145. フシミの稲荷
社務所でお札を受けて、本殿横の小さなお社から元の小さな神社へと跳び、そこからは歩きで、翠様に紹介されたであろうフシミ稲荷神へと向かった。
日が落ちる直前には到着し、その入り口で少し立ち止まる。
「何というか…………元の世界では来たことはなかったんですが……
すごい場所ですよね…………」
薄暗くなって来ていることも手伝ってか、沢山のお社から感じるアーティファクトたちの気配、輝き。この敷地に足を踏み入れるだけで何かが浄化されそうな、そんな気がして思わず立ち止まってアーティファクト達の輝きを肌で感じていた。
「さて。ここかなり広いんだが……
どこに行ったらいいんだ……?」
大吉さんのもっともな質問に、
「多分こっちです」
何かに呼ばれている気がしてその方向へと進んでいく。
朱い鳥居の立ち並ぶその場所は、再生の日を越えて残った鳥居を修復し、以前とは少し違うらしいけど、行ったことのないわたしには違いはわからなかった……
だがそこには荘厳で不思議な空気と空間が広がっていた。
足を踏み入れ進んでいくと、朱い鳥居のトンネルの奥の方から小さな子供たちの笑い声のようなものが聞こえてくる。
「ナゴヤの翠の気配がする」
「翠の気配がする。姉様に会いにきたの?」
「姉様に会いに来たの?」
と小さな耳付尻尾付きで、白っぽい浴衣のような物を着た少年少女がどこからともなく現れて口々に喋り出した。
後から後から幼い子達が現れて、あっという間にわたしたちは取り囲まれる。
この子達も眷属なのだろうか。
「おいでおいで! 久しぶりのお客様じゃ!」
「誰か姉様にご報告〜!」
ワイワイキャイキャイと導かれ、どんどん神社敷地の奥の方へと連れて行かれる
「藍華……! 大丈夫なのか……これ⁈」
思いの外大吉さんが慌てていてカワイィ……じゃなくて、意外だった。
「ナゴヤの神社でもこんな感じに神使の子達がいたので多分大丈夫だと…………」
「……神使……?」
あれ、ご存じない?
「神様の御使。小間使い、お手伝い、神様と共にある存在のことです。
知りませんでした?」
大吉さんの表情から、警戒アンテナがビンビンになっているのがわかる。
「文献とか、昔話では聞いたことがあったが……
こういう現象にでくわすのは初めてだ…………!」
アーティファクトなんていう不思議道具、魔法具のようなものがあるのだから、こういう事はもっと身近なのかと思っていた。
「祭りや催事で神と呼ばれる者の姿を見ることは何度かあった……ナゴヤの稲荷もその一つだが…………
神以外、それもこんなに小さな子供の姿でそれもこんなに沢山………………」
多少混乱しているように見受けられるけど、小さい手に引かれながら、二人してどんどんと奥へと進んでいく。
奥へ行くに従って、少し社が崩れたりしている箇所が目立つが、
向かう先の苔むした石灯籠の灯が順についていき、まるでこちらに来い、と言われているようだった。
やがて一つの大きな社の前へと来ると、あんなに沢山いた子狐たちが突然フッと消えた。
《ほぅ……古の巫女か…………》
古の巫女……?
《珍しいのう。前に会い見えたのはいつ頃じゃったかのぅ…………?》
何処からともなく声が降ってくるが、それはその社の所にいるとすぐにわかった。
淡い光が大きくなり、人型をとると、美しい黄金色のたゆたう長い髪に九本の尻尾。
巫女姿でとても美しい女性が小さな賽銭箱を枕にしてもたれかかり、気だるそうに長いパイプをふかしながら姿を現した。
アグネスと同じかそれ以上な豊満っぷりな胸が艶かしく目が離せない。
アレだ。きっと翠様の女性版……?




