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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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160. 龍石の記憶〜その四〜

 みるみる龍石の光は薄くなっている…………


「それから何年も経ったある時、一人の巫女が小さな水晶の龍を連れてやってきた…………」


 どこか愛しさを感じる龍石の声に、こちらの心まで温まる。


「ひびが我の首を両断した時が、おそらく力の終わりだろうと思っていた頃だった────」


 どこか初々しい、綺麗なストレートヘアの前髪を綺麗に眉の辺りで切りそろえ、艶々の長い黒髪を後ろで一つに纏めている巫女さんが、龍石の横に小さな座布団を敷き、その上に透明な可愛らしい龍の置物を置いた。


「初めは何だと思ったが……結果、彼奴(あやつ)は我の……まぁ大切なものの一つになった……」


 巫女さんは龍石と水晶龍に揃いの首飾りをつけていった。


「これは…………!」




挿絵(By みてみん)





 それは一見青いオーロラ色が輝き、見る角度によっては深い赤色の揺らぐなんとも不思議なカボションのペンダントトップ。


「ドラゴンブレス…………? しかもこの雰囲気……どこかで……」


「水晶龍とこの首飾りのお陰で、どうやら浄めの力が少し戻ったようだった」


 ドラゴンという名の繋がりだろうか……首飾りが龍石の力を底上げしてくれているのは……?


「横に置かれたチビ龍は、どうやら我と共にある時のみ、生きた龍の形を取れるようで、よく散歩に出掛けては水晶に戻ってしまい動けなくなり、宮司や巫女に連れて帰ってこられた」


「散歩する水晶龍! 報告書にあった通り……!」


 やっぱり移動可能距離というのがあったのね……


「その巫女はいつしかここに来なくなったが――――

 まぁ幸せな一生を送ったであろうことを切に願う……。

 首飾りのおかげで、龍の姿になるのも難しかった我が再び自由に動けるようになったのでな……」


(テレているきがするのは何故だろう。

 この巫女さんに想いでも寄せていたのだろうか?)


「…………別にそういうわけでは…………」


 呼びかけたわけではない言葉に返事が返ってきて、ちょっと驚くが、まぁここは龍石の記憶の中、わたしも意識体のようなので、まぁ当然と言えば当然か。


「良かったですね……良い人と出会えて……」


 わたしにとって大吉さんのように…………


「その巫女が来なくなってしばらくして起きた地震は、ここへの道を分断したようで、もともと少なかった人の行き来が全くと言って良いほどなくなり、チビ龍が散歩に行ったきり帰ってこなくなった……」


 本当に、パタリと人の訪れが途絶えて、御社殿内は段々と埃が溜まっていく。


 そうか──龍石は何度も人が来なくなって、寂れていってしまう瞬間を経験してきているのか……と胸が苦しくなる。


「おそらくそういったことも見越しての水晶龍だったのだろうな……アレがいることで、ものの見事に……まだしばらく頑張らねば、という気持ちにさせられた────」


 控えめだけれど嬉しそうな声でそう聞こえると、本殿の閉じた扉の隙間から光が漏れ、黒く光る龍が現れて拝殿の扉を風で開いて外へと勢いよく飛び出していった。


「我は我の力の届く範囲までは龍の姿で行くことができる。水晶龍も」


 映像は龍を追いかけて空を行く龍を映し出す。


「巫女がつけてくれた首飾りが目印になって、居場所はすぐにわかった」


 朱色の美しい鳥居のすぐ根元に、水晶龍はいた。


 黒い龍がそこへと降り立ち水晶龍に鼻で触れると、水晶龍は透明だけど少し白っぽい小さな龍へと変化した。


『小さき水晶の龍よ……この鳥居より先に行ってはダメだ。お主は我の力届くところまでしか龍の姿を取れぬだろう?

 我の力が届くのはここまでだ。我は社から離れることができぬ。そしてお主は本体ごと移動していて、ここから先の場所で水晶の姿に戻ったら、我は迎えに行けぬ』


 キュゥ〜ン


 水晶龍は喋ることはできないのか、なんとも可愛い鳴き声で、寂しそうに鳴いた。

 そして龍石の言葉の意味はわかったのか、項垂れて黒い龍の頭の上に飛んで乗った。


『境界からでなければたまにはこうやって迎えにきてやる……』


(人が来れなくなった御社殿でも龍石が寂しくなくてよかった……)


『巫女はこの事態を見越して連れてきたのだろうか…………まだしばらく我の力は必要ということか……ならば我は我の本分を全うしよう。

 温かい何かをくれた者たちのために、水を清め続けようこの本体(からだ)朽ちるその時まで────』


「人々が落ち着いた暮らしを取り戻し、我を必要としなくなるまで……我はあの小さな友とここにいようと思えた」


 黒き龍は空高く跳び、御社殿へと帰っていった。


「あの首飾りも、並々ならぬ力がある。

 我と水晶龍とを繋ぎ、我等の力を倍増させていた」


「力を倍増させる効果があの首飾りに……?」


「そうだ」


 揃いの首飾りを光らせて、二匹の竜は本殿へと戻った。


「あれは……あの首飾りは一体誰が作ったんですか……?」


「水晶龍を連れてきた巫女が作ったそうだ」


(あの初々しい……)


「巫女で、マスターと同様の力を持つ、珍しい者であったな…………」


 楕円形のシンプルなカボションのドラゴンブレス。煌めく遊色が美しく、それに入っているワンポイント的な黄金の唐草模様がこれまた美しい。


「俗に言うドラゴンブレスとは少々違う雰囲気のオーロラ。それに模様の画材や入り具合からすると…………」


(多分レジン作品…………?)


「……でもわたし達が本殿の貴方の本体を見た時には……」


「我の首飾りはしばらく前に、お主と一緒に泉に沈んだ、賊に奪われてしまったのだよ……」


 龍石と水晶龍が本殿のそれぞれの位置に戻ったところで映像は消えて再び暖かい闇が戻ってきた。


「ちょうど水晶龍が散歩に出てる時だった。

 我は水晶龍を迎えに出ていた……。

 今考えると、それでよかったと思うのだ。

 水晶龍が首飾りと共に無事ならば、水の質はなんとか保てていたはず」


「……少しづつ、本当に少しづつ水質が下がっていったと聞きました」


(じゃぁ水質に変化が出てきた時に龍石の首飾りが奪われたと……)


「我の力はもう……首飾りなしで龍の姿を保てるほどではなくてな…………ただ感の目はしばらくの間衰えることなく、我の首飾りが奪われ、時をほぼ同じくして水晶龍が泉に沈んだことまではわかった」


「今まで見えてたいくつかの高い場所からの視点は……龍石の千里眼で見てきた景色…………?」


「そうなるな。

 賊は水晶龍の首飾りも狙って、泉の中に何度か潜ったようだが見つけられず。水晶龍と首飾りを炙り出すために、泉の水を穢すような能力のアーティファクトを泉に沈めた」


「……! それで泉の水の質が急速に落ちていったのね……!」


「水晶龍の持つ清めの力はもともとそこまで強くなく、泉全体が穢れてようやく微かに確認できたようで、お主達が御社殿に入ってから、必死に泉の方をアーティファクトで探っておったな」


「じゃぁわたしってもしかして……先に見つけられて手に入れられないように襲われた……?」


「……その可能性は高いだろう」


「…………大吉さんに気をつけるように言われてたのに……! すっかり忘れて油断して……」


「まぁそこまで悲観することはあるまい。お主はまだ生きておるし、泉もお主のおかげで正常には戻った。

 お主らは泉の水の力を取り戻しに来たのだろ? 結果的には普通にやるよりはずいぶん早くその目的を達成できたのだと思うぞ」


 ……ぅん……何か励まされてるが……なんというか…………。


「そろそろ時間か──」


 落ち込んでいるところにそう龍石が言うと、心地よい暗闇がだんだんと明るくなり、白い光る空間へと変わっていく。


「お主のアーティファクトのおかげで水晶龍は一人でも顕現できるようになったようだ。

 お主に水晶龍の事を頼む」


 どんどん世界は白くなっていき、同時に龍石の声は遠くなっていく。


「わたしのアーティファクトのおかげで? それってどういう…………」


 と、問いかけるも返事は返ってこなかった。


「人々に伝えてくれ……我の力はそう長くは持たん。次に小さい地震一つでも起きたら首あたりに入ったヒビは我の首を断ち、我はこの世から消えるだろう、と…………」


 ちょ! 待って! まだ聞きたいことがたくさん…………!



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