117.翠さま
キャイキャイと、笑い声を立てながら神使達が木箱を取り合い境内を駆け回る。
ウェストポーチには小銭財布とみっちゃんから貰った契約金の小袋に小さな工具セットとレプリカを作るためのセット。あと千切れた身代わり護り・・・・・・
「ものすごい力を持つが、破損しているアーティファクトがおらんかえ?」
千切れたブレスレット??
「・・・コレですか・・・?」
小さなジップロックの袋に入れてあるそれを取り出して見せる。
「おぉ・・・」
感嘆の声をあげてそれに見入る翠様
「素晴らしい・・・!触れてもいぬのにこの力・・・!」
いやまぁ例の鎮まれーっていうやつやってないし・・・?
多分ものすごくひかってみえるのか・・・な・・・?
「是非それを───奉納してたもれ!!」
奉納って・・・・・・
9本ある尻尾を震わせ高揚する顔。
側から冷静に見たら色っぽいのだろうと思うのだが。
なんだろうこの既視感は。
何故だろう目の前の超絶美形な御狐様が瞬時にしてまたたびを嗅いだ猫のように思えてしまうのは。
「え、イヤです。」
返答に思ってもみなかった!と驚愕の顔をされ、瞬時にして尻尾が項垂れる様に“面白い”と思ったことは秘密である。
「・・・何故コレなんですか・・・?」
足には2本づつ同タイプのサイズの大きめのものがしてあるのに、千切れたコレを選ぶ理由は・・・
「想い・・・想いの強さが心地よいのだ・・・・・・」
恍惚としたその表情はやはり猫にまたたび。
大吉さんとお揃いのつもりで作ったそれは、確かに私の思いが詰まりまくって垂れ流しになっているだろう。
そうやすやすと差し上げることはできないし───と考えているうち、ある違和感に気がついたのだけど、
「ちょっと待ってもらっていいですか?早くしないと授与所が閉まっちゃう!」
そう。もう1つの目的の御守りと御神籤。
鳩が豆鉄砲食らったかのような顔になる翠さまを、ポツーンとそこに取り残し。
その神社の御神体?神様?を待たせてでもやることかと言われると、そうでもないのかもしれないけども。
この人 (?) は大丈夫、とわたしの感は言っている。
小走りで行った授与所にはおばあさんが1人いて。もう閉める用意を始めているようだった。
「すみません!御守りと石御籤を1つお願いできますか?」
「大丈夫ですよ〜、2500になります。」
よっこらせ、と立ち上がり達筆な筆文字で石御籤と書かれた木箱を、中から1つ選んでくださいねー、と言いながら台の上に乗せてくれる。
「おんや・・・今日は何か特別な日だったかいねぇ・・・?
御神体の翠様が境内におられる」
「・・・特別な日だけに現れるんですか?」
「ここ数年は、特にそうだねぇ・・・。何故か特別な行事の日にしか顕現されなくなってしまって。
あの美しいお姿が拝める日はそりゃ〜沢山の人が訪れるんよ〜?」
顕現回数が減ってるのって、やっぱりさっき気づいた違和感と関係あるのかな・・・?
「昔はよく歌あいにも突然参加されてねぇ〜
その素敵な声に若い娘たちが酔いしれたものよ。」
にこにこ少女のような笑顔でお話ししてくれる。
きっとこの方もその中の1人だったのだろう
「今も歌あいは定期的に行われているけれど・・・まぁ人数は減ったわね。御姿だけ拝みにくる“にわか”が減ってスッキリはしたけれどね!」
嬉しそうに話してくれるその内容からも、大事にされ、大事にしているのだな、と感じて自分のことではないのに嬉しく感じた。
「そうなんですか・・・コレでお願いします。」
箱の中から1つの小さなポチ袋を取り出して渡す。
「はいよ。」
よっちゃんのお店でお釣りを細かくしてもらってよかった、と。ちょうどの金額をお渡しする。
「お嬢ちゃんが翠様とお話ができるなら、ゆっくりしていっておくれ。もともとは派手好きの賑やかな祭り好きな神様だから。」
派手好きに祭り好き。たしかに、女性にちやほやされている姿が目に浮かぶ。
苦笑しながら善処します、と言い翠様の所へ戻る。




