139. 記録用アーティファクトって・・・
「これよりも古い記録を見せてもらってもいいか?」
大吉さんの言葉にそう言われることを想像していたのか、すぐに出される資料の束。
「50年前の記録と、70年前の最後の記録だ」
少し黄ばんだその紙の束。
横から一緒に見させてもらうが70年前の方は神職の方が書かれたようで、とても達筆だった。
ゴメンナサイ。達筆すぎて読み取れないところが大半・・・・・・
その報告書には、御神体とその“補佐に”と置かれた水晶龍の置物を心配する言葉が書き連ねられていた。
「御神体は元々ヒビが入ってたのか?」
「それよりももっと前の記録には、再生の日の少し後の地震でヒビが入ったとあったな」
「補佐に置かれた水晶龍というのは?」
「ヒビが入ってしまって以降、聖水の力が弱まり、懸念した神職集が当時のマスターに依頼して制作してもらい、再生の日より数年後におかれたらしい」
「揃いの首飾りっていうのは・・・」
大吉さんからの質問に次から次へと書類をめくりながら答えていく田次郎さん。
「百年ほど前、突然現れた巫女だかがニつの龍につけたらしい。すると聖水の力が強くなり、人々は大いに助かったそうだ」
「この首飾りの詳しい情報はあるのか?」
「ちょっと待て」
ガサゴソと、分厚い紙袋の中から1枚の紙を取り出し渡される大吉さん。
シンプルな楕円の枠に、青と赤色のゆらめくようなペンダントトップのその絵に、何か既視感を覚えた。
「当時の記録によると、それは単体では誰も力を発動する事ができず、その力の正体は分からず。
だが、2つの龍に取り付けることで、浄めの力が強くなったとある」
別の紙を見ながらそういう田次郎さん。
「蘇芳の報告書には、特段変化はなく埃のつもり具合も例年通り。社の屋根部分の補修がそろそろ必要になるかもしれないような事が書かれてるな。
で、この破滅的に下手くそな絵はなんなんだ・・・・・・?」
報告書の一部に、おそらく社の屋根部分の絵だろうモノが描かれているが、まるで小さな子供が落書きしたかのような絵で。
「奴は記録用アーティファクトと相性が悪くてな・・・・・・こうなっちまうんだよ・・・・・・」
え、これ記録用アーティファクトの絵なの?!
「いっそのこと自分の手で描いた方がいいんじゃ・・・・・・?」
「いや、それはもっとひどい。
だからコレなんだ」
アーティファクトって面白い。
「まぁその絵の事は置いといて。
その御神体も、首飾りもアーティファクトってんで、原因究明ののちすぐに対応が出来る様に、この研究所が一枚かんでるってことだ。
研究所からの正式な依頼として頼みたい。
コレが依頼書と証のチャームだ」
そう言って書類を1枚大吉さんに手渡し、依頼証明の証だというロケットタイプのチャームを2個、テーブルに並べたスイーツの合間に置いた。
ロケットは細かい模様の入った美しいもので、
シルバーのエンボス模様が浮き出るようにグリーンの色が入っている。
「立ち入り禁止となってる聖域、源泉の社までと付近の立ち入り許可がこれに記録されてる。
それをなしで入ると侵入者とみなされて攻撃されるから気をつけてな」
攻撃?!
「了解。
じゃぁ泉と社の、これまでとの相違等を調べることと、原因みたいのが分かったらなおいいんだな」
「そうだな。あ、あと水晶龍の方は、よく散歩に出ているそうだから、そこにいなくても慌てなくてもいいぞ」
「散歩・・・・・・?」
「1人で変化して出歩いてるそうだ。
神社に人がいた頃はよく路上で見つかって連れ帰られたとある」
リアルドラゴン・・・・・・!? アーティファクトだけど。見てみたい!!
「変化するのか?!」
「見たものは“ほぼ”いないがな」
「ほぼ?」
反射的に聞いてしまったわたしに、丁寧に説明してくれる田次郎さん。
「どこの記録にも、それ変化した状態を見たという記録はないんだ。
だが、揃いの首飾りを持ってきた巫女だけがその姿を確認したと書かれている。
ただその巫女は正式な巫女ではなかったらしく、彼女自身が報告書を書くことはなかったということだ」
なるほど・・・・・・
「ドラゴンか・・・・・・」
何か神妙な顔をして言う大吉さん。
「まぁそんなに構えて行くなよ? 見れたらラッキーくらいに思っとけ」
自立して動くアーティファクトなんていうのもあるのだろうか。大吉さんからも聞いたことはないから、あっても絶対的に個数が少なそう。
どういう仕組み・・・・・・かはこの際置いておくとして、どの素材がどのように影響して実体化するのか興味津々だ。
「ほ、興味あるか?」
ウキウキしてるのがわかったらしく、ワッフルを口いっぱいに頬張りながらずいっと近寄ってくる。
「何それどうなってんの?どんな素材が使われて、何がどう作用して変化するのか!
気になるだろう〜?」
「おじさん、そこまでだ」
神妙な顔して何かを考えていた様子の大吉さんが、瞬時に意識が戻ってきたようでストップをかける。
「えぇ〜今度ゆっくり2人で話させてくれよ。
絶対に損はさせないから〜」
「大半は自分の欲望のためだろう!!」
2人のやりとりを眺めながら買って持ってきたコーヒーを飲んだ。その件の水晶の龍と出会えることを祈りながら。
「そうだ、忘れるとこだった」
何やらまだ勧誘(?)したそうな田次郎さんを横に、そう言って大吉さんは小さな革袋と書類を出した。
「トウキョウの役所から、例の提出品だ」
「あぁ、例の碧空作品か!」
「必然的に蘇芳の協力が必要となるだろうが、まぁあとは任せるよ」
あっさりと提出する大吉さんに、大丈夫かな・・・? と思いながらチラ見すると、大吉さんも少しこちらをみてニッコリと笑って頭をポンポンと撫でてくる。
「レプリカは作ったのか?」
田次郎さんが聞くと、
「あぁ、藍華がな」
そう言って頭から三つ編みの先っぽに手を移し、髪ゴムの部分を持ち毛先をぴこぴこさせて「大丈夫だろ?」と言うようにふんわり笑顔でわたしを萌えコロス。
「棒人間のと同じで、出力がすごいから気をつけて、とだけ伝えとく・・・」
視線を田次郎さんに戻し真顔でそう言うと、手をわたしの髪から離して自分のポーチから何か小さな封筒の手紙のような物を出してわたした。
「一応俺からのレポートだ。見るタイミングは任せるよ」
「わかった。参考にさせてもらうよ」




