013.夢じゃなかった
眩しい朝日に照らされるレプリカランプ。
朝日を受けて、眩く輝き部屋の住人に朝を告げる。
「んん…………」
むくりと起き上がり、あたりを見回して現状を確認すと、目に入ったのは大型のレプリカランプ。
「夢じゃなかった……」
中には水晶とパールと薔薇っぽい花びらが散っていて、触れると明るさを五段階で調節してくれる優れもので。とりあえず明るさを三くらいにしておいてみた。
昨晩大吉さんが「とりあえずきれいにしといた」と夕飯後にダンボール一箱分の衣類を渡してくれたのだが、女物の服はクゥさんの残していった物だそうで、そのほとんどがわたしには少し小さかった。
わたしも一五五センチと、高くはないほうだけど。クゥさんは、わたしよりもっと小柄な人なのだろう。
出来るだけ早く入手する方向で考えようと言ってくれたので、ひとまず毎日寝る時に手洗いして乾かすことにして。寝る時は、大吉さんのお古だというTシャツと短パンをパジャマがわりにさせてもらった。
少しだぼっとした服を脱ぎ、乾いた自分の服を着て、髪をキュッとポニーテールにして、下へと向かう。
「おはよう藍華。仕込みが終わったら出かけるか」
倉庫の奥から大吉さんの声。
「おはようございます、了解ですー! 何か手伝いましょうか?」
「ジャガイモの皮をむいてくれたら助かるな」
「はい!」
カウンターのところ、山積みになっていたジャガイモを水洗いしてどんどん皮をむいていく。
対面式カウンターのところには、水場とコンロと調理用カウンター。調理用スペースの下には冷蔵庫が二台。反対側には大きめワインセラーのようなものがありその隣に調味料等も置かれた調理用カウンター、おそらくお茶やコーヒー、飲み物系の物が所狭しと壁に設置された棚に並んでいる。
喫茶店『碧空』営業時間は朝七時から夕方二十時まで。
ラストオーダーは十九時。アーティファクト、レプリカの販売修理も請け負うので、修理業務は空き時間と営業時間外で行っているそう。
以上昨晩の大吉さんとの会話からの情報である。
「今のところ急ぎの依頼もないから服とか買いに行くのと、アーティファクトとレプリカの試しをしてみるか」
ということで、仕込みが終わったら外出なのだ!!
街が見れる!
アーティファクトを実際に使ってみれる!
寝坊なんかするもんかー!!
ってことで現在に至る。
ジャガイモの皮を剥くわたしの隣でニンジンやその他の野菜の下準備をする大吉さん。
「なかなかうまいじゃないか、ジャガイモの皮むき」
「一人暮らし歴わりと長いですからね」
ちょっとテレながらそう答えると、大吉さんは笑顔で言った。
「助かるよ」
「じゃぁジャガイモの皮むきはわたしの仕事として割り当ててください」
料理自体は好きではないけど、単純作業は好き。
あと少しで全部むき終わるという時に、店の扉が勢いよく開かれた。
カロンカロン、というドアベルの音が穏やかではなくその緊急性が強調される。
「大吉っちゃん!
事故だ! すぐ来れるか?!」
まだ髪がしっかり現役で、ちょっと白髪まじりなメガネのおじさんが飛び込んできた。
「太一さん、どうした?」
そう言いながらすでにエプロンを外し、むいていたニンジンを冷蔵庫に押し込む。
それに倣ってわたしも動く。
むきかけのは水につけて。
(そうするととりあえず色は変わらない)
「橋の向こうで陥没事故だ!
範囲が大きくてたくさん巻き込まれた──!」
「すぐ行く! 藍華は──
もう店の扉に手をかけているわたしをみて、
「力仕事だ、例の指輪つけとけ!」
しょうがない、と言った風な表情で言うと、カウンターの下からガサゴソと小さなウェストポーチを取り出し装着する大吉さん。
全員が店から出ると、大吉さんが鍵のアーティファクトで施錠をし、案内の太一さんの後に続いて走り出す。
「大橋向こうの寺のとこだ!行けるんだったら先行ってくれ!
俺は医療系の応援も呼びに行ってこなきゃなんねぇ!!」
「わかった!場所はわかるから、行ってくれ!」
太一さんが道からそれて行っても、迷うことなく走りゆく大吉さん。
「藍華! ちょっと飛ばす。しっかり捕まってろ!!」
そう言って、いきなり抱えられるわたし。
「え、ちょっとって……むぐっ?!」
抱えられ、そして短い貯めの後めちゃくちゃ圧を感じ、必死にしがみつく。
「バイクとか買える経済力があったらよかったんだが……」
バイクよりすごい早いと思いマス。コレ。
風圧が凄くて、目が開けていられないけれど、チラリと見えた土煙。そこがおそらく陥没の起こった場所────




