118.大切な思い出
「お待たせしました。目的のものを手に入れたので、ゆっっくりお話ししましょうか。」
神使達に慰められながら待ってくれていた翠様。
「お聞きしたいことがいくつかあります。その返答次第では、コレをお預けすることもできます。」
ぱぁああああっと表情が明るくなり、何なりと質問せよ、と答えた。
「ではまず1つ目。
貴方の本体は主に白檀の香を焚く香炉じゃないですか?九尾の彫りのついた」
次は驚きの表情。クルクルと感情のあらわになるその美しい顔は普通の女性ならば見惚れるほどだろう。
「よくわかったな・・・・・・」
「香りと気配?から想像させてもらいました」
第六感とでも言うのだろうか。
こちらに来てから確かにそういったものが敏感に働いている気はする。
「そしてここ数年、あまり人前に姿を見せていない、と。」
「その通りだ」
「ここからは完全に私の想像ですが、御神体の一部が壊れてしまってはいませんか?例えば組紐の飾り部分とか。。。」
香炉に紐ってあまりみたことがない気がするけれど・・・・・・
美しい顔が哀愁を帯びて、寂しそうに、でも嬉しそうに語り出す
「・・・そなたの心眼はすごいのぅ・・・
我の力を見出した、当時の宮司がな。。
修復の技術も持たぬ宮司だったが・・・
彼が付けてくれたのだ。組紐のリボンを。不器用だけど心のこもったそれは、我に力を与え、このように姿を得ることもできるようになった。」
嬉しそうに両手を見ながらその頃の事を思い出しているようだった。
そして、先ほどまで後ろに回していた右手を、袖部分を見せるようにヒラリと私の方に差し出す。
「見ての通り、組紐の飾りが擦り切れて千切れそうになっておっての・・・」
確かに装束の袖部分のアレなんていうの?紐の部分が千切れかかっている。
もしかしてその紐部分が千切れそうで力が足りなくなって・・・
「こうして顕現するにも格好悪いし、」
ぅおい。
「そなたのソレをつければ格好もつくし力も安定して顕現出来ると思って・・・」
・・・・・・良い話かと思ったら、とんだナルシストかと思っちゃった・・・。
「特別な日だけは気合を入れて顕現するのだが。
やはり通常でも出来る限り参拝に来てくれる者達には姿を見せてやりたいではないか・・・」
なんというか。言い回しは不純な匂いがぷんぷんするけれど・・・・・・参拝者に対する想いは伝わってくるし、参拝者達の想いも、この境内を見れば伝わってくる。
「ではコレはお貸しいたします。」
「本当か?!」
「千切れかけたその紐を代わりに貸してください。
“きょうと”の方へ行くので、似た材質のものが見つかるかもしれません。よかったらちゃんとした翠様専用のものを作らせてください。」
「よかろう」
翠様はシュルシュルと優雅に紐を外し、ふわっとそれを私に渡す。紐が光ったかと思うと、小さい、本来のサイズとなって手の中に残る。
「ではこちらを。。。」
千切れたままなのがとても気になるのだけれど、籠ってる力が重要だというのならば。。。。。
翠様にそれを渡すと。石の編み込んである部分だけそのままに、三つ編み部分だけが長くなってそこに収まる。
「千切れた部分をこれ以上解けてくるのを防ぐ為ちょっと手直しするので少し失礼しますね。」
ほつれてきている所を縛って止めて、さらに簡単には外れないように結び止める。
「代わりになるものを必ず用意するので、いずれちゃんと返してくださいね?」
「返す時まで大事にすると約束しよう。」
そう話をしながら、組紐の奉納が流行る未来が垣間見えた気がす
る・・・
「ありがとうございます。では───」
「あ、しばし待て。
そなたに───今の我では落とせぬ何かが付いておる。」
少し神妙な顔をしてそう言いながら私の肩の辺りをひょいひょいと手で払う。
「陽が落ちるほどに濃くなっていく影が見えるのだ。
宵の時は特に気をつけるが良い。“きょうと”に行くならば我の眷属に会いに行け。そういった物を落とすのが上手い者がおる。」
「眷属というと・・・稲荷神の・・・?」
「そうじゃ。」
「その御守りを持っていれば導かれるよう印をしておこう。」
かしてたもれ、と言うので受けたばかりの御守りを出して渡すと。
もともと神々しかったその姿に淡く光が増していく。そして御守りに口づけをする。
おぉーコレは何と神々しい・・・
イケメンが眩しくって目が開けていられなくなりそう・・・
そして、先ほどよりも翠様の力が増している気がする。眩しさ倍増・・・?
「これで良いじゃろう。」
きっと、口づけを〜のあたりで普通のお嬢さんだったらコロリと落ちてるのだろうな・・・とか思いながら御守りを受け取る。
「・・・ありがとうございます」
本殿まで辿り着かなかったけれど、目的も果たせれたので、暗くならないうちに帰ろう、と可愛い神使と翠様に見送られながら神社を後にする。
役に立てたのなら嬉しいな。




