162.龍達の首飾り
「…………治療を開始した時、何かのアーティファクトの力が邪魔をして治療が進まず焦っていたんだが……。
突然スイッチが切れたように邪魔をしていたアーティファクトの圧が消えたんだ。
充電切れじゃなくて、龍石が藍華に教えてアーティファクトを止めたからだったのか……」
「…………龍石の記憶か…………伏見の稲荷に“古の巫女”と呼ばれてたが……たしかに双葉ーちゃんたちみたいな巫女の力があるのかもしれないな。藍華には」
「痛み止めのアーティファクトの影響が残っていたにしては早く治療が進んだ方だと思うし、そこら辺も龍石とか巫女とか……何か関係あるんだろうか……?」
巫女の力があるとかないとかは……こんな事自体が初めてで、実感がいまいち湧かないのだが……。突拍子もない記憶の話を現実として受け止めてくれている二人に、あちらの世界との差をハッキリと感じる気がする。
あっちでこんな話なんてしたら、その瞬間から不思議ちゃん扱いになるだろうにな……。
「あ、最後に泉の状態が正常に戻ったと言ってました……。
大吉さんの攻撃を受けたあの人も、泉の水の力でだいぶ回復したから逃げれたんじゃないですかね……?」
体の怠さもだいぶ解消し、話す声に力も入るようになってきたわたしは言った。
「なんだと……⁈ ちょっと汲んでくる待ってろ!」
勢いよく立ち上がり、三本の竹の水筒を持って嵐のようにその場から離れる夕紀美さん。
夕紀美さんを見送り、扉が閉まるのを見届け、ゆっくりと視線を天井に戻そうとすると、覗き込んできた大吉さんと目が合い、思わず視線を離してしまう。
「よく……頑張ったな…………」
頭を撫でられ、その手の感触に…………うっとりしながら、避けた視線のちょうど先に、大吉さんがポケットから出して置いた、件の水晶龍の首飾りの台座とカボションがあったので、なんとなく眺めていると────何かが気になった。
あの台座……シンプルでわりとよく見かけるタイプだと思ってたけど…………フォロワーさんが使っていた物と同じ…………?
「大吉さん、ちょっとその欠片を見せてもらえますか…………?」
大吉さんに頼んで、首飾りのカボションの欠片を目の前に持ってきてもらう。
天井から吊り下げられている薄明るいアーティファクトランプにかざされたそれを見てみると────
この特徴あるオーロラ部分、あのフォロワーさんの作っていたドラゴンブレスによく似てる…………!
「…………どした…………?」
目を見開いて静止しているわたしを、心配した大吉さんが声をかけてきた。
「その……欠片…………あちらでの知り合いの作品によく似てる気がして…………」
「なんだって…………⁈」
もしこれがあのフォロワーさんの作品なら、あの龍石の記憶の巫女さんがフォロワーさんということになる……?
でも……いつ……⁈ こちらにくる直前くらいにようやくレシピ起こし始めた〜、と言ってたはず…………!
それに…………!
「その首飾りは確か七十年前に巫女がつけたもの……だったな……」
わたしが見やすいようにかざしていてくれたそれを、自分の手元で角度を変えたりして観察する大吉さん。
「龍石の話では……その巫女さんが作った、と…………」
「なんだって……⁉︎ クゥさんよりもずっと昔にもこの世界へやってきていた人がいるということになるのか…………?」
「もっと龍石と話ができると色々分かると思うんですけど…………。
ただ……わたし…………そのフォロワーさん、男の方だと思っていたんで……!」
「男…………⁉︎」
「アカウント名が“トウマ”だったんですよ…………!
いや、わかんないです…………! ネット上ではわりとよくあることなので…………!」
軽く混乱中。
実験好きな人で、よく色々な実験の様子を写真付きであげていて……。
「ちなみに、彼……女……? から作品交換でから頂いた作品、いくつか持ってます…………!」
今もウェストポーチに入れてあるわたしの宝物BOXに、彼女の作った作品の一つが入っている。
「クゥさんと同様に、直接会ったことはないんですけど、よく個人的にはな…………お話させてもらってて……」
この首飾り、わたしの記憶に違いがなければ、おそらくドラゴンブレスライカ。
秘匿されてきたために、正確な製法が失われてしまったガラス製の逸品ドラゴンブレス。
それを彼女がレジンで、どうやったら作れるのか技法を考え見つけ出し、レシピまで書き上げたという代物で。
その写真に写りきらないという美しさに、どーしても作ってみたくて、いずれそのレシピを販売してもらう約束までしていた。
多分、間違いない……!
「また…………物凄い人物と知り合いだな…………!」
大吉さんも、それを明かりに翳して見ながらそうつぶやいた。
その時、勢いよく拝殿の扉が開き、そして閉じられる。
「確かに…………! 水質が“良質”になっている…………‼」
興奮した状態の夕妃美さんが、戻ってきてそう言った。




