112.みっちゃん喫茶
「とりあえずお冷だ。飲んどけ。どっからか歩いてきたんだろ?」
あまりに眩しいので、なんとかみっちゃんなる人の顔が見えるくらいまでアーティファクトの光が収まるよう念じてみると、なんとか成功したらしいが・・・。
脳内補正されて見えてた雰囲気に間違いはなかったようだ。
「サンキュー」
「ありがとうございます。」
お礼を言いながら、コースターの用意された店のほぼ真ん中に位置しているだろうカウンターの中央のところまで行く。
「みーばぁが元気そうで何よりだ。今回は護衛の仕事で“なごや”まで来たんで、寄らせてもらったよ。」
お冷を置かれた所に座りながら大吉さんがそういうと
みーばぁはこちらも見ずに着々とコーヒーの用意をしながら答える。
「仕事じゃなくてもたまには顔出しな!大事な金づるなんだから」
そう言ってニヤリと笑うと金歯が眩しかった。
眩しい金歯もだけど、気になってしょうがないのだけれど・・・この店至る所にアーティファクトが。
天井から垂れ下がる、カウンターの向こうとこっちを分けているカーテンの所々からもアーティファクトの気配。
よく見ると店の入り口からは見えない1番奥の方にアーティファクトの並べられたスペースがある。
大吉さんの店ほどの規模ではないけれど。
「んで、なんだい。嫁とった挨拶にでも来たのか?」
「「ぶっほ・・・・ゴホッゴホッ・・・」」
2人とも口につけていた水を少し吹いてむせた。
「・・・違うよ。最近知り合って少し行動を共にしはじめた所だ。」
備え置かれていた紙ナプキンで吹いた部分を拭きながら言う大吉さん。
同じように自分の所を綺麗にしながら軽く自己紹介する。
「藍華と言います。よろしくお願いします。」
コポコポと良い音が聞こえはじめ、もう少しでコーヒーが出来上がることがわかる。
漂ってくる香りも、とても良い。
チラリとこちらを見て、
「なかなか良い子を見つけたじゃないか。」
「・・・」
ゴクリといただいたお冷を飲み干し、
「・・・じゃ・・・ないんだが。。。」
ボソリと所々聞き取れないような音量でそう言って口を左手で覆う大吉さん。
か。。。顔が見れない。。。。
胸が痛い。
「で、お前さんその手に付けてるやつはどこで手に入れたんだい?」
カチャカチャとコーヒーカップを用意しながら言う。
「すごいだろ?」
ニカっと白い歯を見せながら言う。
「そんじょそこらの神社や寺じゃ手に入らないようなレベルじゃないか。。!!売っとくれ」
「やーだよ。コレは売らんぞ?今1番大事にしてるやつなんだから!」
そのセリフにさっきの心痛掻き消えた。ような気がする。
「ちっ・・・」
テレテレしてる場合じゃない。
「あの。。。それには劣ると思うですが。。。よかったらコレはどうですか・・・?」
そう言ってドキドキしながら大吉さんに言われて持ってきたソレをウェストポーチから出す。
小さな巾着をカウンターの上に乗せると。。
「まさか・・・お前さんが作ったのかい?!」
カウンターに身を乗り出して近づいてくるみーばぁさん。
思わずのけぞるが椅子から転げ落ちることは免れ返事をする。
「はっ・・・はぃ・・・!」
「ものすごい光だね・・・」
自分には他のアーティファクトよりは強いかな、程度にしか光って見えないのだけれど。。
「そんなに光ってますか。。。?」
「ったく、これだから無自覚の作り手は恐ろしいねぇ!!中を見ても?」
褒められてるのか何なのかワカラナイ。。いや、ダメなんだということはわかるんだけど。。。
「もちろんどうぞ・・・!」
そう言いながら気がつく。発動していないアーティファクトの光が見える。。。ということは。。。
「あの、みーばぁさんも心眼が使えるんですか・・・?」
袋を開き、カウンターの上に練習で作ったブレスレットが5本を並べる。
「私のことはみっちゃん、とお呼び。なんだい大吉、話してなかったんかい?」
カウンターの下から何かを取り出しながら言う
「あんまり人前で心眼のことを言うもんじゃないよ?変な新興宗教に狙われたくはないだろう?」
新興宗教て。ここにもそういうのあるんだ。。。。。
「はぃ。。。みっちゃん。」
取り出したケースの中から眼鏡を取り出してかけてブレスレットを1つづつ見る。
「眩しすぎて、見えなかったが。。。
コレは習作だろう?それでいてこの光具合。。。
お前さん、アッチから来た者だね。。?」
かチャリと眼鏡を外しケースへとしまう。
「・・・!・・・」
大吉さんを見ると、だいじょーぶだいじょーぶ、と手を振っている。
「どうりで・・・クゥと似たような雰囲気なはずだ。」
みっちゃんもクゥさんと知り合い!
「加えてこの習作の持つ力。クゥと同じ職だね?」
ハンドメイダー、ということならば確かにそうだけど。
「ハンドメイダーという点は同じですかね。。。?
レベルはクゥさんの方が随分上ですけど。」
「よくはわからないが。。。
そっちから来た人間は皆欲求不満か何かか?」
欲求不満て。
「物を作る時に込める思いがはんぱないねぇ。。。
ろくに自分の意見を外に出したりしないんだろう?多分」
思い当たる節はいっぱいあるなぁ。。
上から言われたことは絶対の。イエスマンしか許さないような社会、会社。
お客様は神様で、踏みにじられるサービス業に従事する人達。
人は不満を表に出す人々と出さない出せない人々に分かれ俗に言う“話し合い”などうわべのもので。
「お前・・・」
「藍華です」
あちらのことを色々思い出しながら、名前をもう1度伝える。
「藍華はクゥより中に篭ってる感情が大きそうだ。」
どこか優しげに言うと、
「このままじゃその種の奴等に見つかったらまずいことになる。」
「そこまで凄いのか。。。?」
「お前はまだろくに見えんのか!修行が足りん!!」
しばかれるような勢いで言われる大吉さん。
シュン、と少し小さく見えるその姿に胸がきゅんとする。




