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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
154/343

153.御社殿自体がアーティファクト⁈

 ひとまず、閉じていた感覚を開いてみると、そこは不思議な気配が入り混じっていることがわかった…………気がする。


 御社殿からは、双葉ーちゃんの神社のような神聖な気配が出ている感じがする。


 そして泉からは──……見た目とは打って変わって黒い……負の気配としか言いようのない何かが混じり合い、底から湧き上がっている感じが……


 見た目は綺麗なのに、できることなら触れたくもないと感じるほどの気配が……。


 けれど、負の気配の中心あたりに光り輝く何かを感じる気もする────


「…………?…………」


「藍華、いくぞ?」


 気がつくと、橋の手前で泉のその気配の方を見つめ、立ち止まっていたわたしは、大吉さんに呼ばれ返事をしてから後に続いて橋を渡る。


「はい」


 水底から伸びる何本もの石の柱が基礎となっているようで、石の柱の上にその御社殿(ごしゃでん)は建っていた。


 小さな橋を越え、木の(きざはし)を上り、賽銭箱を通り過ぎて普通ではなさそうな、淡く光り輝く拝殿の扉を開いた。


「このお社……御社殿自体がアーティファクトみたいになってますね……」


 引き戸タイプの扉が開かれた瞬間、中の空間が“開かれた”感覚があり、暖かい何かが御社殿を包んでいたことに気づく。それまで微かに感じていたアーティファクトの気配、それが建物全体からのものだと気づいた瞬間だった。


 どうやら建物自体がアーティファクトで、御神体である龍石を守る役目を担っているようだ。


「神社は特に宮大工という職人の手によるものだからな。神社のお社やこういった御社殿はそこにあるだけで内部を守る結界となる」


 夕紀美さんの言葉に、なるほど、と大吉さんが答えた。


「この御社殿がここまで綺麗に残っているのも、その力が働いているから、か」


 中に入ると、あまり年月を感じさせない状態の拝殿がそこにはあった。


「一応掃除とか手入れはしていってるんだな、あいつ」


 言われてみれば、埃のたまり具合もそこまで酷くはなく。初め木目かと思ったのだけど、おそらく数年前の掃除跡のような筋とか、手の跡とかが……。


「不器用なりにちゃんと仕事はこなしてたみたいだな。年々掃除のレベルも上がってるんじゃないか?」


 おそらく、同じ箇所を見て夕紀美さんがそう言った。


「夕紀美さん、もしかしてそういったものの確認の為に何か依頼されてました……?」


 夕紀美さんも双葉ーちゃんと顔見知りのようだし、双葉ーちゃんは龍達のことを気にしていたし、と思って聞いてみると


「正解だ」


 ニヤリと笑顔で答えた。


「わたしの独断であんなわがまま言えるわけないだろう? いくらなんでも」


「なに⁈ ただのわがままじゃなかったのか?」


「お前は私をいったい何だと思ってるんだ……」


 呆れ顔でそう言う夕紀美さん。


「表向きはそう言って、時間を稼いでたんだよ。

 双葉様に言われてな。でなければこんなギリギリまで待たん」


「そりゃー奴がいたら確認できないな、毎年毎年ちゃんとやってたのかーとか」


 言って笑いを堪える大吉さん。


 確かにそれは蘇芳さん本人もやり辛かろう。

 自分の仕事の査定を目の前でやられるのは。


「ちゃんと手入れされてることもわかったし、行くか。

 本来はは宮司しか通ったらいけない幣殿と開けたらいけない御扉、見たらいけない御神体の確認に」



 拝殿が十二畳、その奥にある幣殿と本殿を合わせても二十四畳いかないくらいの大きさだろうか。


 夕紀美さんが本殿前で、二礼二拍手、そして手を合わせて目を瞑り一礼するのに合わせて大吉さんとわたしも同じようにする。


 そして本殿の扉を夕紀美さんが開くと、ギギギギイイっと音がして中から龍石がのぞいた。


 黒い、いや、深緑色とでもいうのだろうか。

 確かに、長い体をうねらせている龍のような形に見えるその石はそこにあった。


「あれ、首飾りがないですね……?」


 田二郎さんのところで見た報告書の絵から、見れるのを結構楽しみにしていた首飾りは、あったはずの場所になかった。


「ちょっとすみません」


 そう言って顔をそこに突っ込んで見てみると、埃だまりのようなものが少しあり、そこに何かが付いていた跡が見て取れる。


 埃の量でいつ頃なくなってしまったのかわかるかもしれないと、首飾りの紐があったであろう箇所を軽く指で撫でると────


 一瞬の間に流れ込む何かの感情。心配と怒りが脳内を駆け巡った。


 “何か”を追わねばならないという強い意志の元、頭上を仰ぎ見る。


「……どした……?」


 大吉さんの声によって“わたし”の意思が戻ってきて、目に入ってきた本殿の天井部分。

 その瞬間に、何を“追わねば”ならないのか、わかっていたはずの事がわからなくなる。


「いえ…………」


 何とも説明することができず、そう言葉を発して龍石を撫でた指先を見る。


「よく……わかんないんですが…………多分ごく最近持ち去られたみたいです…………龍石の首飾り…………」


 指先には、埃の付いた部分と付いていない部分がはっきりと線がついてわかれていた。


「蘇芳の報告書にも、確かに首飾りはついていたからな…………。

 誰かが何かの為に持ち出した、ということか…………?」


「首飾りは龍石の力を高める為のものと聞いている。あと、水晶龍も…………」


 龍石のおかれている場所のすぐ横に、掌大(てのひらだい)の濃い紫色の座布団のような物があった。

 何も乗ってはいなかったが。


「ここが定位置のはずだが…………資料にあったように散歩中か…………?」


 夕妃美さんがそう言うと、動きが固まった大吉さんが少々青い顔をして


「…………本当に動くんだなぁ…………」


 とつぶやいた。


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