142. 双葉ーちゃん
「少々お待ち下さいー」
そう声が聞こえたかと思うと、
防犯アーティファクトの気配が小さくなり引き戸が開く。
戸を開けてくれたのは若い巫女姿の女性で、
「あ…………」
さっき会った蘇芳さんと同じグループにいたとても丁寧な口調のあの女性ととてもそっくりで、違いはというとつけているペンダントくらい。
「いらっしゃいませ、もしかして“キョウト”で
姉の蝶子と会われましたか?」
「……はぃ多分……お顔が似てらっしゃったのでとてもびっくりしてしまって、スミマセン」
ペコリとお辞儀をすると、さっぱりとした声で大丈夫、と言ってくれた。
「大丈夫ですよ、初めての方には特に見分けがつかないと言われますので!」
「お久しぶりです花子さん、双葉のばぁさまにみーばぁからのお使いできたんですが」
「伺っております。お連れの方のことも。
お入り下さい。双葉様がお待ちです。」
「どうも、お邪魔させていただきます。」
大吉さんがそう言ってお辞儀をしたのを見て、わたしももう一度丁寧にお辞儀をする。
木造の家の雰囲気が心地よい。古いけれどよく手入れされているようで、なんだか家自体が淡く光っている気がする。案内され、石の庭を横目に縁側を進んでいくと何か不思議な雰囲気というか気配があることに気づく。
敷地全体が薄い何かの膜で包まれているような感じがする。沢山のアーティファクトの気配があるのに、キョウトの街を通ってきた時のように何処にあるのか特定できない。気配が混ざっていてなんだか酔ってしまいそう。
「こちらです。」
建物の中央付近だろうか、まだ続く縁側の向こうを眺めながら大吉さんに続いて中へと入る。
そこは六畳一間を襖で区切ってあるタイプの部屋だった。
入ると、とても神々しい人物が……いや、その身につけてらっしゃるアーティファクトの光で目視できない程に眩しい人がテーブルの向こうに座っていた。
急いで感覚を半分以上閉じて見ると、
髪には木の簪に、レジンの飾り。
手には指輪。蓄光、透明、クゥの作品で妖精の涙。あとはシンプルな木のビーズの首飾り。
「よく来たねぇ。まぁお座り」
部屋の中、上座の方にみっちゃんにそっくりなお婆さんが正座していた。
「大吉はものすごい久しぶりじゃないか。
たまにはお供えでも持ってこんかい」
「……………何でも屋みたいな仕事からは足洗おうと思ってたんで、遠のいてたんですよ…………」
用意されていた座布団の右側の方に座りながらそう答えた。
正座なんか久しぶり。どれくらい保つかな、と思いながらその隣に座り、カバンを横に置く。
「足ぃあらう?」
目を見開いてそう言うと、堰を切ったように笑い出した双葉さん。
「あ〜〜〜っはっはっはっは‼︎
無理無理‼︎ もう十年は現役バリバリでやるよ!
お前さんは!」
めちゃくちゃはっきりキッパリと言い切る。
コレか…………悩んでることもスッパリ切って突き落としてくるという…………
「みっちゃんだけじゃなくてな、お前さんたちにも渡さねばならないものがある。花子、例のものを持っておいで」
「はい。」
花子さんが部屋を出ると、
「そちらのお嬢ちゃんは初めましてだね、わたしゃここの巫女頭を務めてる双葉だ。よろしくな」
しわくちゃの顔を綻ばせてわたしを見て言った。
「ところで……お嬢ちゃんはクゥと同郷だね?」
静かにそう言われ、みっちゃんの時ほどではないがやはり驚きはした。
もぅ慣れっこな感じがしてくるけれど、一応聞いてみる。
「どうしてわかったんですか…………?」
「あたしゃー巫女だからね。
あえて言うなら御神託かいねぇ。
あんたが何処からきていて、何処へいくのか。知ってるよ。」
どきん、と心が反応する。
「何処へいくのかはわしからは言わんどこう。これから先の楽しみがなくなるからねぇ」
そう言ってなんとも楽しそうに笑う。
う……い、イジワルだ。
大吉さんの先の事はあっさりと明かしたのに。
「あぁ、あとその黒い影を落とすのは伏見の稲荷に任せよう。あそことのつながりもこれから大事になるだろうから、挨拶ついでにここの後に行っておいで。」
目を見開いて双葉ーちゃんを見るわたしと大吉さん。
「見えるのか?」
「わしを誰だと思っとる? 見えるに決まっとろうが。
祓うには、今のわしの力では時間もかかるしちと難しいが、あそこのなら一瞬でやってくれるだろう」
黒い影が祓える、そう聞いただけで胸の重しが少し軽くなった気がした。
「どうやら半分くらい大吉が肩代わりしてるようだが…………」
肩代わり…………?
「まぁ仲が良いことはいいことじゃのぅ」
双葉ーちゃんはそう言ってお茶をズズズっと飲んだ。
仲が良い、という言葉に過敏に反応してしまったわたしは、顔の温度が上がってきっと赤面していることだろう。
大吉さんの顔を見れず視線を目の前のテーブルの木の木目に向けた。




