170.医療行為……?
「蘇芳‼︎」
道の雑踏の向こうから、大吉さんの声が聞こえた。
瞬きするくらいの一瞬で、まるで風をその身に纏っているかのように、大吉さんが蘇芳さんに殴りかかってくる。
蘇芳さんは寸前で、顔面に来たそれを手と腕を使ってガードして片膝立てた状態で数メートル境内の中へとずり下がった。
「何……してる…………‼︎」
解放された反動でへたりこんだわたしと蘇芳さんの間に、わたしをガードするように立つ大吉さん。その背からは燃えるように熱い気配……というのだろうか、何かを感じる……。
「オレはソイツを助けてやってただけだ。不甲斐ない誰かの代わりにな…………」
「なんだと……⁈」
「増血アーティファクト使いの医者はどうした?」
「…………警備隊の治療がまだ時間がかかると…………」
予想はしてた……。
警備がどれくらいの規模だったのか、どれくらいの被害が出ているのか、わたし達は知らなかった。まだ増血師がすぐには来れないかもしれないことも、もしかしたら大吉さんもすぐには戻れないかもしれないこともわたしは想像していた。
それでも移動せずにここで休憩している方がわたしの体には良いと思ったから、わたしはここにいることを選んだのだ。
「……だろうな…………
藍華……だったか? オレの手持ちの増血アーティファクトのレプリカで少し治療しておいてやったぞ。無理をしなければ医療班のいるところまでは行けるだろう。
それとも…………お前が治療するか?」
「レプリカってことは……」
「みてたんだろう? だからわざわざオレの名を呼んで、気づかせてくれたんじゃないか?」
わたしからは大吉さんの背しか見えない。
見えないが、その場の空気が明らかに空気が変わった。
「…………そのレプリカを寄越せ。
後で熨斗つけて返してやる…………!」
冷気、とでも言うのだろうか。
まるでそこに大きな氷の塊があるかのように、大吉さんを中心にヒヤリとした空気が蠢いた気がする。
コレは、敵意…………?
その大吉さんの気配の変化に、頭にのぼっていた血はすっかり引いて、その後ろ姿を見つめた。
「…………はっ……いいだろう。
だが、お前の手が離れたらすぐにでも迎えにいくからな……」
大吉さんのダイレクトな敵意を受けて少し気圧されているのか、強気な声とは裏腹に蘇芳さんの目には少しの焦りのようなものが見えた気がする。
「何故だ……? お前にはチームも、慕ってくる仲間もいる。帰る場所だってあるだろう……?」
「……わからねぇよ……。
あえて言うなら……魂が呼ぶんだよ。
コイツを手に入れろ、離すなってな…………」
ナニソレ。
絶対的に拒否してやる……‼︎
両者、しばらくの沈黙の後、
「ちっ…………ほらよ!」
蘇芳さんが大吉さんに向かって何かを放り投げた。
それを、蘇芳さんから視線を逸らすことなく受け取る大吉さん。その体からは未だ冷たいオーラが湧き出ている。
「オレは取り戻せた神器を輸送してくる。
治療が終わったら特殊隊員の詰所にちゃんと届けろよ…………」
すっくと立ち上がり、蘇芳さんは棒人間の指輪を使用して日の落ちた夜の空へと消えていった。
そっか……神器は取り戻せたんだ……よかった…………。
怒りと混乱で気づかなかったけど、夜空に跳んで行く寸前、たしかに彼の懐に強い光を二つは感じた。
もう一つは…………?
三つ目は別の人が持ってるのかな? と考えながら、彼の消えていった空を眺めていると、
「……藍華…………」
気づいたら大吉さんがこちらを向いてわたしを見つめていた。
「大吉さん…………」
「立てるか……?」
しゃがんで、目線を合わせてきた大吉さんの顔が、直視できなくて、わたしは視線を地面に向けた。
蘇芳さんに向けていたような冷たいオーラはもう感じない。感じないけれど…………
手に力を入れ、立ち上がろうと試みるが、足腰が思うように動かなかった。
「……まだちょっと無理っぽいです…………」
ふぅ、と軽く一息ついてそう言うと、大吉さんは俯き気味なわたしの顔の前に一気に近づいてくる。
元々動けれない状態だったけれど、大吉さんの顔を見て、更に金縛りにあったかのようにわたしの身体は固まった。
その表情は硬く、瞳には何処か怒りの感情がちらついていて────
そしてそのまま唇を合わせてきた。
「…………‼︎…………」
驚き目を見開くと一瞬目が合って、大吉さんはすぐに目を閉じ、その長いまつ毛が目に写る。
そのまま抱きしめられ、嬉しさと何とも言えない気持ちでわたしも目を瞑った。
ここまで読んできてくれている方々に改めましてお礼とお詫びを。
作者、色んな大賞に挑戦する為、改稿作業に重きを置く為2月末まで更新をお休みさせていただきます。
ストーリーの軸は完結までありますので、生きてる限りは完結までいくことをお約束します(^^)!
しばしお待ちをー!!




