143. その袋はまるで──
木目の筋を数えて心落ち着かせ始めたところに、花子さんが3つの桐箱を持って戻ってきた。
「お持ちしました」
双葉ーちゃんの目の前に並べて桐箱を置いていく花子さん。
一番大きいものは広辞苑くらいの大きさだろうか。
「まず、コレ。みっちゃんへ届けて欲しいものだ」
双葉ーちゃんはまず、大きなその箱を渡してきた。
大吉さんがそれを受け取り畳の上に下ろす。
「お嬢ちゃんへの物は数年前に奉納されたものなんだが、お前さんならきっと役立ててくれるだろう。良いように、好きなように使いんさい。」
差し出された桐箱は薄く、お皿でも入っていそうなサイズだった。
中身を色々と想像しながら受け取り、お礼を言う。
「あ、ありがとうございます……」
「大吉、お前さんへはコレだ。これから起こることの助けになりそうだから貸してやる。二十年後に返しに来い。」
そう言って、三つの中では一番小さな桐箱を大吉さんは受け取った。
「……あと二十年は働けと……」
「それくらいは働かにゃ〜なぁ」
ニヤリとそう言う双葉ーちゃんの歯は。
やはり金歯が眩しかった。
「で、移動するのにそのままじゃ安全じゃないし、ちとでかかろう。借り受けていたコレもお前に返しとこう」
そう言って手のひらサイズの巾着袋を懐から取り出した。
「……これを必要としてた用事はもう大丈夫なのか?」
懐かしそうな目でそれを受け取る大吉さん。
もしかして、もしかしなくても…………
「主にそれの運搬のために必要だったからのぅ。
それに今ならお嬢ちゃんが複製できるはず。複製してもらってそろそろ政府に提出してもよかろう? 今の政府ならばあの時よりは対応する底力があるだろう」
「……クゥさんの作ったものですか……?」
「あぁ……クゥさんの残してったものの中で一番扱いに困ってな……。
政府御用達の、あのアーティファクトよりもずっと自由で、能力が上だ」
あの達磨の収納アーティファクトよりも能力が高いと……!
「その分いろんなことに使われてしまいそうで犯罪率も上がりそうだったから、みーばぁ通じて双葉ーちゃんに預けておいたんだ」
聞くと、最大容量不明の保存機能付き収納袋だとか。
大吉さんがその手のひら大の袋を左手に、大きめの桐箱を右手で持ってその入れ口付近に近づけると、箱はまるで吸い込まれるようにその袋の中に入っていった。
「…………⁉︎…………」
思わず目を丸くして袋を見つめてしまった。
「みっちゃんへの箱の中身は絶対に見たらいけないよ?」
わたしの驚きなんか気にもせずに、双葉ーちゃんがそう言う。
絶対と言われるとみたくなってしまうが……
耐えよう。双葉〜ちゃんの言葉は守らなければならない気がする。
「わかったよ。帰りに必ず渡そう」
大吉さんがそう言って受け取った箱を自分のポーチに入れている時、双葉ーちゃんが話し出した。
「あと、お前さんたちに依頼がある。二つ」
達、と言うことはわたしと大吉さんのふたりに、ということか。
何だろう? 荷運び以外にわたしが力になれることって、と思いながら耳を傾けた。
「一つはお嬢ちゃんに身代わり守りを二本、作って欲しい。できるだけ早く」
「……!……」
驚きはしたけれど、もぅ聞くまい。なぜ身代わり守りの事を知ってるのか、とか。
それよりも“出来るだけ早く”と強調して言われて何かピリピリとした緊張感がわたしの中に走った。
誰かの身の危険が迫る、ということなのだろうか…………?
「もう一つは…………もう片足突っ込んでいるようだが、龍の子達をどうか助けてやってくれ」
龍──というとあの源泉調査の……?
「会って確信したが、お前さんならあの子達を助けてやれる」
ふと大吉さんを見ると、珍しく少し焦っているような表情。
「そこで、藍華と言ったか?
お前さんにはこれもわたしておこう」
そう言って双葉ーちゃんは懐から手のひらよりも随分と小さな巾着を出してわたしに渡した。




