166.水晶龍の能力とは
水晶龍は突然その球を自分の口へと押し込んだ。
「……‼︎…………」
「コイツ…………! 何して…………⁉︎」
その瞬間を見た大吉さんは慌てるようにそう言って、水晶龍を捕まえるポーズを取ってストップしている。
「待て、大吉! …………もしかして……水晶龍の体内にあることでその保護の球が保たれてたんじゃ…………?」
夕紀美さんは、鑑定アーティファクトで水晶龍を見ながら言った。
「夕紀美さん…………何か見えますか…………?」
「鑑定アーティファクトには…………主要能力“無限の胃袋”と出ている。サブ能力が水を清める浄化能力。
胃袋の方に、プラスの効果として……能力の高い順に、浄化能力、最高七十二時間、中身の時を止めて保存を保証。……と…………」
浄化能力……!
「浄化能力…………? じゃぁコイツが腹の中に持っていることで保護の結界が七十二時間は保たれるし、浄化もされるかもってことか……⁉︎」
「おそらく……」
「じゃぁ……首飾りの欠片……完全じゃなくてもその子が持ってた方がいいです……。多分……」
「何でだ?」
大吉さんがそう聞いてきた。
「まだ微かに力を感じるんです……
その首飾りは龍石と水晶龍の力を底上げしてくれる増幅器の役割だったようなので……」
「…………そうするとそいつを連れていかなきゃいけないってことか⁈」
「…………そうなりますね…………先ほどの様子からすると、少なくとも水晶龍のお腹に入っていればこれ以上、保護の結界が外れることは無さそうですし…………でも水晶龍一匹で浄化できるものなら、そもそも水質は落ちてなかったと思うんですよ…………」
「そうだな…………能力名のところにいつ頃取得した能力か、日付が出ているが、おそらくここに来た当初から持っている能力のようだから…………おそらく水晶龍の浄化能力では完全浄化ができないのだろうな」
「能力の組み合わせからすると、いずれ一人で水の輸送もできるように、と考えられていたようだな」
たしかに。泉の水を体内に入れ、浄化しながら輸送することが目的のようにも思えるけど…………
この子を今、龍石から離しても良いものなのか……わからない…………。
できれば離したくない。離したくないけれど……このままでは今より状況が良くなることは……おそらくない。
「だがコイツを連れてってしまって、龍石は……水質は大丈夫か?」
「数日は大丈夫だろう…………元々あの水晶龍は体内の方が清める力は強いようだし、その能力もそこまで高くはないようだし」
「龍石と…………なんとか話ができないですかね…………?」
この中で龍石と話ができそうなのは、わたしだけ。ということで、大吉さんに抱き抱えられて龍石の元へ。
心頭滅却すれば火もまた涼し。お姫様抱っこぉおおお……‼︎
下手に頭に血が登ったら大変なことになりそう。と、もうすでに半分逝っちゃってそうな脳みそで必死に堪える。
夕紀美さんにはわたしのポーチを持ってきてもらい、わたし達は再び龍石の前に立った。
水晶龍はわたし達より先に飛んで来ていて、龍石を見上げるようにしている水晶龍は、どこか寂しげで、これからここを離れることを理解しているようだった…………
「ここでいいか? 座るか……?」
「いえ、このまま……重くなければ…………」
「俺は大丈夫だ……!」
何故か顔を背けてそう言う大吉さん。
「じゃぁ……話しかけてみます……」
目を瞑り、あの心地よい暗闇を思い出す。
闇に包まれ、滴る水の音とあの場所の空気。
きっと、ずっと龍石の記憶の根底にあるあの空間を…………
(龍石よ、聞こえる……?)
語りかけて数十秒、思い浮かべている暗闇に、黒く光る龍が現れる。
(さすが…………古の巫女…………自力でこの空間を視に来るとは…………)
あの空間にいた時より、随分と弱い光のようで、今にも暗闇に溶けていってしまいそうな黒く光る龍は、穏やかに問うた。
(何用だ……?)
(水晶龍をしばらくお貸し願いたく…………
泉を汚していたアーティファクト、それを然るべきところに持っていって浄化してもらう為に…………)
連れていってしまったら、龍石は本当に一人になってしまう。浄化にどれくらいの時間がかかるかわからないし、浄化できるのかどうかも今はまだ……絶対とは言えない。
(よかろう…………。
そうか…………少し……寂しくなるな…………。
だが、我にもしものことあらば、お主ならば任せられる……あの小さき友を…………)
そこまで酷いひびなのか……次地震が起きたらどうなるのかわからないと言っていたし…………
(少しでも貴方が元気でいられるように、首飾りの代わりにはならないかもしれないけれど…………わたしの作った身代わり護りと役立ちそうなアーティファクトを置いていきます)
(そうか……ありがたい…………)
もしあの過去の巫女さんがトウマさんだったなら……作品交換でいただいたあの指輪はきっと、龍石にとって悪いものではないはず…………
(すまぬが少し力を使いすぎた…………我はしばし眠りに入るが、お主らの行く道に幸あらんことを祈っている…………)
(必ず連れて戻ってくるから……! どうかご無事で…………)
(その心遣い、痛み入る…………
我の首のひびの所に、触るとすぐ取れる部分がある……それを持っていけ…………
何かの役に立つかもしれぬ…………)
(ありがとうございます…………!)
黒く光る龍の姿は消えていき、心地よい暗闇もフッとどこかに消えたように、閉じていた目に淡い光を感じる。
目を開くと、夕紀美さんがお願いしたわたしのポーチを持って立っていた。




