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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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150.大吉の懸念と龍の泉へ出発

「や……あのナゴヤの稲荷神は…………結構な女ったらしで有名でな…………。

 その……変なことされてないといいなと…………」


 下向いてモゴモゴと言っているので表情は見えないけれど…………


 コレは!もしかして……! ちょっと嫉妬……⁈


 それとも“娘が遊び人に手を出された”コース⁈


「…………あそこで買った御守りに、目印だと言ってキスされただけですよ…………」


 ハンカチで口をふきながらこたえた。


「そ……か……御守りか…………」


 顔を上げて、再び湯呑みに口をつける大吉さん。

 その表情は少し硬い。


「わるぃ……ちょっと気になってな…………」


 程なくして夕食が運ばれてきたので、たわいもない会話をしながら取り、順にお風呂をいただいて、その日は就寝した。


 なんだかいろんなことのあった日だったな…………






 翌朝、必要になりそうな物を用意して待ち合わせ場所のキヨミズ医院前へ到着した。


「よ!」


 本日の夕紀美さんは、ジーンズにシャツと薄いジャケット、そしてリュックサック姿で動きやすそうな格好だ。


 わたしと大吉さんは特に変化なしな服装。


 ただ、大吉さんは宿を出発する際、すぐに使えるようにしているアーティファクトを少し入れ替えていた。護衛用と、それ以外の仕事時で、使用するアーティファクトを少し変えているのだそうだ。


 わたしの手持ちは能力不明のものも多くて、とりあえず入れ替えはなしで。ウェストポーチと大きくはないリュックサックを背負っている。


「二人ともちゃんと朝ごはんは食べてきたか?」


「はい!」


「おじさんと一緒にしないでくれ。食べなかったからってスイーツ山のようには持ってきてないよ」


 そう言っているものの、わたしは知っている。大吉さんが例の収納袋に何か入れてポーチに入れてきていることを。朝食の時に中居さんに何か頼んでたし。


「よし! じゃぁ向かうか」


 夕紀美さんの掛け声とともにわたし達は出発した。


 龍神の泉と呼ばれるその源泉は、たしかに難攻不落な場所にあった。いや、泉のある場所が難攻不落になってしまった、というのが正しいか。


 綺麗な石段だったであろう場所を延々と登り、森が途切れて登り切ったと思ったその場所で先頭の大吉さんが止まってその先を眺めていた。

 そこは深い谷に阻まれ、ちょうど足元に流れてきた霧で底は見えず、目的の鳥居も見え隠れしている状態だった。


「霧が晴れるまで少し待つか」


 そう言って階段横にあった岩に腰を下ろした大吉さんに習い、そのすぐ隣の岩に腰を下ろす。


「で、ここからジャンプするんですか……?」


 迫り上がったような位置にあり、たしかにあそこに到達するのは簡単なことではないとわかる。


「だな。助走つけたら行けるだろ」


 たしかに、大吉さんがフルパワーで棒人間の指輪を使ったら軽く行けそうだけど……


「わたしは……ギリギリな感じですかねー……」


 そこまでフルパワーを出したことはないし、自分の正直な感触を述べてからふと思い出す。


 柘榴様の言っていた、“古の巫女”とは、アーティファクトの通常の力から、さらに力を引き出せた者達の総称だと。


 もし自分にもそんなことが可能ならば…………


「俺が先に飛んで命綱つけてくるから。心配するな」


 真剣に考えているところにそうイイ顔で言われて、悩み吹っ飛んだ。


 出来る。ワタシハヤレル。


「じゃ、あれか? 先に一人で飛んで命綱を丈夫な木か何かにつけて戻ってくると?」


「その方が安全だろ?」


「めんどくさいな。一発で行けんのか一発で」


 意外とワイルドな夕紀美さんに大吉さんは言った。


「どうせ飛ぶの俺なんだから良いだろう……」


 風が吹き、さぁっと向こう側にかかっていた霧が少し晴れてくると、切り立った崖にねずみ返し状になった部分が見えた。


 鳥居は崖から少し奥にいったところにあり、根本部分は確認できないが、少し色()せた朱色がなんとも言えない雰囲気を(かも)し出している。


「鳥居の奥にもう少し階段があって、階段の先にもう一つの鳥居、その先に社と泉があるはずだ」


 夕紀美さんが何やら地図のようなものを取り出して言った。


「奥の方の鳥居は木々で見えなさそうですね……」


「もう何十年も手入れが入ってないらしいからな。

 ところで、あそこの泉が源泉で? どうやってキヨミズの裏まで繋がってるんだ?」


 気になっていた事を大吉さんが代弁してくれた。


「源泉というか、源を同じくしている水、だな。

 あそこの泉に出てきている水と、キヨミズの岩から流れ出ている水は、源流が一緒なんだそうだ。泉の水が清められ、その力が源流まで届きキヨミズの裏の岩盤から流れ出る水までその影響を及ぼす」


 この崖の分湧き上がってきている水を通してって、スゴイ距離な気がするんだけど、


「それだけ力の強いアーティファクトって事なんですね……会えるのが楽しみです!」


「……会えるって……」


 少し驚いたようにそういう大吉さんに


 何かおかしいこと言っちゃいましたかね? と見上げると、


「ぃや、そうだな……水晶龍の方は特に散歩に出るくらい活発なやつらしいしな……」


 苦笑しながら大吉さんはそう答えた。



 しばらくすると、辺りはまだ全体的に霧っぽいが、谷向こうの鳥居の近辺がとはっきり見えてきたので、大吉さんは宣言通り飛んで命綱をつけて戻ってきた。


「あの鳥居とその横の木がしっかりしてるみたいだったから、そこにつなげてきた。

 俺と夕紀美さんにが向こうに着いたらこの命綱をここに投げるから、藍華は結び方をよく見とけ」


 そう言って、夕紀美さんの腰に命綱を結び見せてくれた。


 夕紀美をおぶった大吉さんがあちら側に飛びしばらくすると、命綱の先に小さな岩がくくりつけた状態で投げられてきた。

 岩を外し、教わった通りに縄をつけ、命綱を三回引っ張り合図を送る。


「行きますよー‼︎」


 恐怖はなかった。


 棒人間の指輪に意識を集中しながら軽く助走をつけて


 ジャンプした。

 柘榴様のあの言葉を意識しながら。







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