132.キーワードは“大吉さん”と“抱っこ”
出発してから8日目。
きょうと到着は予定通り昼前だった。
「“クサツ”から結構近かったですねー!」
“キョウト”の街は“トウキョウ”と違って、まず背の高い建物がなかった。
木造が多く、2階建ての建物ばかり。
きっとコンクリートが出てくるまでは、こういう景色ばかりだったのだろうという雰囲気が。
あちらの世界にいた時、京都へは中学の時の修学旅行で行ったのみだったが、その時と似た雰囲気な場所もあってなんだかこそばゆいように懐かしい・・・・・・
ただ一つ、違うのは基本的に石畳の道らしく、馬車の車輪のガタガタ具合が、程よいマッサージ機のようである意味面白いのだが。
腰が痛い人にはキツいだろうな、と思いながらチラリと大吉さんをみる。
朝食後自らハンモックに乗り込んだ大吉さん。
数時間の道のりだったのだけれど痛みは増してきているようだった。
ハンモックに横になってはいるものの、痛みが増してきたようで、冷や汗が浮かんでいるように見える。
「宿に着いたらまたゆっくり横になってお医者様を待ちましょう」
覗き込みながら言う私に、
「う・・・・・・まぁそうだな・・・・・・」
痛みが酷いのか、はたまたその医者に会いたくないのか、微妙な曖昧な返事。
こんな時、医療用アーティファクトがあったらいいのだろうな・・・・・・作るの難しいのかな。
相性があるから使用できる人間が限られる、と言ってた気がするから、自分が使えるかもわからないけど。
見てみたい、作りたい、そんな気持ちがムラムラと大きくなっていくのを感じながらも、宿に到着。
そして───
通された部屋はなんと、宿の庭の一角にある離れ。
「本当にいいんですかこんな素敵な・・・・・・!」
案内を兼ねて大吉さんを抱えてきてくれた達磨頭取に聞いてしまう。
「まぁ、なんだ・・・・・・例のアレの詫びでな」
離れの玄関内部にてのやりとり。
「すまないが・・・・・・出来るだけ早くおろしてくれるか?」
痛みがひどくなってしまった大吉さんを、達磨頭取が抱っこしてきてくれたのだ。
身体くの字に曲げてそれ以上動けなくなってしまったのだからしょうがない。
改めて見てもやっぱりシュールな光景。
サンタクロースのような見た目の人物に、お姫様抱っこされてる35歳男性。
内心で大爆笑しながら、顔には出さず対応できてるの、我ながらすごいと思うのよ。
いやまぁね。
散々笑われてたから。アグネスとフェイに。
これ以上は、ね・・・・・・
案内してくれた中居さんが次々と扉や襖を開けてくれる。
「こちらに布団一式敷いてありますので。」
そう言って、廊下の中盤に位置する襖を開けてくれると、8畳の和室が顔を覗かせた。
この状態の大吉さんを見ても顔色ひとつ変えない中居さんもすごいと思う。
部屋の奥、縁側の先には小さな庭があり、あの水のカッコンってなるヤツがあって、バランス良く配置された岩や松が並んでいた。
「わぁ・・・・・・ステキ・・・・・・」
思わず声がもれる
中居さんが軽く離れの説明をしてくれて、1番奥が御手洗い、その手前に離れ専用露天風呂がついているとのこと。
5日間ここに篭っていることもわたしには可能だな・・・・・・。
「では、失礼します。何か御用の際はそちらの手鞠からフロントにご連絡ください。」
「・・・・・・う・・・・・・」
少々うめきながらも、そっと敷かれた布団の上に下され、げっそりと青い顔しながら頭取にお礼を言う
「・・・・・・ありがとう達磨頭取・・・・・・」
「なぁに、これくらい!
食事は朝食はついておるからの。夕方に時間の指定だけすれば翌日その時間に運んでもらえる。
夕食は朝のうちに頼んでおけば用意してくれるし、食堂でも食べれる。料金は気にしないでくれ。」
そう言って立ち上がると、ゴソゴソと懐から何かを取り出そうとしている。
私も立ち上がって、深く一礼してお礼を言う。
「ありがとうございます。。!」
「これを渡しておこう」
懐から取り出されたのは、1枚の名刺だった。
「糸屋の場所と紹介状じゃ。裏にわしのサイン入り。
5日のうちに定休日はないから、いつ行っても大丈夫じゃ。
無理するんじゃないぞー」
「じゃぁ、あとはゆっくりな。」
そう言って去っていった。
「く・・・・・・ありがたいが。流石にアレは・・・・・・
めちゃくちゃ恥ずかし・・・・・・・・・・・・」
体をくの字に曲げたまま横たわる大吉さんに背を向け、
「じゃぁ荷物の整理してきますね。」
と言って襖をそっと閉じ、玄関に置いておいた荷物を取りに行く。
ぶほっっっごほっっっ
えふん!えふん!
玄関のところまでは耐えたけど、吹き出た。
ごめんなさい大吉さん・・・・・・思い出すだけでしばらく笑えそう。
玄関横の棚にテントなどの大きな今必要ない物をしまい、貴重品と着替え等を持つと、
ピンポーン
可愛らしいベル音が離れに響く。
「はい、どうぞー!」
荷物を持ったところだったので、咄嗟にそう声を上げると、
「失礼するよ!」
ガラガラっと引き戸を引いて現れたのはーーーー




