんの背に回すと、


 一瞬ビクリと大吉さんは反応して、小さな声で言った。


「突然…………スマン…………」


「…………ぃぇ…………」


 高鳴る心臓そのままに、安心して全体重を預けると、大吉さんの鼓動の音が聞こえてきた。


「な…………あいつに……されたのか…………?」


 大吉さんの吐息が頭上を駆ける。

 肝心の部分が聞こえなかったけれど、何を言われたのか想像はつき、今度はわたしが身体をピクリと震わせた。


「増血アーティファクトのレプリカは、直接触れていないと他人に影響を及ぼせない……勿論手を握ったりするだけでも良いんだが…………」


 柘榴様は神器でノーカンと心の底から言えたけど……

 今回のこの増血処理だってイコール医療行為。

 これもノーカンといいたい。


 あれ⁈ でもちょっと待って。その前に盗賊のところで痺れ止めの薬飲まされるのにまず…………‼︎ 大吉さんに…………!


 などと頭の中でグルグル考えていると


「キス……されたんだな…………?」


「…………突然腕を引かれて……バランス崩したところに突然…………」


 改めて口で告白するとまた心臓が激しく鼓動を打ち始める。


「い……医療行為です……! あえていうならあれはれっきとした医療行為…………」


 っていうか、それ以外認めたくないっ…………


「増血はちゃんとされてるのか…………?」


「…………頭痛はだいぶ減りました…………」


 今は別の意味で倒れそうなほど心臓バクバクしてますが。


「そうか────」


 そういうと、背から左肩に回してギュッと抱きしめていた左腕の力を緩めて、わたしを身体から離し、見つめてくる。

 その表情は先程とは打って変わって柔らかく、何処か真剣で…………


「じゃ、これも────医療行為か────?」


 そういうと、目を瞑って唇を合わせてきた……。


 え、じゃぁさっきのは…………?


 蘇芳さんから借り、大吉さんがポケットに押し込んだアーティファクトが反応し、光り輝く。


 その光量は、レプリカのはずなのに、大吉さんが棒人間の指輪を使う時よりも強く。


 わたしも目を閉じると、アーティファクトの力が働いているのがハッキリとわかった。


 体全体に力がみなぎってくるかのように感じる────


「どうだ……? 少しはマシになったか……?」


 いつの間にか離れていた唇に、大吉さんの放った言葉で気がついて、ハッと目を開いた。


「は……! はい…………!」


 見下ろしてくる大吉さんの表情は、心配している雰囲気を含んでいて、どれくらいの時間経ってたのかとか、もしかして寝ちゃってた⁈ とかいう疑問はとりあえず横に、もう一度目を瞑って自分の体の具合を感じとってみる。


 目眩もなくなってすごくスッキリしている気が…………


「すごく……頭もクリアになってて……頭痛も目眩もなくなってます…………!」


 体に力が入るもわかる。


 再び目を開くと、大吉さんの嬉しそうな柔らかい笑顔に、顔もセリフも何もかもが崩れ落ちそうになる。

 思わず、ものすごい勢いで大吉さんの手を振りほどいて飛び起き立ち上がってしまった。見ると大吉さんの手は、わたしを抱き抱えていた状態そのままの形で固まり目は点になっていた。


「見てください! ジャンプもできます‼︎」


 そして。気まずくならないようにと、屈伸運動してみたり、ジャンプしてみたりして、とにかく大丈夫アピールしてみている自分がそこにいた。


「…………それだけ動けるなら大丈夫そうだな。

 だが……一応増血師のところへは行こう。まだ必要かどうか診れるものもいるはずだから」


 苦笑しながら立ち上がり、服についた砂を払う大吉さん。


「歩けるか?」


「はい!」


 いつもの笑顔に戻った大吉さんに、元気な声でわたしは答えた。


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