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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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152.泉の成り立ち

 命綱を外して大吉さんのカバンに収納し、一行は明らかに整備されていない、ひびだらけで隙間から雑草が伸びてきている石段を上り、社を目指す。


「この聖域の離れ小島みたいな部分て結構大きそうですよね?」


 上りながらわたしがそう言うと、


「たしか直径五百メートルくらいなはずだ」


 夕紀美さんがそう答えて、大吉さんも何かを思い出しているのか、霧で見えない空をあおぎながら言った。


「報告書の端に書かれてたが、確か水晶龍の行動範囲も確かそれくらいだったな、何か関係してるのかもしれないな」


「龍の行動範囲……」


 田次郎さんのところで読み聞かせてもらった報告書にはよく鳥居の外側で水晶に戻った形で転がっていたと……


 何か結界的な物でもあるのだろうか、と周囲の気配に気をつけてみるが、特に何も感じはしなかった。


「水晶龍がよく転がっていたのは崖横の鳥居のとこでしたっけ……」


「そう書かれてたな。

 さぁ、もう少しだ。あの鳥居をこえたらすぐに社と泉が見えるはず」


 大吉さんの言葉に、石段の上の方を見ると、薄くかかった霧の向こうに石造りの鳥居てっぺんが見え隠れしていた。


 鳥居に近づくにつれ姿を表してきたのは、雑草に囲まれた先に見える古びたお社。


 鳥居を(くぐ)り、雑草まみれの石畳を社の方に向かうと、雑草に隠れて見えなかったが、お社の手前に小さな橋があり、御社は泉の中に立っていた。

 小さな橋で渡る先にある社はこじんまりとしているが、よく手入れがされていたのだろう……そんな雰囲気が感じられる。


「結構大きい泉だな……もっと小さいのを想像してたよ」


 泉の全体が見渡せるほどまで近づくと、泉の半分くらいが竹林に囲まれていた。


 この場所が直径五百メートルくらいだというならば、泉はその五分の一くらいは占めているのではなかろうか。


「すごく綺麗…………結構深そうなところもありますね……古くからある泉なんですよね?」


 泉の透明度は高く、中央あたりの色が水深の深い濃い蒼色をしている。


「この泉と社の成り立ちについて、昔話のようなものがあってな。聞いとくか?」


「興味あります!」


 食いつくように答えると、大吉さんも静かに頷き、夕紀美さんはゆっくりと話し始めてくれた。


「その昔、天が荒れ地が動いた時。そこかしこの水の流れも変わって“キョウト”の人々は飲む水にも困窮した」


 泉のほとりにて、泉を眺めながら夕紀美さんの話に聞き入る。


 微妙にリアルな気がするのはまだ“若い”昔話だからだろうか。

 “天が荒れ地が動いた”というのは大吉さんから聞いた“再生の日”のことだろう。

 そうすると古くとも百五十年ほど前の話となる。


「その時、ある巫女がお告げを受けたそうだ。南方の忘れ去られた土地にある、小さな社に水を清める力持つ何かが有ると。

 まだその当時はアーティファクトとは呼ばれてなかったようだが」


 天変地異でライフラインも立たれて、電気系統も再起不能な混沌に陥った時、きっと人は()()を求めて巫女とか、そういう者に辿り着いたのだろうか……


 吸い込まれそうな色の、その泉を眺めながら夕紀美さんの話に聴き入る


「巫女と運び手がその地に赴き、無人の山奥の村跡のお社から、神体として祀られていた龍石を、キョウトから一番近い出来るだけ清らかな泉だったここに運んできた。

 清らかと言っても、とても飲めるような状態ではなかったそうだが……」


 一見美しく見えるこの泉も、もしかして龍石の加護がなくなると、その時代の水質に戻ったりしてしまうのだろうか、とふと思う。


「龍石を社に祀り巫女が祈りを捧げると、龍が顕現して泉に飛び込んだそうだ。

 龍が中を駆け巡り泉が光り輝くと、水はみるみるうちにか美しくなっていき、飲み水としてだけでなく、怪我人病人まで全快させるようなものになったという。

 まぁ、昔話だからいくらか誇大表現されてるとは思うがな」


「なんだか……アーティファクトっていう括りから飛び出てる存在な気がするな……その龍石」


「そうだな……巫女も居ないのに水を清め続けていた、というところからして規格外ではあるんだろうな。だが浄めの水の力は確かで、幾度となく助けられてきていることも事実。

 いつかここに来たいと…………思ってはいたんだ。お礼も兼ねてな」


 そう言いながら泉の水をじっと鑑定アーティファクトで水質を見ながら、険しい表情で夕紀美さんは言った。


「見た目に異常は見られないが、水質は極悪……飲み水にするにも厳しいラインだ。やはりここの方が酷い状態だな……。

 何がそうさせてるのか調べなければ。

 まず龍石にお参りだ。行くぞ」


 先頭を切って社に向かおうとする夕紀美さんを大吉さんが静止して言った。


「夕紀美さん、ちょっと待ってくれ」


 そしてチェーン先につけてある敵意レーダーを起動する。


「こんなところで……?」


 棒人間の指輪以外にも方法はあるらしいが……こんな所にわたしたちに敵意を持った者、敵が居ると……? とつぶやくと、


「鳥居くぐった時にな、ちょっと違和感を感じたんだが……気のせいであることを祈っておこう。

 夕紀美さん、何かいるかもしれないってつもりで行ってくれ」


「対処は任せるぞ?」


「もちろん。藍華も周りには一応気をつけとけよ?」


「……自分がどれだけ役に立てるかわからないですが────了解です」


 人の気配とかそういったものはよくわからないけど、アーティファクトの光は見える。気配ももしかしたら感じられるかもしれない。わたしはわたしの出来ることで精一杯やってみよう。






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