157.龍石の記憶〜その1〜
(暗い────
暗い。ここは何処だろう?)
そこは暗くて光の刺さない場所だった。
水の流れる音が心地よく、上から滴り落ちてくる水滴が何かを形取っていくのがわかる…………
「そう────我はそうして生まれたようだ…………」
どこからともなく降ってくる、ハッキリと聞こえる声。
(これは誰の声……? 何がどうなっているの…………?)
心地よい暗闇の中に
もっと、ずっと、まどろんでいたいという感覚を楽しみながら、疑問をそのまま思い浮かべてみる。
「我は龍石と呼ばれる者────ここは我の記憶の中で、お主は今、我の力を削いでいた原因を排除し、傷つき眠っている」
「…………龍石…………!」
突然思い出した。首の所にひびが入ってしまって力が弱まりながらも水を清めて人々を助けてきたという龍石…………
(そう……龍石の泉の調査に来たんだった)
感じていたまどろんでいたいという感覚を押しのけて、わたしの意識は覚醒した。
そしてようやく気づいた。
目の前に浮く、光り輝く黒い龍の姿に。
「まず急ぎで伝えたいのだが、お主の傷の痛みを抑えているアーティファクトを解除できるか? そのままだと泉の水もあまり効かず、現実世界で医師の女が治療ができなくて困っている」
「……‼︎……やってみます」
痛みを抑えているベルカナを解除する……
するとあの冷たく熱い痛みに襲われるのだろうか、と覚醒した意識は少し恐怖を感じていた。
「心配するな、すでにいくらか治癒はなされている。そこまで痛みは強くないはずだ」
やってみると言っておきながら、躊躇う気持ちが出てきたことを見透かされ、少し恥ずかしくなる。
そして意識が覚醒したことで、身につけているアーティファクトから光が見えないことに気づき、ソコが現実の世界ではないとわかったが、とりあえず念じてみた。
「ベルカナ……解除……!」
その瞬間、眩暈のような衝撃に襲われるが、恐れていたような“痛み”というものは感じることなくホッとする。
「ここに来たということは、お主には知っておいたほうがいいことがある、ということだろう…………お主の体は傷ついていてしばしの休息が必要だ、その間少し我の昔話に付き合ってくれるか…………?」
「それはもちろん…………でも……その前に聞きたいことが……」
「……なんだ?」
「わたしと一緒に泉に沈んだ人は…………無事ですか…………? あと大吉さんと夕紀美さんは…………」
もし他にも敵がいたなら……二人は無事だろうか、とわたしは問うた。
「己を傷つけた者の心配か…………ここにやってくる者はバカが頭につくようなお人好しばかりだな」
龍石の声は呆れたような、それでも優しい声で、バカと称されようとも嫌な感じは全くしなかった。
「お主と共に泉に沈んだあの者は無事だ。因みにお主のつけた傷は浅く、どちらかというとお主と共にこの地に来た男の投げた、風のナイフの方が深傷だっぞ」
(あの一瞬で大吉さんが……?)
「まぁどちらの傷もお主が回復してくれた泉の力が手伝ってある程度治癒されていてな……逃げていったよ」
(この場所から逃げれるくらいなら、命の危険はないか……よかった…………)
「泉の付近で心配そうにしていた女は敵の数がはっきりするまではダメだ、と言って飛び込もうとする男を止めて、お主が上がってくるのを辛抱強く待っていた。全員無事だ。安心するが良い」
「そうですか…………」
(大吉さんが飛び込もうとしてくれていた…………
それだけで心が満たされる────)
「さて、では見せようか…………」
ふっ……と再び暗転したかと思うと、再び心地よい闇が訪れ、わたしは龍石と共に、少し高い位置から過去の龍石を見下ろしていた。
目に映る映像は、現実よりも早いようで、滴る水滴はみるみるうちに龍石の形を作っていく。
「我はこの心地よい闇が永遠に続くかと思っていたのかもしれない…………だが、ある時突然我は緑むす、川の流れる洞穴の入り口付近に顔を出すこととなる」
龍石がそう言うと、地響きのような音と共に上の方に亀裂が入り、暗闇を作っていた洞穴の天井が、地震か何かの地割れで崩れ落ち、龍石はその落石の衝撃で根本の大きな岩から割れ離された。
(まるでこの場所にいるかのよう……音も、水の匂いも感じる…………)
その空間に意識が溶け込んで存在しているかのような、不思議な感覚になる
「我は落石で大岩から切り離され、その後の洪水で森の洞穴の入り口付近まで押し出された」
地響きのような音が洞穴の奥から響いたかと思うと、洞穴目一杯の大量の水が押し寄せて、龍石を押し流していった。
予約日間違いに気づき!
今あげましたー!!
スミマセンでしたー!!




