137. 田次郎さん
京都2日目、朝はゆっくりとって、大吉さんのおじさんに会いに研究所へ向かった。
研究所のカフェで待ち合わせ。ということで、適当に座って待つか、と座ろうとしていた時。
「大吉〜!!!」
大吉さんに突撃してきたのは、丸眼鏡をかけていて、大吉さんによく似た癖毛で長髪の男性だった。
「何でおまえ! もっとあしげくこないんだ・・・・・・!
寂しいじゃないか!!」
熱い抱擁をしながらほっぺたをくっつけてぐりぐりするその姿に。
叔父と甥にしては熱い・・・・・・
挨拶にドン引きなわたしを尻目に抱擁はつづく。
「叔父さん・・・・・・苦しいわボケェ!」
大吉さんより身長の高い田次郎さんをなんとか突き放し、息を荒くしてそう言った。
「何と!オムツまで変えてやった俺にそんな事を言うのか・・・!」
がバァッと勢いよく座り込んでハンカチで顔を覆いヨヨヨヨと言わんばかりに泣き出す田次郎さん。
いや、泣き真似か。
「叔父ちゃ〜ん! て追いかけてきてたあの子が・・・・・・!!」
「何年前の話だよ!!
それより、奥さんと子どもたちは元気か?」
「あぁ、元気だよ」
ポンポンと、ズボンの脛とお尻のあたりを払いながら立ち上がる。
「ただな・・・・・・最近娘が冷たくって・・・・・・
寂しいんだよぉおお」
「しょうがないだろ・・・・・・
15だったか?難しい年頃じゃないか?」
そう言ってわたしの方を見る大吉さん。
「ぃやー・・・・・・わたしは多分、普通の子供とは多分だいぶ違った感覚の子供時代だったので。
よくは分からないですが・・・・・・
多分そうですね。
難しいお年頃ってやつです」
「命の危険そうな時だけ助け舟出してやれよ。
干渉しすぎるのは良くないぞ?多分」
なんだか大吉さんの方が親のようだ。
「・・・・・・そんなこと言ったって・・・・・・
おはようくらい言ってくれたっていいじゃないかあぁぁぁあぁあ」
今度は本当に号泣。
た・・・・・・大変なんだな・・・・・・親というのも
「弟の方は?12歳くらいだったか?
相手してくれてるんだろ?」
相手してくれてる、て・・・・・・
「・・・・・・あぁまぁな・・・・・・
あの子はな・・・・・・はなれて住んでるはずのお前の影響がなーぜーか、強くて。
何でも屋になる修行だー!とか言ってしょっちゅう外泊だ・・・・・・」
12歳で1人で外泊?!
「・・・・・・まさか遺跡に行ってるのか?!」
「多分な・・・・・・まだ幸いレスキューの世話になることにはなってないが・・・・・・」
一体全体大吉さんはその子にナニを見せたのだろう。
12歳の男の子・・・・・・
憧れたものに突っ走るタイプの子なんだろうか
「“キョウト”近辺にも危険な遺跡は沢山ある・・・・・・ちょっと釘を刺そうか・・・・・・?」
「やめてくれ。お前がすることは全て裏目に出るる。
もっと憧れて真似したがるに決まってる・・・・・・」
あ、そこはちゃんと拒否するんだ。
「・・・・・・そうか・・・・・・」
何か思い当たる節があるのか、そう言って黙る。
笑顔で固まったまま様子を伺うわたしにようやく気付いたようで
「ところでこちらの可愛らしいお嬢さんは・・・・・・例の手紙の?」
そう言って大吉さんに確認を取る。
「はじめまして。少し前から大吉さんのところでお世話になってます。藍華です、よろしくお願いします。」
手を出すと、よろしくと言って、しっかり握手してくれる。
「君のその雰囲気・・・・・・もしかして出身はクゥと同じところか・・・・・・?」
手を握ったまま目を見つめられ、そう言われる。
「!?」
そういえばクゥさんも依頼で“オオサカ”まで大吉さんと一緒に来てるんだっけ。
「感は鈍ってないんだな・・・・・・」
わたしの手と叔父さんの手を無理矢理引き剥がしながら大吉さんは言った。
「あったりまえだ!“キョウト”の研究者の感覚舐めんなヨ。
人もアーティファクトの1部だ。分からないはずがなかろう。
まぁ、クゥの時は神職者か?って思ってたんだがな。」
わからないわけがなかろう、と憤慨しているような田次郎さん。
「神職者・・・・・・?」
「神職者と近いが、遠い。そんな感じなんだよ。君とクゥの気配は。」
「まぁ、握手するくらい近づいてようやく分かる程度だがね。
安心してくれ。実験に付き合ってくれとはひとまず言わない。
大吉のガードが強そうだし!」
そう笑顔で言った。
「藍華、叔父さんに何か頼まれてもことわれよ?ろくなことないから!」
盾のようにわたしの前に立ちいう大吉さん。
いやまぁ変な依頼は断るけれど・・・・・・
「まぁ、そのうちな。大吉抜きで話させてくれ。」
そうわたしの目線に合わせて腰を落とし囁く田次郎さん。
思わず苦笑してしまうが
「で!そっちからの依頼はなんなんだよ。
夕紀美さんから聞いて大体のことは把握してるが、正式に依頼してくれないと俺も動けないぞ。」
そう大吉さんに遮られてしまう。
大吉さんには止められそうだけど、田次郎さんとアーティファクトのことについて話すのも面白そうだと思ってしまった。
「おぉ。引き受けてくれるか?」
「あぁ。治療代替わりに受けてくれとも言われてるからな。」
「じゃぁ夕紀美からの紹介としておこう。
“きよみず寺”のとこに来てる聖水の源泉の調査だな。夕紀美が政府御用達の警備員からでは嫌だと駄々をこねて調査が遅くなるところだったんだ。本当に助かる・・・・・・」
夕紀美さんの影響力はとても強そうだ。
「お前のことだ、記録用アーティファクトは持ってるな?」
「あぁ。」
「依頼の詳しい内容は
源泉の泉の状態調査。
泉と泉付近の映像を記録してくること、だ。
特に泉横にある祠の外からと中の状態も。
で、できたら少量でもいい、聖水の採取を頼みたい。」




