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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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168.お姫様抱っこ

 拝殿にて、とりあえず先に着替えよう、と大吉さんに外に出ていてもらい、夕紀美さんに着替えを手伝ってもらったが、体を起こすと目眩が酷く、向こうの世界でだらけてベッドの上で着替えていた時のようにして横になったまま着替えた。


 それから一時間後くらいにもう一度治療を受けるものの、失った血の量は多かったらしく、全快には至らなかった。


 とにかく飲め、沢山飲め、と泉の水を飲まされて。

 治療を受けての繰り返しで、遅い昼ごはんを摂る頃にはなんとか体を起こせるくらいには回復していた。


「な、飯とか持ってきててよかっただろ?」


「まさかそんなに持ってきてるとは思ってなかったぞ。しっかりスイーツも持ってきてて。

 砂糖は貴重なのに、よく手に入ったな?」


 大吉さんの持ってきたスイーツ、練り切りをつまみながら夕紀美さんは言った。


「そこはまぁ宿に頼んで、ツケといて貰ったさ!」


「それって……達磨頭取に…………?」


 はっはっはっは、と笑う大吉さんに、ポソリとつぶやくと、大吉さんはしーっと口の前に人差し指を立てて見せた。


「さ、じゃぁこれで少しエネルギー補給したら、出発だ。藍華は俺が抱えてく。谷越えのジャンプの時はしっかり指輪の力で強化しておけよ?」


「わかりました、ありがとうございます……」


「夕紀美さんにももう話しちまったから、収納袋に大きな荷物は全部入れて、俺も藍華もウェストポーチだけにしていつでもアーティファクトを使えるように準備。そして収納袋だが…………」


 キシャー!!!


 相変わらずわたしの胸の辺りでゴロゴロしている水晶龍は、クワっと口を開き大吉さんに向かって威嚇する様に鳴いた。


 すると大吉さんはガックリと項垂れて言った。


「わかったよ……藍華…………頼んでいいか…………?」


 昼ご飯前、俺が連れてってやるからこの袋に入っててくれるか? と質問した大吉さんの手を、水晶龍は尻尾で叩いて袋を奪い去り、わたしのお腹に乗っけてキシャー! キシャー! と大吉さんに向けて威嚇するような声を出して鳴いていた。


 わたしが持つなら入ってくれる? というわたしの言葉にキュルキュルと甘えたような声で鳴き、あっさりとわたしが持つことが決まったのだ。


「大吉、諦めろ。そいつにとってお前は多分ライバルみたいなものだ…………」


 ぷくくく、と笑いを堪えて言う夕紀美さんに、


「なんだよライバルって…………」


 そう大吉さんはぼやいた。


「向こうに着いたら、すぐに増血師の所へ行くぞ。キツイだろうが出来るだけ|再生のアーティファクト《ベルカナ》は使うなよ? 増血のアーティファクトが効かなくなるからな」


 ベルカナは失った血までは補給出来なかった。

 怪我をして血を失いすぎる前に治療したなら、どこまで治療できたのかはわからないけれど……今は特に試したいとも思えない。


 万能かと思ったら、色々縛りのあるアーティファクト。色々考えられて、そうなっているような気がしてきたけれど、それはまた後日ゆっくり考えよう……。


 そう思いながらわたしは返事をした。


「了解です」


 申し訳ないかな、帰りはずっと抱えてもらうこととなってしまった。何せ立ち上がると目眩がして立っていることもままならず。

 向こうの世界ではなったこともなく、貧血ってこういうものなの? という初体験だった。


 驚いたのは、大吉さんがあの崖をわたしを抱え、夕紀美さんを背に乗せた状態で飛び越えたこと。


 帰りは高低差的に、飛び降りることになるので行きよりは楽とはいえ……。


「…………!…………」


「大丈夫か……?」


 身体能力の強化はしているものの、流石に着地の衝撃は感じるため、一瞬息は止まるし眩暈もしたが、目を瞑って呼吸を整える。


「なんとか…………」


 首の部分を意識的に強化していてよかったと思った。何故ならこの体制(お姫様抱っこぉぉおお‼︎)、着地時の衝撃がほぼそこに集中していたから。


「藍華、無茶は厳禁だ。頭痛までしたらちゃんと言えよ?」


 夕紀美さん曰く、目眩が危険信号、頭痛はドクターストップの域なのだそうで。


「まだ軽い頭痛なので大丈か」


「それは危険信号だ! 大吉ストップ‼︎」


 夕紀美さんの号令の元、行きでも休憩した崖の手前の岩の部分で少し休憩を取ることに。


 幸い、そこから先は先ほどのような大きな衝撃を受けるような箇所はなく、日が沈み始める前には、キヨミズ医院前まで無事に到着することができた。


「到着だな、二人ともお疲れさん!」


 笑顔でそう言う夕紀美さんに、わたしは申し訳なく


「でも……わたし帰りは大吉さんに連れてきて貰ってるんで…………。大吉さん……そろそろ降ろしてくれてもいいですよ……?」


「増血師のとこまではこのまま行く」


 キュッとわたしを抱えている手に、改めて力を込められ、キューっと頭に血が上ってくる。


「じゃぁ増血師のところに────」


 夕紀美さんがそう言いかけたところに、慌ただしく担架に乗せられた怪我人が何人も運び込まれて来た。


「急げ‼︎ 医師もかき集めるんだ! まだ来るぞ!」


「なんだ…………?」


 只事ではないその様子に、夕紀美さんは付き添ってきた医師らしき人に駆け寄り問いかけた。


「どうしたんだ⁈」


「夕紀美さん‼︎ ちょうどいいところに!

 トウキョウからの神器を輸送していた警備隊が襲われました! 重傷者が多く運び込まれます!

 どうか治療を……‼︎」


 担架に乗せられた人は、見覚えのある羽織を着ていて、それが警察関係者だとわたしは気づいた。


「わかった! すぐ行く!

 が、増血師はどこにいるか知ってるか⁈ こちらも急患で私のアーティファクトでは増血の力が足りないんだ」


「増血師は今全員現場に行ってます……! 待機予定の増血師は偶然ここにくる途中が現場で……怪我人の多さにそこに留まることを決めたので…………」


「現場は何処だ?」


 急ぎはするが、焦らず夕紀美さんは問うた。


「マルタとシカガヤのT字路のとこです!」


「ここにくる者は全員増血処理済みか。わかった、すぐ行く。お前は先に行って用意してくれ!」


 そう医師に告げると、夕紀美さんはわたし達の方へと駆け戻り言った。


「すまない藍華、大吉。

 藍華は現場に向かって増血してもらったほうがいい。だいぶ頭痛も出てきてるだろう?」


 バレてた。

 あともう少しだから、と言わなかったことがバレてた。


「……そうなのか……?」


「……はぃ…………」


 大吉さんの言葉に小さく答える。


「大吉、くれぐれもゆっくりな。飛んだり跳ねたりってのはダメだぞ、絶対!」


「わかったよ」


「コレを渡しておく」


 そう言ってズボンのポケットから何かのチャームを取り出して大吉さんへと渡した。


「コレは私の身分証の写しだ。コレを見せて理由を話せばその場で差別なく治療が受けれるはずだ。場所は聞こえたな?」


「あぁ、大丈夫だ。ありがとう、じゃぁこのまま向かうよ。夕紀美さんも気をつけてな」


「藍華が良くなったら、田次郎に報告に行ってくれ。

 またな!」


 くるりと踵を返し、夕紀美さんは病棟へと走っていった。


 それをを見送り大吉さんは、ゆっくりと振り返り出来るだけ揺れないように歩き始める。


「さ、じゃぁ行くか」


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