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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 三章 “キョウト”へ
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128. 腰とハンモックとベルカナ

「ギックリ腰?!」


「症状からして多分そうだろう。俺も何度かやってるしな」


耕助さんが苦笑しながら言う。


身代わり護りは効かなかったのか。。。。。


(やまい)とかの部類に入るのかな。ギックリ腰。


「なった直後の安静が大事だそうだ。休んどけ、大吉」


「夕方には草津に着く。そこで医師を呼べそうだったら呼んでもらおう」


フェイと耕助が大吉さんが口を挟む間もないように畳みかけて言う。


「しかしだな・・・馬車の後輪まだ全然抜けてないじゃないか・・・しかも右の車輪もはまってただろう?耕助さんと俺以外パワータイプじゃないだろうが・・・・・・

頭取が動けたらいいが、1号車のシェリー(馬)が馬車が止まっちまったので気が荒くなって当分離れられないだろうし」


あら。それでちょっと遅くなってたのね。


「なんならわたし手伝いに行きますし。

大吉さんはゆっくり休んでいてください」


えぇ?!藍華が?!!

この華奢な体躯の子に何が?!!


って言う顔で見てくるフェイと耕助さん。


私は付けている指輪をクルッと回して飾り部分を上にする。


「それは。。。!!」


フェイが驚愕する。


色違いではあるけれど、大吉さんとお揃いの棒人間の指輪。

やはりレアなんだろう。


「大吉さんはコレで周囲の警戒でもしててください」


そう言って敵意レーダーを渡す。


「フェイは良かったら大吉さんの為に荷台の中にハンモックでも作ってあげてください。」


腰に負担をできる限りかけない方法を思いついたので、それをフェイに話し、お願いした。

あと、何かあった時に大吉さんを助けてあげてほしいという下心もあるけれど・・・


大きな布を馬車の荷台の骨組みの所に取り付けてもらい、簡易ハンモックにしたら、揺れが直接くるよりはマシなはず、と。ユウリさんに使ってもいい大きな布を借り、フェイにお願いして耕助さんと一緒に1号車へと向かう。


「さて、私は何をしたらいいですか?耕助さん。」


「よーし、じゃぁめり込みの少ない右車輪を持ち上げて俺と一緒のタイミングで前に進んでくれ。」


深くめり込んでしまっている左の方は流石にキツかろう、ということで右側を担当することに。


「1、2の3!」


耕助さんを見ながらタイミングを合わせる。

指輪のおかげもあって、少し重い荷物程度にしか感じられない。


前輪の方も多少ハマっているようだが、少しづつ前に進んではいるから大丈夫だろう。


車輪は無事にぬかるみを抜けて、進むことが出来た。


思いっきり踏み込んで足が泥だらけなのは水のアーティファクトで馬車に乗る前に落としておこう。


「ありがとうな、助かったよ。俺1人じゃ流石に難しかったろう。それこそ大吉さんの二の舞になってたろうな。」


「いえ、そんな。」


耕助さんと頭取が相談して、耕助さんのチームから1人馬車の前を行く様にして、ひどいぬかるみの箇所を避ける様にして行くことが決まった。


「藍華、お疲れさん!」


声をかけてくれたアグネスに、手を振って返事をし、2号車の方へと戻る。


フェイのおかげで立派なハンモックができていて、そこに横たわってる大吉さんが。手を上げながら


「うまくいったみたいだな・・・」


「もちろんです!ありがとう、フェイ」


水のアーティファクトで足や服の泥を落とし、乗り込もうとした時に、手を差し出してくれたフェイに二重の意味を込めてお礼を言った。


「いいってことよ」


「耕助さんが道を確認しながら遅めのスピードで出発することになりました。シェリーの調子が大丈夫になったら出発できるそうです。」


「じゃぁフェイ、そっちでも引き続きレーダーで確認頼んでいいか?」


「おぅ。雨で気配は追えなかったが、今すぐどうこうしてくるつもりは無さそうだ。大吉はとにかく休んどけ。」


「う・・・すまないな・・・・・・」


崖下の2つの反応のことだろうか。

ヒラリと飛び降り、駆けて行くフェイ。


「気をつけてねー!」


フェイを見送り、ハンモックの横に座る。


「例の2つの反応がな、藍華が戻ってくる直前消えたんだが、その前にフェイがアーティファクトの補助ありで目視してくれてたんだ。」


アーティファクトの補助ってそれはどんなアーティファクト?!見てみたい。と言う気持ちを抑えて、


「この木々の立ち並ぶ崖下の方を?それって一体どんなアーティファクトなのかすっごく気になるんですが。どんな人達か見えたんですか?」


ちょっと本音がもれた。


「顔はあまり良く確認できなかったらしいが、1人は白っぽいマントを被った短髪長身のおそらく男。もう1人は小柄な女性と言っていた。この山中でしかも雨の中短いスカート履いていたらしいから間違い無いだろう」


白っぽいマントと聞いて真っ先に『あの男』が思い浮かび嫌な気持ちになる。


思い出したくもないあの男。


いかんいかん、淀んでいく気持ちをそこに引きずられまいと切り替えようとした時


ふわっと頭に幸せな感触が・・・。


ぽんぽん、と頭を軽く撫でてから手を引っ込める。


出発しますよー、よユウリさんから声がかかり、馬車はゆっくりと出発する。


「・・・ぃててて・・・」


ハンモックの高さがちょうど座った時に頭の辺りに来るので、ここに座ったら大吉さんの顔が真横に。


自分顔真っ青なのに笑顔で私を落ち着かせようとしてくれてる大吉さんが───


「ありがとうございます・・・・・って!!大丈夫ですか?!!」


淀んでた感情なんかどこかに飛んでいってしまった。


「無理して動いたらダメですよ。。。」


腰痛って、さすったら痛み引かないかしら。。。


「あ、使ってみますか『ベルカナ』・・・?」


再生、成長を現すルーン文字『ベルカナ』。何かの文献では治癒と言う意味もあったけれど、色々な情報から治癒よりは再生と成長の意味の方が強い、と思ったのだが。


「再生のルーン文字か。どうだろうな・・・

まぁこれ以上ひどくなることはないだろう・・・

やってみてくれるか?」


チェーンの先についているベルカナのアーティファクトを意識しながら大吉さんの腰部分のところにハンモックの下から手をかざし、


「ベルカナ」


言葉を放つと、


腰のところを意識したはずが、体全体を薄い光が包んで数秒で消える。


「ぉお・・・」


「どうですか?」


「ずいぶん痛みが減った。」


完治はできないか・・・


「すごいな、ありがとう」


青い顔は通常に戻り、少なくとも楽になったということはわかった。


よかった、と安堵したのもあっただろう。


へっくち!


くしゃみが出た。雨にしっかり濡れていたことを思い出した。


「ユウリさんにアーティファクト借りて早く服を乾かせ。風邪ひくぞ?」


「はい、じゃぁちょっと行ってきます。」


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