131.研究所に電話
「“キョウト”アーティファクト研究所第三研究室」
ルルルルルル、ルルルルルル、
あらかたの片付けを終えて、テーブルの上の備え付けのお茶セットでお茶の用意をする。
《はい、こちらアーティファクト研究所、第三研究室です》
「トウキョウから来ました大吉と申します。
田次郎さんは今そちらにいますか?」
《田次郎副所長おりますよ。しばらくお待ちください。》
しばしの沈黙の後、何かが割れる音と風の音?が聞こえてまた再び沈黙が・・・・・・
「今の音は・・・・・・なんだったんですかね・・・・・・」
「・・・・・・多分何か小さい爆発でもしたんじゃないか?」
よくあることなのか、驚きもせずにそう言う大吉さん。
爆発って・・・・・・一体どんな研究を・・・・・・?
「・・・・・・もしもーし・・・・・・」
沈黙に耐えきれなくなったのか、大吉さんがそう言うと
《・・・・・・ごほっっゴホッ!!・・・・・・あーもしもし? 大吉だって?》
少々むせて、呼吸しづらそうな声が聞こえて来る。
「大丈夫かおじさん・・・・・・?」
《ぁあ・・・・・・まぁ・・・・・・研究の成果が出てるから大丈夫だろ。たとえラボが崩壊しても!!》
あちらからはまだ何やら物の壊れる音が継続的に聞こえてくる。
「崩壊するのはまずいだろ・・・・・・まぁいいや。」
いいのか
「今近くまで来てるんだが、頼みがあって。」
《おぉ、いいぞ!
そのかわりうちの依頼も受けてくれるならな!》
「探索か? それこそ俺の頼み聞いてくれた後じゃないと無理だな。
夕紀美さんに明日の昼前、11時に草鈴園という宿まで出張の治療依頼を頼みたいんだ。」
《なんだ、お前怪我でもしたのか?
それとも誰か知り合いが・・・・・・?》
「まぁ、ちょっとな。」
濁した。詳しい内容を言わずに濁した。
「夕紀美さんにはもう話通してあるから、おじさんのところから依頼出してくれ。できるだけすぐに。」
《まぁ・・・・・・詳しくは聞くまい。了解した。
ところで何日くらいこっちにいれるんだ?》
「明日昼前には到着するんだが、明日入れると6日。7日目の朝にはまた出発しちまう。
おじさんの依頼は長期になりそうなのか?」
《とりあえず調査だけなんだが───、場合によっては体力の要る仕事でな。そのはしりだけでもやってもらえると助かるな。明後日の午前中にここに来れるか?》
「多分大丈夫だ」
《問題の解決はこちらの者でもなんとかできないとまずいだろ。なんてったって“キョウト”は日本のアーティファクト使用者のメッカなんだからな。》
“キョウト”の方がアーティファクト使用率等が高いのは確かなようだ。
さぞかしいろんなアーティファクトがあるのだろうな。
ちょっとウキウキしながら話を聞いていると、
「藍華、出発前2日は俺たちもしっかり休み取らないといけないから受けないが、それまでだったら受けてもいいか?」
わたしとしては元々“キョウト”に用事はないし、観光はちょっとしてみたいけど、また訪れる楽しみも取っておきたいので。
「いいんじゃないですか?5、6日目のどこかで糸屋さんだけでも行けたら私的にはオッケーです」
「サンキュー」
「じゃ、おじさん。とりあえず明後日会おう。詳しい話はその時に」
《あぁ、例のお前のツレに会えるのも楽しみにしてるよ》
わたしのことか。
じゃぁな、と言って向こうのほうが通信を切ったらしく、プーーーーーという小さな音が流れた。
ぐったりと手を下ろして、
「なんだかなー・・・・・・
せっかくの休日に依頼引き受けることにしちまって、すまないな」
「大丈夫ですよ。大吉さんが普段どんな依頼を受けてたのか、一緒に経験できるのは嬉しいですし」
そう言って1人、お茶をすすった。
少しづつでいいから、大吉さんのことをもっと知っていきたい。
「あ、お茶飲みますか・・・・・・?」
また、辛そうだなーと思いながらも聞いてみる。
「今は・・・・・・やめとこう。
痛み止めは夕食の時には頼む」
目を閉じたまま、静かに呼吸をしている。
うっすらと額に汗が浮いているのが見えたので浴衣等と一緒に置いてあるであろうタオル類を探し出し、フェイスタオルを持ってきてそっと額の汗を拭く。
「ん・・・・・・サンキューな・・・・・・」
痛み止めもやりすぎると肝心な時に効かなくなる、とのことで馬車を降りる時から我慢する時間と決めていたようだ。
腰のこともあるので、夕食は部屋に運んでもらったが、フェイとアグネスもなだれ込んできたので、結局宴会のようにはなったと記しておこう。
翌日目が覚めると、あまり顔色の良くない大吉さんの顔が目に入り、布団から這い出て覗き込む。
サワサワと額にかかっている前髪を避けると、額に汗が浮かんでいた。
その感触で目が覚めたのか、穏やかな表情でふんわり目を開く大吉さん
「・・・・・・ん・・・・・・おはよう藍華・・・・・・!!」
そう言って突然目を固く閉じる
「大丈夫ですか?」
ぎゅっと目を瞑り、苦しそうに見える大吉の額を再び乾いたタオルで拭い、
「どうします?痛み止め」
「・・・・・・朝食時に頼む。ここに運んでもらうよう頼んでもらってもいいか・・・・・・?」
わかりました、と答えていそいそとバスルームの方で着替えてフロントへと向かった。




