140.その男“蘇芳(すおう)”
「もう行くのかー」
「色々行っておきたい所とか店とかあるしな。
次会うとしたら報告の時か」
「そうだな。だが夕紀美も行くんだ、報告書は夕紀美が出すんでいいだろう。
俺のところには無理して来なくてもいい。勿論来てくれたら嬉しいがな!」
「わかった」
「気をつけてな!」
研究室を後にして、研究所のある建物の出口へと向かう。
政府関係の様々なな機関の事務所が入っている建物らしく、人通りがそこそこあって上半身着物率が高い。
研究所の人は、田次郎さんもそうだったが、白衣を羽織っているらしくわかりやすい。
あ、でも夕紀美さんも羽織ってたから医療系のお仕事の人の可能性もあるのか。
建物は、木とコンクリートのような物がうまく調和したような建物で、とても面白い。
カフェのある中庭のようなところに差し掛かって、改めて建物の細部に気を取られていると、
「藍華、こっちだ」
大吉さんが声をかけてくれる。
「あ、はい。ありがとうございます!」
その声を頼りに歩きながら視線を大吉さんに移そうとしたら、突然顔面に衝撃が。
「ぶ!・・・ふぅ・・・」
立ち止まった大吉さんの背中にぶつかってしまい、思わずその背のシャツの裾を掴む。
「どしたんですか・・・?」
ヒョイと大吉さんの前を覗き込むと、渋い茶色に近い薄赤色を基調に黒のラインの入った、似たような羽織を身に付けた5人がこちらに向かって来ている。
「まさかこんなところで会うとはなぁ、大吉」
そう言って1歩ずいっと出てきたのは、赤茶髪に短髪の男だった。
両耳にはシンプルな赤系のピアス。ネックレスにバングル。ズボンのポケットから覗いているウォレットチェーンから想像するに、まだ色々持っていそう。
だが、それよりも気になったのは、これ見よがしに短い髪をかき揚げ見せつけている指輪。
ぅあ。この人か・・・・・・
わたしのと同じタイプの赤い色がバックの棒人間の指輪だ。
どうせなら大吉さんのとお揃いがよかったな・・・・・・
「お久しぶり大吉さん。随分とご無沙汰で寂しかったわ〜」
そう言って赤いメッシュの入ったセミロングの女性が手を振る。
「よぉ、久しぶりだな。相変わらず活躍してるようで何よりだよ」
大吉さんがそう答えると。
「そっちは最近噂を聞かないが、どうしたんだ?店仕舞いか?」
理由を知ってか知らないでかはわからないけれど、イヤミったらしくそう言ってくる。
声のトーンからして嫌な奴な雰囲気満々・・・・・・
1人だったら確実に避けてるタイプだ。
「しばらくおとなしくしてたんだがな、まだしばらく活動はするよ」
「ん・・・・・・?そっちのは・・・・・・」
そう言ってこちらを見たので思わず大吉さんの背に隠れる。
「今一緒に組んでくれてる子だよ」
組んでくれてる・・・・・・
違う。一緒にいてくれてるのは大吉さんの方。
足手まといだろうにここまで連れてきてくれたのも大吉さんだ。
左手中指の指輪を、内側に向けてあることを確認し、意を決して握っていたシャツを離してスッと大吉さんの隣に立つ。
「組んでもらってるのはわたしの方ですよ。
世間知らずなわたしに色々教えてくれてるのは大吉さんじゃないですか。」
めんどくさい奴と言っていたから、大吉さんを持ち上げすぎずほどほどに・・・・・・
「はじめまして、藍華です。よろしく!」
左手は後ろに、右手を差し出し握手を求めてみる。
身長は大吉さんより少し低いくらいだろうか。
年はもしかしたらわたしと同じくらい・・・・・・?
蘇芳はわたしを見て、瞬きもせず数秒固まったあと右手を出してきた。
軽く握手をするつもりが握ったまま手を彼の口元に引っ張られ、少しよろける。
「!!」
「大吉に愛想ついたら俺のところに来な。
手取り足取り色々教えてやるよ。」
そう言って手に口付けされる!?と思った直前
「離してもらおうか!」
普段より少し低めの静かな声で
がっちりとわたしの手首と蘇芳の手首を掴んでゆっくりと引き離す。
「・・・・・・必死じゃないか。珍しい」
蘇芳の指輪が軽く光り、掴まれていた手を振りほどく。
「おい、蘇芳。早く行かないと今日のノルマが終わらないぞ」
蘇芳の後方から大吉さんよりも背が高く、羽織に隠れてよく見えないけれど、ガタイの良さそうな坊主頭のサングラスをしている男が声をかける。
「チッ・・・・・・あまりここで依頼は受けるなよ。目障りだから」
そう言い捨ててスタスタとわたし達の背後にある建物へと向かっていった。
「またね〜大吉さん!こっちにいる間、“また”一緒にお茶でもできたら嬉しいわ」
“また”と強調しながら、少なくともわたしよりは豊かな胸を大吉さんの右腕に押し当てながら抱きついてするりと蘇芳の後を追う赤毛の人。
「お前たちは先に行っていてくれ」
坊主頭の男性が残りの2人にそう声をかけると、
「すぐきてくれよ?あいつを止められるのあんただけなんだから」
「私たちでは無理ですので。よろしくお願いします。まぁ善処はしますが」
額当てをしたどこか忍者を思わせる風貌に長髪を1つにまとめている男性はそういうとあっさりと2人の後を追い、1人だけとても丁寧な口調の女性は何か意味深な視線をわたしに投げかけてから、
「では失礼します」
と一礼して後を追っていった。
「ちょっと話するだけだ。すぐいく」
坊主頭の人は2人が行ったのを見てから口を開いた。
「すまないな、まだ成長しきれてないようで」
「いや、喜光だけのせいではないだろ。
いきなり殴りかかってこなくなっただけマシじゃないか?乗り気じゃない仕事もこなしてはいるようだし。」
「機会があったらまた灸を据えてやってくれ。」
「ごめんだね。もう昔ほどの体力ないんだよ、俺は。」
「あれでか?さっきあいつの手、アーティファクトなしで掴んでただろう?」
そういえば大吉さんは指輪つけてない。
「あいつはアーティファクト使って振り解いてたぞ。」
ん、この人も“見える”人なのかな?
「そこのお嬢さんも只者じゃないようだし」
わたし、何もしてないしこの人と握手もしてないのに・・・・・・何か感じ取られた・・・・・・?
「あんたの力はまだ増し増しみたいだな。
まぁ・・・・・・内密に頼むよ。政府の機関とはあまり関わる予定は無いんでな」
この人、ウォレットチェーンの先にものすごいアーティファクトを付けてる。
光具合が他のと違う。
「残念だな。またいつか一緒に仕事したいと思ってたが。
俺はあいつのお守りで終わりそうだし」
「それもまたご縁、ってな。
縁があったらまた一緒に何かしようぜ」
「あぁ」
ガシッと友愛の印のような熱い握手を交わして喜光さんは蘇芳の後を追っていった。
「あの人はなんか良い人っぽいですね・・・・・・?
仲良しなんですか?」
「まぁ・・・・・・あれだ。子供の頃こっちに住んでた時の幼馴染だな。数ヶ月だったんだが。
寺の息子でな。あれでも本業は坊さんだ」
「本業はって。さっきの人たちはどういうグループだったんです?」
「有事の際などに特殊な任務に駆り出される特殊隊だ。今の時期は収穫祭前の事前調査あたりが主な任務だったと思うが。
最低でもペアで仕事をこなすことになってるから、5人揃ってるってことは、要人警護か何か厄介な仕事の最中だろう・・・・・・。
割と危険な部類の委託の仕事をしてる部隊だ」
「全員他に本業があるんですか?」
「いや、全員ではない。俺が知ってるのは喜光と、あの言葉遣いが丁寧な女性がいたろう、彼女は本業がある。
蘇芳はあの赤毛の女性とペアで常に政府依頼の仕事をこなしてるはずだ。もう1人は知らん。新顔だったから」
「優秀な人たちってことですか。
全員碧空作品かそれと同レベルのアーティファクト持ってましたよね。
蘇芳さんはわたしと同じタイプの棒人間の指輪、赤毛の・・・・・・大吉さんにモーションかけてった方はペンダント。
喜光さんはウォレットチェーンの先に物凄い力の強いアーティファクト。
残り2人はおそらく指輪タイプとブレスレットタイプの何か。
全部他のアーティファクトとは輝き方が違いました」
「“見た”のか?」
「訓練しておいて損はないかと思ったので、人を観察するときだけ意識して“開いて”います。
ちなみに田次郎さんは指輪一つだけでしたね」
そこまで力は強くなさそうだったけれど、とても心地よい光を放つ指輪だった。
「良い心がけだな。それが意識じゃなくて反射的にできるようになっておくと・・・・・・」
大吉さんと同じような遺跡探索の仕事ができる?!とちょっと期待しつつ先の言葉を待つが、
大吉さんが拳を握って力説したのは
「逃げるのに役立つ!」
がっくし。思わず肩が落ちた。
「逃げる、ですか?
てっきり少しは戦闘の役に立つかと思ったんですが・・・・・・」
「まずは逃げ切るのが1番大事だ。
己の力量を見誤るな、引く時は引け。だ。
少なくとも俺はそうやって生き残ってきたからな・・・・・・」
明日新話更新します!_(:3 」∠)_
おやすみいただいた間に、三日間執筆をしないと言う断欲したりして脳みそをリフレッシュ(?)したりしてみました。
でも、脳内妄想止まりませんでしたwクルシカッタww
生活と家族と、色々なもののバランスを、前よりはとれてきた気がするので、再開させていただきます!
(宣言通り戻って来れてヨカッタ)
予告通り、もう1人の異世界紀行者の物語も更新していきたいと思ってます。
独立したお話になっているので、そちらだけでもお楽しみいただけるようになってます。
もちろんこちらを読まれている方には2倍はオイシイかと・・・
よろしければそちらも合わせてご覧いただけると嬉しいです(*´꒳`*)




